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「ナナシさん。」
「はい?どうした?」
「い、いやなんでもないです。」
「?」

不思議そうに俺をみて首を傾げるナナシさん可愛すぎか、うんかわいい。そんな彼に今俺は邪まな考えを持っている。なんとか恋人になって数週間、俺の仕事上そんなに会えるわけではないが会える時には俺のセーフハウスで過ごしている。ナナシさんが作ってくれた飯を食べてゆっくり過ごすのがとても幸せだった。しかし、しかしだ、俺も男である。まったり愛しい人と過ごすのもいいが触れたい。ナナシさんは男だしその、インポだし、そういうことで過去に何かあったようで抵抗あるかもしれないと今まで我慢していたがそろそろ我慢の限界だ。セックスまでは考えていない。キスぐらい、できたら上出来だ。でもなかなか言い出せない。さっきから言おうとして止めてを繰り返している。はぁ...いつからこんな意気地なしになったんだ俺は。公安の奴らには絶対見せられないな。
目を瞑り溜息を一つついてソファーに沈み込む。少しぼーっとしていると横に座っていたナナシさんがテレビを消しこっちを向いて微笑んだ。

「降谷さん、どうしたんだ?何か私に言いたいことがあるんだろう?」
「うっ、なんでバレたんです?」
「はは、それだけそわそわされてちらちらと見られてしまったら流石の私でも気付くさ。」
「ぐ、恥ずかしい...。」

そんなに分かりやすかったのか...公安が聞いて呆れるな。いや、それだけナナシさんに心を許してると思うといいか。ににこにこしながらこっちを見つめる彼に向って頭を下げた、腹くくった。

「き、キスさせてください!」
「なんだ、いいよ。」
「ああ、やっぱり駄目ですよね、仕方がない、分かってまし、へ?」
「なんだもう、凄く重要なことかと思って内心ドキドキしてたんだぞ。」
「あ、え、」

ははは、と少し赤くなって笑うナナシさんにぽかんとしてしまった。今許可貰えた?貰えたよな!?つい彼の手を取ってぐいっと顔を覗きこんでしまった。驚いた顔のナナシさんもいい。目が開いてる。綺麗だ。

「ほ、ほんとにいいんですか!?」
「え、ええ、降谷さんが良かったらだけど、」
「良いですよ!良いに決まってるじゃないですか!」
「は、はは、」
「わ、笑わないでください、これでもずっと悶々としてたんですからね。」

必死な俺を見ておかしそうに笑うナナシに少しむっとしジト目で見てやる。そんな俺を見て微笑みながらすいませんと言って彼は片手を外して俺の頭を撫でてきた。こ、子供扱いされてる気がする。

「嬉しいんだ。」
「うれしい、」
「こう見えてスキンシップは好きなんだよね。好意を持ってる人には特に。」

そう言ってナナシさんは俺の頭を自分の胸に引き寄せて抱きしめた。はーーーいいにおい、はーーーー幸せーーーーー。

「う、う、」
「それに、男の君に我慢させてしまったのも悪かったと思ってる。枯れてるとは言え同じ男だ、分かるよ。」
「ぅ、ぅぅ、」
「ありがとう。私の事を思って我慢してくれてたんだろう。」
「ナナシさん。」
「ありがとう、降谷さん。大好きだ。」

顔を上げてナナシさんの顔を見るとそれはもう、聖母のような笑顔でこちらをみていた。駄目だ、もう心が痛すぎる。きゅんきゅんしすぎて胸が痛すぎる。ついでに股間も少しきゅんきゅんしている。辛い。ナナシさんの胸から顔をあげて彼の顔を包む。彼も察したのか目を瞑る。まつ毛長い。薄めの口が目に入り柔らかそうで、ああ、もう、はーーー、

「ん、ちゅ、」
「んぅ、ん、」

軽く口を合わせて少し離す。ナナシさんのまつ毛が少し震えているのが見える。かわいい、かわいい...。もう一度口付ける。角度を変えて舌で唇をつつくとゆっくり小さくあけてくれた。奥に引っ込んでいた舌をゆっくり絡ましてひきだす。あつい。舌の裏をなぞるとびくりと震えたナナシさんが愛おしい。鼻に抜ける彼の声が凄く腰に響く。

「ふっ、ん、ちゅ、ん、」
「ぁ、んっ、ふる、さっ、」

深く深く口付けていると胸をとんとん、と押された。名残惜しいがゆっくりと口を離す。顔を赤くして息を整えているナナシさんの目がとろんとしている。俺も少し夢心地に浸っていたが待て、ナナシさん、感じてないか?

「あ、え、あれ、」
「ナナシさん、気持ちよかった?」
「...」
「ナナシさん、」

真っ赤になって俯いているナナシさんにすり寄る。ちらりと俺を見てから小さく気持ちよかった、と言うナナシさんに対して股間に熱が集まるのはしょうがない。名前を呼んで顔を上げさせて目を合わせる。

「あ、あの、降谷さん。」
「ナナシさん、もしかしたら、どうです下の方。」
「すまない、あまり...。」
「触れても?」
「...どうぞ。」

赤かった顔をさらに赤くさせて顔をそらすナナシさんにきゅんきゅんしながらもゆっくり手を伸ばす。スウェットの上から軽く触るがやはり反応していなかった。ふむ、まあゆっくり治していけばいいさ。俺もじっくり腰を据えてやってやる。目線を彼の股から顔に戻して声をかける。

「ナナシさん。ゆっくりやっていきましょう。」
「かたじけない。」
「大河ドラマ一気観しました?」
「ばれたか。」
「ははは。まあ、俺も調べてきます。色々試してみましょう。」
「そんな、君に迷惑をかけるわけには、」
「恋人同士なんです、もっと頼ってほしい。」
「降谷さん...。」
「こう言ってはあれですが、好いてる人に触れられるので役得だとも感じてるんです。許してくれます?」
「はは、そんなこと気にせずばんばん触ってもらっていいぞ。」
「言ったな!こうしてやる!」
「うわっ!ちょ、ちょっと、くすぐっ、ははっ、」

ナナシさんに抱きついて脇腹を擽ると笑いながら仕返ししてくる。二人で揉みくちゃになりながら笑い合う。はーー幸せだ。幸せの余韻に浸っていると腕を拘束されていた。捕まえた、と笑いながら俺に跨がり見下ろすナナシさんに擽り合いで収まっていた息子がまた元気になる。ちょうどその上に腰かけていたナナシさんが気付き一瞬固まった。その様子に苦笑しながらトイレに行こうと声をかける。

「すいません、トイレ行ってきますね。」
「その、」
「?」
「もし、降谷さんがよかったら手伝うよ?」

一瞬出そうになった。