そのままみちの家に帰って、いつものようにお酒を飲んでゲームして。普段通りなはずなのに、節々に感じる違和感。物理的に距離間が近くなっている…ような気がする。隣に座っても絶対の30pがあったのに、それが皆無。朝起きたときだってソファに寝ていたけど、みちが私のお腹に頭を乗せて寝ていた。なぜか手も握られていて、看病でもされてたんか……?と謎の距離感に顰めた眉が戻らなかった。でも、気付いてしまった。


「あ、名前ちゃん」
「うぇ……?」

そんな謎距離感から二日後。帰宅しようと会社から出ると、道端に立っていたらしいカジュアルスーツワンコが近寄ってくる。隣でニヤニヤが煩い藤と目が合う。

「ちょ、お前……。」
「その顔やめぇ煩い」
「え、やば。めっちゃおもろいやん。…えぇ!?」
「藤の思ってるような関係じゃないぞ。シャラップ。」

とか言ってあれやろ、なんて鬱陶しい藤の肘ツンツンを叩くときにはみちが目の前に来ていた。ちょっとムッとした表情をしている。…いやどうした。

「帰ろ。ご飯行く約束やろ」
「ン……?そんな約束してな「すみません失礼します」
「えぇ…?藤バイバーイ」
「ププッ…はよ行ってまえ」

半ば強引に連れていくみちと、されるがままの私と、ニヤけ顔が止まらない藤のお手振り。明日絶対言われるやつ…と思いながら不機嫌大型犬のリードを持った。居酒屋街でなくスーパーにそそくさと入って行く背中がかわいい。

「私らスーパー行く約束してたんだ?」
「…別にええやん。文句ある?」
「アハハ。ないない。でも会社まで来てどした?」
「……別に待ってたわけちゃうし。たまたま通り掛かっただけ」
「へぇ……?」

自意識か、と突っ込まれるもみちの職場の近くでもないし帰り道でもない。多分待ってたんだろうな、と安易に想像がつく。手に持っていたカゴを取られて、好きなもん入れたら?と素っ気ない態度。思わず零れる笑みが、自分らしくなくてなんだかむず痒い。

「えぇ!もしかしてみちちゃんが買ってくださるの?」
「……まぁ?最近出してもらってばっかりやったし。」
「まっじっかっ!じゃああれやっていい?棚の端から端までチューハイ買「飲める量だけや。」
「えぇーーけちぃーー」

なんて言いつつ、なかなかの量の缶チューハイをぽいぽいカゴに入れる。それでもみちは呆れて笑ってくれる。上の棚のお酒も気になって、背伸びして手を伸ばしたとき。後ろから長い手が伸びて、それを取ってくれる。振り向くとすぐ後ろにみちがいて、やっぱり距離間のバグを感じる。

「これ?」
「……あ、うん。それ」
「ん」

そんな距離間を何事もなかったかのような表情、で、なに?と首を傾げるみちにちょっと腹が立つ。私だけ?と思うも、たった30pが気になる私がどうかしてる。前までならそんなこともなかった。そしてその距離に、不快感がないことも。会計が終わって帰り道、当たり前のように車道側を歩くみち。車が通って近寄ってきた彼の腕がぶつかる。

「……ねぇみち」
「ん?」

目線を合わせることもなく、前を見たままのみち。ぶつかって触れた腕はそのままだ。

「この前から思ってたんだけどさ…距離感おかしくない?」
「え?そう?いつもと同じやろ」
「……どうした?」
「いや名前ちゃんがどうした。」

やっと降りてきた視線と合うと、笑いながら眉を顰めるみち。器用か。なんかむしゃくしゃして身体ごと軽くぶつかってみる。少しよろけてしまうのがこのゴールデンのかわいいところ。小さく笑っている表情が伺える。

「…いやなに?」
「別にぃ?何でもぉ?」
「言い方うざ…。端から端までお酒買ったやん」
「正確には端まで買わせてもらってないしぃー」
「ほぼほぼ入れてたやん!持てこの(袋の)重さを」
「か弱いからムリー。ガリガリワンコ頑張れ!」
「飼い主の酒代が高すぎて俺のエサ無いからや」
「なにぉ!?草ばっかりっっ食べさせてやろうかっっっ」
「あースルメイカね」
「……いや脳内読み取られてるの怖。」
「飼い犬なんで。」

ドヤって飼い主の肩に腕を回してくる犬。身長差がちょうどいいのか腕置きにされてる気分だが、みちの表情が呆れるぐらい可愛くて反論が消えた。この距離感を不快に思えない私も、多分どうかしてる。…ムカつくから絶対言わないけど。


30pの主導権?/2024.1.12
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