「この間はごめん!!お詫びの特上寿司!!」
「…もー。心配したんやで。」

ゴメン!!と全力謝罪の名前ちゃんを出迎える。俺の隣を通り過ぎる香りは、いつもと同じだ。部屋に消えていった後ろ姿を見つめる。

あの日、"蓮"…と呼ばれた男が電話に出た日。名前ちゃんは家に来なかった。それを追求したかったし、その男は誰かとも聞きたかった。でも、俺にはその関係性がなくて。足が止まる。

「みちー?お寿司冷めるよー」
「いや寿司は冷めへんやろ。」

部屋から飛んでくる声に思わず笑う。小さく零れた言葉は、笑いと混ざって落ちた。…ねえ名前ちゃん。あの人は友達じゃないよな。…前の彼氏?喉でつかえた言葉は、俺と同じように萎んで消えた。炭酸みたいだ。




「みちちゃん好きなもの食べよし〜」
「食べてるって。…な、ペース速すぎやって」
「…いたたまれなくて酒に逃げる絵図?」
「いや正直やな。許してまいそうになるやん」

許せよ!!と笑って早々に酔っ払う名前ちゃん。家主の俺を差し置いて、毎回テレビの前を陣取る定位置が似合う。ホント、家にまで住み着き過ぎてる。でもそれが嬉しくて、でももどかしい距離感で、けれどそれで良いと念押ししたのは俺で。全部俺のせいなのに、名前ちゃんのせいにしたくなる。自分勝手だ。

机がいつものように空のチューハイ缶で溢れてくる。それを集めながら、こんなお節介を焼くのは俺だけがいいと思ってしまう。…病気か。

「もう5本も飲んでんで。許すから控えて。」
「ゆ…許す…?」
「うん。もう怒ってへんから。」
「みち〜〜〜〜」

ありがとうと泣き真似をしながら擦り寄ってくる。いつも年上だって忘れるぐらいアホだし、でも外では出来る風女子で通ってるし。でも俺の前ではそうじゃないのが可愛くて。もう何年経てば友達になれるのか分からない。名前ちゃんにその気がないなら、この距離感を何とかしてよ。と思うけど嬉しいから離したくなくて。堂々巡り。この人は人を振り回す天才だ。…いや、振り回されたいと思わせてくる天才。頭を撫でると目が半目になっている。子どもだ。

「眠い?寝る?」
「…寝ない。明日仕事だし。」
「アハハ。いつも逆言ってくんのなんでなん?」
「みちは明日お休みじゃん…。」
「いや俺も仕事やって。」

アレ?と首を傾げる名前ちゃんはやっぱりアホだ。明日はド平日で休みなわけないのに。…もしかして誰かと間違えてるのかとモヤモヤしたけど、一生懸命笑って見ないふりをした。もう二年目にもなれば余裕…は嘘だけど。顔面を拭かれ待ちの名前ちゃんが見える。彼女いない家で拭くだけコットンを常備してんの俺ぐらいじゃないか。

「一応聞くけど、顔洗う気…「ない!みちくん!」
「お肌が泣いてんで…。」
「えーねんで…。さあ来い」

ソファに横になる名前ちゃんは、無防備過ぎていつも理性が詰まる。何度その小さな口を塞いでしまいたいと思ったか。でも触れて良いのはコットン越しだけ。そんでさ、この会話二年前もしたんだよ。覚えてる?…覚えてないやろなぁ。何年目になろうが、この役目は俺で居て欲しい。もう失笑すら出ない。

「名前ちゃーん…?」
「……起き…てるぞ……」
「アハハ。寝てるやん。」
「お顔が…すがすがしくて…!」
「はいはい。寝ててください。」

化粧を拭き取った肌に薬指が触れた。好きだよ。隠し切れてないね。


募らせてパンチ/2023.8.17
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