シロツメクサの指輪
気分転換の散歩の時に思い出した春の思い出をひとつ。
紫呉の家は小さな山の中に建っている。はっきりとした理由はわからないけど、なるべく人との接触を回避するためだと思う。少し不便に思う時もあるけど、私は結構気に入っている。
その日も呼び出され、家に来ていた。平日の昼で紫呉以外は誰もいないと言うことで縁側から庭先をぼーっと眺めていた。ちなみに紫呉は仕事中(やる気はないみたいだけど。)
『こうやって見ると…結構いろいろな花が咲いてるね。全部自然に育ったもの?』
「僕が花を枯らさずに育てられると思う?」
『……絶対無理だと思う』
自分の生活スペースすらまともに確保できないような人。絶対に無理だと心から思った。余談だけど、たまに私が片付けたりする。だけど次来た時には元通り…なんてことはよくあるので、最近は放置している。
近くで見たくなり、縁側から庭先へと出た。小さな花が多い…花と言うより野草だけど。そこで好きな花のひとつを見つけた。
『あっ、シロツメクサ!…四葉あるかな』
「四葉のクローバー?そういう所は乙女だよねぇ、百合ちゃんは。見つけたら幸せなれるとか思ってそう」
『うるさいなぁ…気休めでもいいから、そういうの欲しいの』
「この世知辛い世の中、夢見がちなのは良いことだと思いますよ〜。限度があるけどね』
『いちいち言葉に棘ありすぎ…。たまには目を逸らしたくなる時は誰にでもあるものだよ、きっと』
「”たまに”ねぇ…百合ちゃんは常々逸してるように見えるけど」
あいかわらず嫌味は絶好調なようで。言葉は聞かないふりして四葉を探していた。そう言えばシロツメクサで冠作ったりしてたなぁ、なんて小さい頃を思い出した。今はもう作り方忘れたけど。
『なーいー…。こんな探してもない』
「どうやら幸福は訪れなかったみたいだねぇ。……って、普通にここにあるけど。ちゃんと探した?」
いつの間にか仕事を放置した紫呉が隣に立っていて。あんなに必死に探してた私とは正反対にあっさりと見つけていた。
『ええ…なんで…!?だって、どこにもなかったよ!』
「つまり君は目の前の小さな幸福にも気付かずに、無いものねだりばかりしてる馬鹿な子ってことだよ。はい、これあげるから機嫌直そうね」
紫呉に四葉を渡されたけど、なにか腑に落ちない。しかも図星も当てられて、子供っぽいとは思うけど上手く機嫌を元に戻すことができなかった。
そんな私に隣の紫呉はため息をついた。「しょうがないなぁ…」なんて言いながらシロツメクサをひとつ手に取って何か作っているようで。それもすぐに終わり急に私の左手を掴むと薬指に”それ”をはめた。小さい頃に冠と一緒に作ったことがあるからわかる。シロツメクサの指輪。
「はい、これもあげる。だから早く機嫌直しましょう。……って、もう直ってるみたいだね。顔にやけてるよ」
『そっ…んなこと、ない…』
「本当に扱いやすい子だなぁ、百合ちゃんは。そんな子供騙しで機嫌直して、単純な子」
『…………うるさい』
否定の言葉が見つからない。だって紫呉が言ったことは事実で、貰った指輪と四葉を見ただけで顔がにやける。きっと私の機嫌を直すためだけの、特に何の意味の込められてないもの。でも私にとっては忘れられない、大切な宝物になった。
シロツメクサの花言葉は『約束』。意味のない指輪だってわかってるけど、花言葉通りの意味が込められていると願っている。