「今帰った」
「おかえりなさい」
声の主を玄関まで迎えに行く。夫の帰りはいつも9時前後。学校の先生をしている。今日はいつもより少しだけ遅く、なんだかくたびれた様子だったので、何かあったのかと聞くと、帰りの渋滞がいっとうつらかったと話す。何となくあそこかと予想。私も遅くまでバイトをしていた時に捕まっていた。
「ご飯温めるからちょっと待ってて」
「ああ、ありがとう」
さつまいもが安かったから買ったことを話すと、味噌汁か、と返ってくる。そんなに嬉しそうにしなくても。「そう、早く着替えて来てね」なんだか子供に言い聞かせているみたいな気持ちだ。


食事を済ませた彼にお風呂を勧め、私は晩ご飯の後片付けをする。やはり君の作るご飯が一番美味いな、だって。思わずふふふと笑ってしまう。ありきたりな言葉だが、嬉しいものは嬉しい。
皿を全部洗い終わったところで、お風呂場のドアが開く音が聞こえた。相変わらずめちゃくちゃ早い。私なんて30分くらい入っているのに。ドライヤーの音が聞こえて、そういえばそろそろドライヤーの収納を買おうかと考えていたことを思い出した。明日買い物ついでに見てこようかしら。
「まだ起きていたのか」
「お皿洗ってたの」
「明日でもいいだろうに」
「明日は明日でやることがあるから」
「買い物か」
「ついでにドライヤーの収納も見て来るつもり」
「うむ、それはいい」
おしゃれなのがあったら一度相談するから、と言うと、分かったと返ってくる。時計はそろそろ真上で重なりそうだ。


「初めて会った時の話なのだが」
電気を消そうとすると、彼が口を開いた。初めて会った時、なぜだか私を知っているような気がした、と彼は言う。どこかで君を愛した気がするのだ、と。だから私を選んだのであって、愛おしくてたまらなかったのも私が私だったからだ、ということらしい。何よ、それ。私を好きなのは私が私だからと言われているみたい。顔に熱が集まってきて、彼から顔を背けた。こんな顔見せられない。「照れ屋は相変わらずだな」うるさいわよ。
「要は前世ってこと?」
「おそらくな」
「でも前世で恋人同士だった人たちって、生まれ変わったら兄弟になるって聞くわ」
「そこは神様の粋な計らいだろう。俺と君がもう一度結ばれるようにしてくれたのだろうな」
そう言って彼は、ふわりと笑って私の髪を撫でた。まさかこの人から神様なんて言葉が出てくるとは思わなかった。あまり関係のなさそうな人なのに。いい神様ね、と私が言うと、そうだなと返ってくる。
少し肌寒くなってきた頃の12時すぎ、電気を消した部屋の中で左手の薬指がきらきらと光る。神様、この人と出会わせてくれてありがとう。

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