5
桜ちゃんが間桐に養子に出されたと聞き急いで家に戻った俺を出迎えたのは、俺の双子の妹だった。
「ナナシ、なのか?」
「久しぶり、雁夜。」
俺が家を出た時と全く違う姿のナナシを見て俺は声が出なかった。俺と同じ黒髪黒目だったのに、俺の目の前にいるナナシは紫の髪と目になっていた。
「お父様に用があるんでしょ。中に入りなよ。」
「あ、ああ。」
俺に背中を向けて家の中に入るナナシで我に返り靴を脱いで追いかける。すたすた先を歩くナナシの腕を掴み、ちょっと待ってくれと引き止めると不思議そうな顔をしながら振り向いた。
「なぁ、その髪と目は...」
「これ?」
「やっぱりナナシは、魔術師に?」
「うん、そうだよ。間桐の魔術によるもの。」
「...ごめんな、やっぱりあの時お前も一緒に連れて出れば良かった。」
「いや...」
「俺が家を出なければお前も桜ちゃんもこんなことには「桜ちゃんはともかく私の事は気にしないで。」なんで...」
「私は私の意思でここに残った。自ら間桐の魔術に身を委ねたんだ。だから雁夜が気を病む必要なんて全く無いよ。」
この話はこれでお終いだと言うように背を向けて歩き出そうとするナナシ。そんなこいつを、だけどと言って引き止めた俺にナナシは溜息を吐いて腕を振り払った。
「実を言うと幼い時にもう間桐の魔術に浸かっていました。」
「え?」
「先程雁夜は自分のせいで私が間桐の魔術師になってしまったと言ったけど違うよ。君が家を出た時には既に私は間桐の魔術師だった。」
「そんな、でもお前俺と最後会った時は黒かったじゃないか。」
「そんなの魔術でどうにでもなる。」
「じゃああの時は、もう、」
「うんそうだね、君の嫌いな魔術師だったよ。私は幼い頃から間桐の魔術を引き継ごうと思っていた。正直君が家を出ようと誘ってきた時は煩わしくてしょうがなかったよ。何度断っても執拗かったよね雁夜は。間桐を捨てて逃げる君を見て見ぬふりをしてあげたのに何故戻ってきたの?他所の、しかも君の想い人間と嫌いな人間の子供の為に。家族を捨てた人がよくもまぁぬけぬけと、他人の娘の為に戻ってきたものだ。」
最初何を言われているのかよく分からなかった。言われた意味を理解した時には言葉より先に手が出ていた。気づけばナナシの着物の衿を掴み上げて怒鳴っていた。正直信じられなかった。小さい頃から双子としてずっと一緒に過ごしてきた。ナナシは誰よりも優しい奴でこんな事を言うような奴じゃない。
怒鳴り上げる俺を見上げるナナシは全くびくともせず、どこまでも暗い目で俺を見つめ返していた。その目が時臣の目と似通っていて衿を掴む手に力が入った。嗚呼、漸く理解した。目の前にいるこの女は、俺と共に過ごし笑い合い喧嘩もした、心を通わせた昔のナナシではない。間桐ナナシという俺の大嫌いな魔術師なのだと。