「ナナシ・ミョウジ、只今参りました。」
「ああ、よく来てくれた。入ってくれ。」
「は、失礼します。」
調査兵団に入って半年ほどたった俺、ナナシ・ミョウジは人生最大のピンチに陥っているかもしれない。平兵士であるぺーぺーな俺が団長室に呼ばれたのだ。がくぶるである。何かしてしまったのだろうか。だがしかし何も心当たりがない。いや、俺が気づかないうちになにかしてしまったのかもしれない…。心臓が巨人と対峙した時並にばくばくいっている。ひいい天国にいる両親よ、もしかしたら今からそっちへ行くかもしれない。
入室許可が下り、ドアノブを握る。落ち着くために一度深呼吸をし、ドアを開けた。一瞬にしてドアを閉めたくなった。
「…何固まってやがる、さっさと入ってこい。」
「は、はははい!!!」
団長室にはいつもよりも3割増しぐらい眉間に皺を寄せている鬼、ではなく兵長までいらっしゃった。ひいいい怖いよ!コレ絶対俺粗相したんじゃないか!ニコニコ笑っている団長と鬼の形相の兵長、怖い、怖すぎる。
俺は入団した時から兵長のことが少し苦手だった。凄く兵長のことは尊敬してるし怖い時もあるけど仲間思いの優しい人だと知ってからもっと好きになった。でも初めてお会いした時の感覚が俺に苦手意識を持たせている。初めて兵長を見たのは新兵歓迎式の時。一人ひとり名前を言い軽い自己紹介をする時、幹部の皆さんを眺めていると兵長と目があった。その瞬間体に衝撃が走ったんだよ。兵長から目を背けられなくなって、体も熱くなった。心臓はばくばくなるし、頭もくらりとした。流石に入団早々ぶっ倒れるなんてことできないからなんとか踏ん張ったけど…。今でも兵長を見ると時々あの感覚が蘇ってくるときがあるから少し苦手なんだ。しかもなんだか甘い匂いがしてくらくらしてしまうし。
がちがちに固まってしまった俺をみて団長は固くならなくていいと微笑みかけてくださった。すこし肩の力が抜けた、と思ったが兵長の睨みが先程よりも鋭く俺を射抜いてる。やばい、視線で殺される。
「君をここに呼んだのは人事異動をしてもらうためだ。」
「人事異動、ですか?」
「ああ、そうだ。」
「は、では自分はどこに所属することになるのですか。」
「リヴァイの直属の部下になってもらう。」
「…え?」
自分の耳を疑った。俺が兵長直属の部下?目をかっぴらいて団長を見つめるとリヴァイの直属の部下だ。ともう一度仰った。大事なことなんで二回言いましたですね。だがしかし冒頭にも言った通り俺は入団して半年のぺーぺーである。団長に自分はぺーぺーです、そんな兵長の部下になるなど、と言った。
「最近の君のデータを見させてもらった。入団してからの討伐数が他とは群を抜いている。実力には申し分ない。」
確かに討伐数は同期の中では一番だが先輩方に比べるとまだまだであるし、討伐する際の補佐が良いから(特にオルオやペトラ達だな)ここまで伸びたのだ。自分にそこまでの実力があるとは思えない。もっと適役な人がいるはずだ。ですが、と口を開こうとしたら団長の言葉に遮られてしまった。
「これは頼みではない、命令だ、ナナシ。」
「…はい。」
「頼まれてくれるな?」
「はい!」
…こうなったらしょうがない。兵長についていけるように訓練をもっと頑張ろう、そしてもっと強くなってやる。そう意気込んでいると兵長が口を開いた。
「もう話は終わったか。」
「ああ、これで彼はもう晴れてお前の部下だ。」
「へ、兵長、俺頑張ります!よろしくお願いします!」
「…ああ。」
頭を下げる俺を一瞥して扉から出ていく兵長。なんだかさっきよりも眉間の皺が薄くなった気がする。着いてこい、と言われたから団長に一礼して部屋から出る。出る時に見えた団長の顔がなんだか微笑ましげだった。