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「っか〜!まだあるのか!?いつになったらこの書類の山を処理できるんだ!?」
「ははは、降谷さんお疲れ様です。飲みますかコーヒー。」
「ああ、ありがとう。」
「今日を越えたら少し楽になります。頑張りましょう。」
「そうだな。...はぁ。」

あと少しです頑張りましょう、と言う部下に机に突っ伏したまま手を振る。もそりと起きあがってコーヒーを飲みながら深く溜息をついた。あーーーナナシさんの淹れてくれるコーヒーが飲みたい。ここ何日か立て込んだ案件が積み重なり殆ど寝てない上に家にも帰れていなかった。疲れた、日本を守る為弱音なんか吐くわけにはいけないと思っていたが流石に疲れた...身体的に...。このままじゃやる気もでないし気分転換に顔でも洗ってくるかと立ち上がり入り口まで歩くと誰かとぶつかった。

「ああ、すまん。」
「いえ、私も前をちゃんと見ていなかったです。申し訳ない、って降谷さん!」
「えっ、」

ぶつかった相手の顔を見ると驚きながら笑うナナシさんがいた。あー幻覚と幻聴までだなんて俺だいぶキてるなぁ...。幻覚幻聴でもいいから癒されたいとガン見しているとナナシさんが俺の目の下を撫でて眉を寄せた。

「うわ、降谷さん隈酷いな...寝てるか?忙しいとは思うが休息はとっておくれ。体を壊したら元も子もないぞ?それに心配だ...。」
「...え、」
「大丈夫か?どこか調子が...?」
「幻覚が俺に、触った??」
「本当に大丈夫か、降谷さん?」
「あ、降谷さん、幻覚でも幻聴でも無いですよ。本物のナナシさんです。」
「え、風見。あれ?ナナシさん!?」

俺の隈を擦っていたナナシさんの手を取りぐいっと引き寄せ驚いているナナシさんを置いてぺたぺたと触る。苦笑いしている風見をどういうことだと見ると、差し入れしに来てくださったんですよ、と言われた。差し入れ?

「長くなると連絡貰ったから着替えとその他諸々を持ってきたんだ。いつもなら受付に渡すだけなんだけど下で風見さんと会ってね。降谷さんに会っていってはどうか?と提案されたからお言葉に甘えてね。」
「(降谷さんナナシさん不足で荒んで怖かったからな...。)」
「(神かよ風見。今度奢るからな。)そうだったんですか。こんな所で会えるとは思っていなかったので驚きました。」

あーーーナナシさんだーーーもうなんかもう癒されるーーーはーーー抱きしめたいーーー。でも部下の前でそんなことはできない。生殺しかよ...。

「降谷さんナナシさんと休憩取ってきたらどうです?休み無しで根詰めていたので...。」
「か、風見、だが、」
「仕事なら任せてください。それに休息を取ったほうが効率も良くなります。」
「(神かよ風見)分かった。ナナシさんお時間大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。」

じゃあそれでは、と言い中に入ろうとする風見に少しの間任せた、と言ってから笑顔で頷くナナシさんにも差し入れ諸々の感謝を述べるとナナシさんは気にしないで、と言いながらにこにこと笑ってくれた。うん、癒しだ。荒んだ心が潤っていく。

「さて、では行こうか。」
「ん?どこにです?」
「?仮眠室だよ?すまないが案内してくれると助かる。」
「か、仮眠室!?」

***

まさかのお誘いにドギマギしながら仮眠室へと案内した。中へ入るとナナシさんに手を引かれベッドに座らされそのまま覆いかぶさるように押し倒してきた。いや、そんな大胆な!確かに久々に会えたからといってここは職場。凄く凄ぉく期待はしていたけどやっぱり駄目だ。う、うう...。

「ナナシさ「さあ寝よう。」...え?」
「折角休みを貰えたんだ。その隈をなんとかしよう、男前が台無しだぞ?」
「あっ、仮眠室ってそういう...寝るってそういう...。」
「?仮眠室は寝るところだろう?さ、目を瞑って。」

そう笑いながら俺に布団をかけて横に寝転び一定の速度でぽんぽんしてくるナナシさんに苦笑する。駄目だ、舞い上がりすぎて頭お花畑になっていた。そりゃそうだ、ナナシさんがこんなことするわけがない、しかもこんな場所で。でも、この添い寝もいいな。子供扱い感半端じゃないけど...ナナシさん年上だけどそんなに歳変わらないよな?横になり一定のリズムと心地よさに急に睡魔が襲ってきた。まだナナシさんを堪能したかったんだけどな...。なんとかおやすみなさい、と言えば優しい声色でおやすみ、と返ってきてなにか柔らかくてあたたかいものが額に当たった気がした。

「おやすみ降谷さん。良い夢を。」