お散歩が終わると買い物に移行。夜ご飯を一緒に作るのだそう。スーパー近くまで(化粧を直したりするので別々の)ロケ車で向かって、いかにも歩いてきました感を出しながら撮影再開。

「何作ろっか…食べたいもんある?」
「駿くんは?育ち盛りだし」
「また子ども扱いして。…でも唐揚げがいいな」
「アハハ。唐揚げいいね、作ろ作ろ」
「でも俺料理できひんねんけど…」
「うん私も似たようなもんだよ…」

なんて無言で視線がぶつかる。まぁ何とかなるやろ!と謎に明るい駿くんの声に引っ張られて、スーパーの中に入る。カゴは持ってくれていて、携帯で唐揚げのレシピを探しているらしい。

「鶏ももと…、片栗粉…」
「鶏肉ならあっちにあるよ」
「あ、ほんまや行こ」

本当に私達で作って食べるシーンまで撮影するらしいので、結構大変だ。私料理得意じゃないけどいけるか…。でも最悪こっそりスタッフさんが手伝ってくれるか…と思いながら、道枝さんと鶏ももの量であーだこーだ言ってカゴに投入。どんだけ食べるねんて。あとはサラダと、お味噌汁と、なんか一品あればいいよな。と鮮魚コーナーをうろうろ。不意にタコと目が合う。

「あっ、タコとわかめの酢の物とかどう?」
「おっいいね。美味しそう!それにしよ」
「よかったー。今さ、タコと目が合って。」
「えっ?なにその決め方」

アハハと笑われて、何で笑うの!?と言いながらタコをカゴに入れる。ちょっとツボに入ったらしく、手を叩いて笑っていた。笑いのツボ浅くて助かる…。関西バンザイ!わかめやら色々カゴに入れると、結構な量になってしまった。でも道枝さんは重そうな表情を一つもしてなかったので、やっぱり男の子だなぁと思ったり。

ロケ車で移動中、前に座ってる道枝さんは熱心にiPadで動画を見ていた。後ろから覗くと、ダンス動画のようだ。次の新曲の振り付け…だろうな。邪魔しないでおこう、と思って身を引くも、逆に気配を感じ取られてしまったらしい。

「わっ、ビックリした」
「あっごめんなさい邪魔しちゃって、」
「全然大丈夫です。気になります?」
「あー…、うん。何見てるのかなって」
「次の新曲の振り付け。結構難しくって…。見る?」
「え。いいの?」
「内緒な。」
「もっちろんです!」

再生中のiPadを貸してくれて、動画を見るも音楽が流れてないのでいまいちピンとこない。そんな表情に気付いたのか、あっごめん忘れてた、と自分が耳に付けていたAirPodsを差し出してくれた。お礼を言って借りると、次の新曲であろう曲が流れてきてしっくり。誰が踊ってるのか分からないが、きっと振り付けの先生だろうな…上手いなぁ。

少しして、振り向いたまま私を見ている道枝さんにAirPodsを渡す。どうだった?と聞いてくれる彼に、難しい顔をプレゼントした。

「…難しくない?」
「アハハ!だよね、今回ちょっとむずい」
「これいつまでに覚えなきゃなん?」
「来週頭まで。結構ヤバい。」
「えっなかなか。…あ、じゃあ唐揚げ私作っとくからその間に」
「いやいやいやさすがにそれは!」
「ディレクター様。いかがでしょうか。」

チラリと目をやると、微妙そうな顔をしていたが何かひらめいたようで。仕事する駿だけど、料理する名前が心配になって結局手伝っちゃう。っていう流れになった。…まぁ、なんかアレだけど私本当に料理下手だしね。車中で軽く流れを再確認して、家に入るところからカメラが回り出した。

「駿くん、私ちゃちゃっとご飯作っちゃうよ」
「…え?俺…」
「いや、仕事溜まってそうだったからさ。」
「あー…。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。」
「分かった!じゃあ、ヤバイと思ったら呼ぶから来て欲しい。」
「え〜…?名前ちゃん呼んでくれるんかなぁ」
「呼ぶ呼ぶ!やから大丈夫よ」

ちょっと疑いの目を向けられながら、リビングのソファにあのiPadと共に道枝さんが座った。私は、キッチンで買い物袋から食材を控えめにばらまける(いつもの癖)。…その音に気付いたのか、

「大丈夫?」
「全然!今食材並べただけだよ。」
「…結構ゴロゴロ言うてたけど…。」
「え?」
「あ、いやなんでもないです。」

お黙り小僧。ぐらいの圧のある微笑みでねじ伏せました。とりあえず出来そうなものからやろう。副菜達…!音を出すと夫役がやってくるので極力静かに料理。副菜は出来る自信がある。ただ……

「唐揚げ……」

大きい方が美味しいのは分かってるけど、どこまで揚げたら火が通ってるのか分からないので…小さめに切っている自分に笑う。だってこれ、道枝さんも食べるんでしょ…!?と思えば思うほどちっちゃくなる鶏肉。おどおどする姿を撮られたくはないが、その形にカメラマンさんも笑ってるの見えてる。

「これ、油…熱しとけばいいんだよね…。」

テレビ用の独り言だったはずが、リアル独り言が出てくるのつらい。味付けして片栗粉つけたこいつを揚げたらいける…!と油に投入するも、勢い余って跳ね返ってくる油。あっち!!!と本気の擬音語だったので色気のない声が炸裂。

それに気付いた夫役だろう、焦って駆け寄ってくる足音がする。我ながらドベタな展開を作り上げてしまった(自然に)…。

「なに火傷した!?」
「あ。ううんごめん…うるさかった」
「全然やって。てか呼んでよ、大丈夫?」
「大丈夫…。ごめん揚げ物手強くて」
「あっこれ俺やってもいい?」
「えっ?」
「やっぱり一緒にやりたいやん。…て、言うてももうほぼやってもらってるけど」
「でも駿くんさ…料理…」
「名前ちゃんと一緒なら出来る!…はず。」
「アハハ。ありがとう、じゃあ駿くん応援してくれる?」
「あかん。危ないから俺がやる。」

入れるだけやんな?と鶏肉を箸で掴んで、鍋の中で熱された油に目をやる。料理できひんくせに、と思いながら頑張ろうとする道枝さんが可愛い。結局二人でアチアチ言いながら鶏肉を揚げた。火の通りが怖くて揚げすぎたりもしたが、その後一緒に食べたご飯はなかなか美味しかった!撮影後も美味しいと頬張る彼に胸が温かくなった。


2022.7.28
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