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「い、インポ?」
「ああ、インポ。」
「インポってあのインポですか?」
「そうだよ。」

あまり人には話したことのない私のシモのお話をすると降谷さんはぽかんと口を開けて固まってしまった。そりゃ驚くよなぁ...私でもそう言われたらどう返せばいいかわからないしね。私にとってはあまり重要ではないことでも普通の男の人からしたら死活問題。分かっておくれ恋人を避ける私の気持ち()。そんな頭お花畑なことを考えていると降谷さんは立ち直ったのかずいっと身を乗り出してきた。はーほんと降谷さん可愛らしいお顔をしているなぁ。

「ナナシさんがインポであろうと無かろうと俺は貴方のことが好きです!本当だ!」
「ありがとう、本当に。でも前にねこの事でお相手を泣かせてしまった事があってさ...それから私は恋人は...。」

あの時は悪いことをしてしまった。中身の歳の差を考えていつまで経っても煮えきらない私に痺れを切らした彼女に恥をかかせてしまった。あの事は今でも心残りだ、彼女とは連絡は取れていないが幸せになれていることを切に願う。それにそんな私が降谷さんを幸せにできるとは思えない。彼にはもっと相応しい人がいる。アンニュイな気持ちに浸かっていると降谷さんに手をとられる。おおう?どうしたんだろうか。

「俺は泣かないし、貴方にそんな顔をさせない。」
「降谷さん、」
「貴方が過去に何かがあってそんな自己否定的なことを思ってしまうというのは分かりました。でも貴方は、ナナシさんはとても素敵な方です。人を慈しみ自分より他人を優先するようなそんな貴方を俺は好きになったんです。」
「...」
「だから、だから...!」
「ありがとう、降谷さん。」

泣きそうな顔をして必死に私を慰めてくれている降谷さんはとても優しい人なんだな、と思った。そして、こんなにも私のことを想い好いてくれている、ということもひしひしと伝わる。嗚呼、私はこんなにも愛らしい人を傷つけるところだったんだ。私よりも他の人が良い、等と言って突き放して。彼は私だけを見てくれているのに私は逃げようとして。
握られていた手を引っ張り降谷さんを抱きしめる。彼が腕の中でぴくりと震えた気がした。

「ありがとう降谷さん。私を好いてくれて。」
「ナナシさん。」
「私は色んなものを理由にして逃げようとしていた。君の言うような人間ではない、臆病者だ。体面を気にして外ではいい人ぶっている偽善者でもある。距離が近くなれば近くなるほど降谷さんの多田内ナナシとはかけ離れていくかもしれない...こんな、こんな私でも大丈夫だろうか?」
「ナナシさん!」
「うわわっ」

物凄いことを言った気がすると言い切ってから急に恥ずかしくなって背を向けようとまわしていた腕を離して体も離そうとするところを降谷さんからのハグで阻止される。ぐえっ、な、内臓が口から出そうですよ降谷さん...!力強いハグは数秒でパッと体を離したかと思うと私の顔を両手で包み目を合わせてきた。う、やめてくれ恥ずかしい。さっきのも相まって羞恥心がどんどこなってるからほんとやめてくれ...。

「と、ということは俺と恋人に、なってくれる?」
「ああ、降谷さんがよかったら。」
「よろしいに決まってるじゃないですか!!」
「ははは。」
「やっぱりやめた、とか無しだからな?言質とったからな!?」
「ははは録音でもされてようなものならもう逃げられないな。」
「...」
「えっ、」