私は仇であるウェールズの王ガハムレットを見下ろしていた。あれから一年が経った、男は私が子供だからと手加減をせず、あまり思い出したくないような訓練を行った。弟を助け、親と村の人達の仇を取れると思えばどんな訓練にも血反吐を吐きながらもついていけた。それが今の私の生きる意味だったのだから。
「(なんと無防備な。)」
寝具にて寝入っているガハムレットを前に音をたてないように剣を抜く。やっと仇を討てる。悲鳴など上げさせないようにそこらにある枕を掴み腹を刺す準備をする。本当は楽に死なせたくはない。死ぬよりも恐ろしい目にあわせてからこの手で殺したいものだが、弟を探さねばならない。衛兵に気付かれる前に逃げなければならないのだから。起こさないようにギリギリに剣と枕を持ち、自然と荒くなる息を押し殺し目を閉じた。
「(両親の、皆の、仇ガハムレット。お前の命貰い受ける。)」
瞼の裏に両親の姿を浮かべ意を決し剣を突き刺そうとした時だった。
「貴方、何をしているの!?」
「ーお、かあさん?」
奥の扉から赤髪の女性が出てきた。その女性は私の母にそっくりで、私は硬直してしまい視線をガハムレットからその女性に移してしまう。その瞬間、剣を持っていた手を叩かれ腕を引かれ地面に組み敷かれていた。何とか逃げようともがくが関節を抑え込まれて全く動けない状態にされてしまった。
「ヘルツェロイデそこから動くな。」
「アナタ...」
「さて、侵入者よ。我の命を狙っておったようだがどこの手の者だ、答えよ。」
「...」
「答えぬか、ならば口を開かせるのみだが...。」
「!まだその子は子供ですわ!」
「しかし、立派な暗殺者だ。」
「っ、」
何故か私を庇う母にどこか似ている女性を見上げ、湧き上がる涙を堪えるように下を向くがそんな私に冷たく声をかけるガハムレットに頭が冷静になっていく。そうだ、感傷に浸っている場合ではない。私はこいつを殺しに来たのだ。そして失敗した。せめて、こいつに、こいつの罪を突きつけて責め立てなければ、ここで何もできず死ぬよりは、
「何処の手の者か、何故我を狙ったか、答えよ。」
「...復讐だ。」
「ふむ?」
「一年前貴様らウェールズ家は無抵抗な村に攻め入り無抵抗な村人を蹂躙し、老若男女構わず殺害した。その復讐だ。」
「...」
「はは、身に覚えがあるのだろう?それともそのような行為やりすぎてどのことか分からないか?ならばどの村の事か教えてやろう。」
眉間に皺を寄せ固まるガハムレットを睨み上げ村の名前を出し言及すると何故か赤髪の女性が泣いて近づいてきた。それをぎょっとした目で見ていると拘束が解け女性に抱きしめられていた。不測な事態に混乱して固まっていると涙声でずっとずっと辛かったわね、ごめんなさいね、と言われ頭に血が上る。もがいて女の抱きしめから逃げ出し距離を取り睨みつける。
「誰のせいだと、貴様らに何が分かる、貴様らの、貴様らのせいで...っ!!」
「違うの、違うのよ、」
「何が違う、この期に及んで、何が!!!」
「我らウェールズ家は無抵抗な民を蹂躙することなど決してしない。」
「っ、どの口が言う!いけしゃあしゃあと!」
「特にその村は我等ウェールズ家にとっても大切な村だ、そのような事決して行わない。」
この期に及んで言い逃れを行なうかと怒りに頭がくらくらしてくる。...いや、こいつ等の目を見て私は揺らいでいるのは確かだった。もしかしたら、いやでも、そんなことは、頭がいたい、私の中の何かが壊れていきそうで怖い、
「その村は我らウェールズ家の領土であり、お前の言う一年前に蛮族共に蹂躙され一度は占領されたが取り戻した土地だ。」
「そ、んな、違う、ちがう!でたらめを言うな!」
「...それにそこの村は、我が妃ヘルツェロイデの故郷でもある。」
あたまがいたい、いやだ、ちがう、こいつは私を惑わそうとしてるんだ。そうだ、そうに違いない。ぐらぐらする頭を抱えて必死にガハムレットを見据える。認めるわけにはいかない、そんなことをしたら、私は、
「トーちゃん、よね?」
「――、」
「そして貴女のお母さんのアリエスとは親友だったわ。私が王妃になった後は会えはしないけれども手紙で貴方達姉弟のことは聞いてたの。手紙からでも貴女達の幸せそうな光景が目に浮かぶようだったわ。でも、一年前のあの時...!ごめんなさい、助けられなくて、本当に...ごめんなさい...っ!」
泣きながら近づき私をもう一度抱きしめる女性をただ呆然と見るしかできなかった。ならば、私の仇は一体誰なんだ。あの悪魔達は一体誰だった?
「信じろ、と言ってもこれまで信じてきたものをそう易々と覆すことはできぬだろうな。」
そう呟いたガハムレットは私を一瞥し一言ついてこい、と言い部屋から出て行った。その後を女性に手を引かれ私もついていった。