もう会わないと言うと、みちにとって最善じゃないことを全力で演説される。そして否定されていった。結局、前と変わりない日常に無理やり連れていかれるハメに。必死に止める私に、俺を思うなら元通りにして。と言われるともう何も言えなかった。みちは、それでしんどくないのだろうか。 「いや自意識すごいな。未だに俺が好きやって思ってる顔やん。」 「えっ」 「アハハ図星」 ポテチの咀嚼音が邪魔をする。その主はソファに座って、私の飲み干したチューハイの缶を集めている。昔の、図々しさMAXの私だったあの頃よく見た光景。もうあれから半年は経つ、そんな合間も結局よく会っていた。そんな現在、あの頃とはまた違う、友情…をしている。一度縺れた関係は、彼によって解かれた…らしい。たぶん。 「半年ですよ。結構経ったで。」 「そうですよね。自意識ババアを素通りしてください。」 「むしろ踏み潰していくわ。」 「反抗期超えて狂気の域…!!」 「まぁ、彼女3人は作るわ。あー抱くだけ要員は別で」 「やめろやめろ。無理がある」 アハハ!と屈託なく笑う顔を、信用しきっていいのか未だに分からない。でも、追及して解決することが、全てだとは限らない。触れないでおくことも、また一つ正解だと今なら思える。 「名前ちゃんさ、俺に彼女いないって本当に思ってる?」 「え。うん。みち器用じゃないし、上手いことできないでしょ」 「いや成長してるからなぁー。分からんで。」 「いや、みちには出来ないね!300円賭けるよ。」 「いや300円かい。そこは300万とか言うてや」 「えっ300円馬鹿にしてる…?お酒2本買えるよ…?!」 「いや基準がさ。うん、のんべえやねんて。もっとこう…」 自分なりの可愛いの定義を必死に話す姿は、やっぱり構ってちゃんのゴールデンレトリバーだ。分かった分かった、と言いながらぐしゃぐしゃにみちの頭を撫でる。結局、可愛いが勝って愛でてしまうのだ。…もしかして、ある意味絆されてるのかもしれない。 「あーもうぐしゃぐしゃやんか」 「いや大丈夫十分かわいい。」 「目がマジで怖い。もう酔っ払いは寝てください。」 「いや序の口「寝ろ?」 「はい…」 そう呟いた数秒後、意識が落ちていることに気付かない。みちはいつも、私より私の限界を知っている。ある意味怖い。でもって毎回、煩い物音と焦げ臭い匂いに起こされる。 「みち……くさい」 「あっ名前ちゃんおはよ。臭い?何も焼いてへんねんけどな…」 「パン…匂うよ」 「パン…あ、ロールパンや忘れとった!」 トースターを見に行く後ろ姿に、毎回バカだなぁと思う。けれど、焦がす理由を知ってしまったから。それが可愛くて愛おしいので、いつも焦げた何かを食べたい。二度寝する理由も同じで。 「あっまた寝るやん。早いねんて」 「んー…」 「……ま、いっか。寝てる時が大人しくて可愛いもんな」 頭を撫でられる感覚が、夢と現実の狭間で離してくれない。でもそれがちょうどいい、みちがぼんやり分かるから。 「また何か焦がしてまうでー…、名前ちゃーん…」 なら離れればいい、と思うんだけどな。でもまぁ、どうしてもって言うなら。今日も焦げたロールパン、食べてあげてもいいけど。…なんてね。 12回目の黒焦げカウンター/2023.3.10 |