父が亡くなったのは、俺が生まれるちょうど半年前、父が二十歳の頃だったらしい。鬼殺隊の任務途中に強い鬼に会って、戦った末に死んだと、母が教えてくれた。お願いだから鬼殺隊には入らないでと言われたのは、きっと父の時と同じ思いをしたくなかったからだろう。父と似ているらしい俺を失うのが怖いのだ。
父を知っている誰が見ても、俺は父と瓜二つらしい。宇髄さんという父の同僚には「小さい煉獄」と言われるし、竈門さん、我妻さん、嘴平さんという父の後輩にあたる人たちには、俺が姿を見せただけで号泣された。目と髪の色が父と同じだからだと思う。母は太陽みたいな色できれいだと言ってくれたけれど、俺は父を見たことがなく、仲間外れにされているような感じで、その時だけはいつも父のことが嫌いになった。
けれど、俺は父のことを立派な人だと思う。宇髄さんたちの話を聞いているとそう思うのだ。とても強い剣士で、たくさんの人を守ってきた。それで自分が傷つくことになろうとも、誰かを守るために鬼をたくさん斬ってきた。けれど少し行き過ぎたところがあったようで、禰豆子さんが鬼だと知った時、鬼は滅すのが理だと斬ろうとしたらしい。それはさすがにやりすぎだと思う。私もそう思うわと、母が笑った。
正義感の強い人、誰からも慕われる人。会ったこともないけれど、そんな人だと思う。それでも母は、父のことを普通の人だと言う。立派な人だとは一言も言ったためしがない。

「馬鹿な人よ、あなた」
突然そう言われたので驚いて振り返ると、珍しく母が酒を飲んでいた。
「自分の息子にも会わないで、何を勝手に死んでるの」
俺のことを父だと思っているらしい。なんだか複雑な気分だ。自分のことではないのに怒られているような。
「みんなはあなたを立派な人だと言うけれど、私はそんなこと一度も思ったことないわ」
曰く、人を守るのはいい、それで傷つくのも構わない。鬼殺隊士の妻なのだから、心配をかけてもいいのだ。けれど、生きて帰ってこないのは絶対に許さない。そんな生き方は決して立派とは言えない。誰が何と言おうと、あなたは普通の人で、私を不幸にした嫌な男なのだ、だそうだ。
母さん、と声をかけるのは少し気が引けた。だから名前で呼んだ。母が顔を上げる。
「ええと……すまない」
「許さない」
ああ、これは。やってはいけないことをした気がする。けれど、それを言った切り、母は横になって眠ってしまった。起きた時に忘れているといいのだけれど。そう願いながら、掛け布団を運んできて母にかける。彼女を頼む、と。聞いたことのあるようなないような、優しい声が聞こえたような気がした。