あむぬいくんがやってきた日


面白くない、実に、じっつにおもしろくない。俺の目の前には得体のしれないモノと戯れているナナシさん。ナナシさんの方は素敵な笑顔でとても可愛らしくて素晴らしいのだがその手に撫でられているそれは本当に何なんだ!?

「可愛いなぁ。君、降谷さんが安室さんだった時の服に似てるの着てるね。安室さんのぬいぐるみであむぬいくんはどうだい?」
「ぬっ!」
「嗚呼〜〜〜可愛い〜〜〜〜〜!!!」

ぬいぐるみが動いているのだ。ナナシさんが拾ったのだと見せてきた時はあまりにファンタジー過ぎて俺の頭は一度止まった。そこからロボットじゃないか、盗聴器やGPSの類はないかぐいぐい調べて中身まで見ようとハサミを持ちだしたらナナシさんに物凄い勢いで止められた。押してみた感触からすると変なモノは入っていなさそうだし置いとくことを許可したのだがそこからナナシさんはずっとあのぬいぐるみに付きっきりで面白くない。別の意味でハサミを持ちだしてしまいそうだ。さっきのせいで俺はあむぬいくんとやらには嫌われたようで近づけば威嚇される始末。その上ナナシさんから離れようとしないから彼にも近づけず恨めしく視線を送るしかなかった。

「ん、どうしたんだい?」
「ぬ、ぬぬい!」
「あはは!くすぐったいよ。」
「ぬいぬい」

あ、アイツ!何ナナシさんにすりすりしてるんだ!ナナシさんもナナシさんだ何にこにこしながらすりすりさせているんだ...いや可愛いけど!母性やら父性やらが溢れまくってて俺もお相伴にあずかりたい。あのぬいぐるみ俺に似てるのがまだマシかもしれない...いや、駄目だ。ナナシさんは俺のナナシさんだから。俺に似たぬいぐるみでも許さない。ぐぎぎと歯噛みして悔しがっているとぬいぐるみを肩に乗せて苦笑しながらナナシさんが近づいてきて俺の隣に座り俺にぬいぐるみを差し出してきた。

「どうだい?やっぱり難しいかな?」
「...俺は別に構いませんがコイツが無理なんでしょうよ。」
「ふむ、あむぬいくん、私は君と降谷さんが仲良くしてくれるととても嬉しいな?駄目かい?」
「...ぬ、」
「頼むよ、ね?」
「...ぬい!」

諭すように語りかけるナナシさんの母(父)性には勝てなかったようで渋々俺の元に来てちょこんと手を差し出してくる。仲直りの握手ってやつか?...まあ得体のしれないモノだけどぬいぐるみだしな、良く見れば可愛らしいフォルムをしているし。その小さな手にちょんと指を当てるとぬいっと一鳴き?してナナシさんのところに帰っていく。そのままよじよじと彼の肩まで登ったかと思うと頬をとんとんと触って振り向かせてからそのままナナシさんの唇にキスをした。...。

「あらあら可愛らしいことをするなぁ。」
「やっぱり切るべきですねコイツは。」
「わーっ!駄目だって降谷さん!」
「ぬぬいぬっ!」