俺の恋人がいなくなった日1


夢をみた。いくつか前の私の夢。女の子で笑いながら友人と歩いている私。そこにトラックが突っ込んでくる。私はいち早くそれに気が付き友達を突き飛ばして助けた。もちろん私は逃げれるわけもなくそのまま轢かれて死んだ。ぐしゃくじゃになった私のところに走り寄ってきて大泣きしながら私の名前を呼ぶ友人。嗚呼泣かないで、怪我は無いかな、君が無事で良かった、そう言いたいのに言えない。

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夢をみた。いくつか前の私の夢。大切な人達がいた。その人達は兄妹で私の幼馴染みでいつでも一緒だった。前世の記憶を持っているという時点で混乱しまくって今考えると結構恥ずかしい傷心を優しく包み込んで癒やしてくれるような人達だった。ある日その人達と旅行にいった時に泊まった宿が火事になった。木造の宿だったからか火のまわりが早くそれでも命からがら逃げ出した。同じく逃げ出せた幼馴染みの兄の方と合流したが妹の方はまだ逃げ切れていなかったようだった。それを聞いた私は戻ろうとする兄を引き止め代わりに助けに行くと言い水を被り燃え盛る宿の中に飛び込んだ。なんとか火を避け怯え縮こまっていた妹を見つけ、水で濡れている自分の服を上から被せてから連れ出した。出口まであと少しのところでバキバキ、という嫌な音が聞こえ妹を突き飛ばした。驚いてこちらを振り返る妹に振りかえらずに走れ!早く!と叫ぶと彼女は一瞬くしゃりと顔が歪んでから走り出した。あの顔は泣きそうになる前になる顔だったな、泣かないでほしい。奥に見える出口に走り去る妹の背中に微笑んだ直後に何かに押しつぶされて何も見えなくなった。

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夢をみた。1つ前の私の夢。私は傭兵だった。その世界が世紀末のようなものだったからしょうがないと言えばしょうがない、そんな荒んだ心を癒してくれる存在がいた。妹と弟だった。両親はこの子達が小さい時に亡くなったから実質私が親代わり、私ももう目にいれても痛くないぐらい猫可愛がりしていた。傭兵として任務をこなして家に帰ってきて癒やされる生活、殺伐とした世界でも幸せだったんだ。そんな幸せを壊すように弟と妹が攫われた。私が留守の時に連れ去られたらしい、仲間の静止を振り切り怒りに任せて残されていた紙に書かれていた場所に乗り込んだ。襲ってくる奴らを片っ端から倒し拘束されている弟妹たちを見つける。その傍らには以前任務で倒した男がいた。男は子供たちの解放と引き換えに私の死を望んだ。インカムから仲間がこの場所に着いたことを聞いたがいつ相手の男が子供たちを殺すか分からない状況で仲間を待つ時間なんて残されていなかった。私は迷わず自分の米神に銃を当てて引き金をひいた。何度も死んでいるんだ恐れなどない、自分なんかの命で弟と妹を助けられるなんて素晴らしいことじゃないか。でも死ぬ直前に見えた子供たちの顔を見て少し後悔した泣かせたいわけじゃないんだ。君たちの笑顔を守りたいんだ。

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体をビクリと揺らして起きる。いけないいけない、うとうとして昔の夢を見ていたみたいだ。周りを見渡すと、廃墟黒い服を着た男達がのびていた。そうだ、組織の残党のアジトに乗り込んだんだった。降谷さんは公安だろうか、どこかに電話をかけていたので私は黒服の男達の拘束を確認した。後は公安が来て身柄を引き渡せばおしまいだ、と座り込んで滅多にしない煙草を取り出して一服していた。赤井さん、忘れていったの一本貰いますよ。そんな中何かに気づいた降谷さんが走り出して俺の前に飛んできた。それと同時に銃声2発、飛び散る赤、倒れ込む降谷さん、奥の方でどさりと何かが倒れる音。今、何が起きた、なにが、急いで降谷さんの近くに行き抱き上げる降谷さんの胸から赤いものが出ている、そんな、そんな!やめろ、とまれ、とまれ!!!いくら止めようとしても止まらない血。降谷さんは目を開けない。そんな、私を庇って、いやだ、死なないで死ぬな死ぬな!!!



「―――夢か。」

夢か。嫌な夢だった。最悪な気分でベッドから出て風呂へと向かう。シャワーを浴びながら気持ちを落ち着かせようとするがまだ体が震えている。ここ最近前世の死に際の夢をよく見ていた。毎回大切な人を庇って死ぬ私。その通りだ、そしてそのことを私は後悔なんてしていない。逆に守れて良かったと思っている。でもさっきの夢はなんだ。今世の私の夢、予知夢とでも言うのか。あんな未来があってたまるか、降谷さんが私を庇って死ぬだなんて有りえてたまるか!頭を抱えて座り込み大きく深呼吸をした。少し冷静になって気がついた。私はいつも大切な人を庇って死んでいたが、毎回大切な人がそんな目に遭うのは私のせいなのではないか。いつもこうなるのは流石におかしくはないか。そうだ、私がいるから大切な人達がこんな目に遭うんだ。さっきの夢も警告なのかもしれない。転生なんてありえないことを経験してるんだ。予知夢なんてものもあってもおかしくない。降谷さんは一人であんな敵のところに行くほど無鉄砲ではない、きっと私が一緒にいたからこそあんなところに行ったんだ。私がいなければあんなことは起きないはずだ。
そう考え始めた私の行動は早かった。降谷さんだけではない、大切な人達がこの世界には多すぎる。その人達が危険に晒されるなんてそんなの耐えられない。

その日私は姿を消した。