03

連れてこられたのは中庭の一角だった。石碑がありその周りは沢山の花で埋められていた。女性に背中を押されてその石碑に近づけばそこには両親や弟を始めとする村の人達の名前が刻まれていた。そして私の名前も。

「慰霊碑だ。お前の家族や友もそこに刻まれているであろう。」

頭が痛い、目が熱い、体が震える。家族の名前を指先でなぞる。お父さん、お母さん、弟...。

「駆けつけた時には村も森も炎に包まれていて皆は救えなかったがお前の弟であろう幼子は保護した。...亡くなった状態ではあったが。」

それを聞いて私の中で何かが崩れ落ちる。蹲ってそこに眠っているであろう弟を想いながら地面に指を這わせる。胸が苦しい、涙が止まらず視界が歪む。震える腕で慰霊碑を抱きしめて声を上げる。いくら私でもわかる。侵略した者がこのような慰霊碑など建てるもののか。その上私の事も家族の事も知っているはずもない。私は騙されていたのだ。弟は死んでいた、生きてなどいなかった。助けるはずの弟は存在していなかった。嗚呼憎い、憎い憎い、

「その侵略してきた蛮族共の名前は、」
「奴等の名はピクト人だ。」

ああ、今度こそは仕留める。

***

「はは、まさか最後の最後でこうなるとはな。」
「ここまで育ててもらった恩があります、何か弁明があるのであれば仰ってください。」

私を育て、騙し続けた男は縛りあげられた状態で何も、と言い肩を竦める。

「君が本当のことを知ってしまう可能性はあったはあったが限りなく低いと思ったから行かせたのに、残念だ。」
「では、事実ということでよろしいか。」
「嗚呼、認めよう。」
「、そうか」
「はは、君の家族の死に際を教えてやろうか。とても勇敢な親御さんだったな?」
「...」
「弟の方はなお前に免じてこの手では殺さなかったんだ。野犬には食われただろうがどうなったかは知らん。」
「...」
「弟を庇うお前の目が気に入ったんだ。大事なものの為に脅威に立ち向かう幼子、嗚呼感動モノだった。」
「言いたいことはそれだけか。」
「その想いを踏みにじれてこの一年とても楽しかったぞ!お前も家族を、弟を守れずのうのうと一人だけ生き残ったこの一年楽しかっただろう!」
「はは、」

では死ね。

ごとり、と笑ったままの首が落ちる。終わった、終わったんだ。仇を取れた。これでもう思い残すことなど無い。早く家族に会いたい。だいぶ遅れたが家族のもとへ早く。嗚呼、疲れた。早く休みたい。首を持ち上げ部屋に火をかけ外に出る。暗殺者である私に温情をかけ、復讐の機会をくださったガハムレット王にせめて首を届けなければ。首を片手に襲いかかってくるピクトの兵士も逃げ惑うピクトの兵士も全て切り捨てて城の外に出る。ウェールズの陣まで行くとウェールズの兵士達は顔を顰めながらも道を開けてくれた。ガハムレット王の御前に跪き首を献上すれば声をかけられる。

「仇を討ったか。」
「はい。ガハムレット王よ、感謝いたします。」
「良い。ピクト人には我も手を焼いていた。お前に拠点を教えてもらったことによりこうして奴等を一斉に叩くことができた。こちらこそ感謝する。」
「ありがたきお言葉。」
「さて、お前の処遇についてだか...。」
「はい、覚悟はできております。私は王の御命を狙った者。即刻処刑、いえお手を煩わせるわけにもいきません。自害いたします。」

そう言いより深く頭を下げ処罰を待てば王はふむ、と一息入れた後立ち上がり私の傍に来て剣を抜いた。嗚呼、やっと楽になれる。最期に言い残したことはないか、と聞かれる王に、私自身の行いの謝罪、家族と村の者達を亡骸が無くとも手厚く埋葬してくださったことへの感謝、あと、

「ヘルツェロイデ様にも感謝を。あの御方がいらっしゃらなければ私は本当の仇を見つけられず王をこの手にかけておりました。」
「...以上か。」
「はい。王の御手を煩わせてしまい申し訳ございません。」
「良い、お前は我自ら処刑せねばならぬ。今のお前があるのは我の責でもある故な。」
「―、」

そのようなこと、と声に出す前に剣が振り下ろされる音が聞こえ、その声をのみ込んで目を閉じた。嗚呼、やっと死ねる。




痛みがない。首が落ちる感覚もない。何より首に当てられている剣がそれ以上進む気配がない。どういうことなのだろうか。混乱して頭がまわらず体が固まる。王よ、と絞りだした声は掠れ震えていた。剣が首の後ろから退かされ面を上げよ、と声をかけられる。目を開け王を見上げれば王は僅かに頬笑みながら剣を仕舞っていた。

「これにて暗殺者トーの処刑は終わった。」
「な、んで、」
「ふん、お前は我等ウェールズの敵であるピクト人を討ち果たした功労者である故な。我が国の英雄は生かしておかねばな。」
「そんな、そんなこと、」
「納得いかぬか。」
「っ、」
「ならばこう言えば良いか。生きて罪を償え。」
「ぁ、」
「お前は我を狙った罰として殺されることを望んでいたがそれ以外にもあるだろう。」

視界が歪む。全身が震えてちゃんとした言葉を返せない。家族を守れずのうのうと生き残った私が許せない。幼い弟を守れず私だけが生き残った。仇に簡単に騙されて仇の元でのうのうと暮らしていた私が許せない。無実の人を手にかけようとした私が許せない。辛い、辛い辛い辛い!こんな私を誰か罰してほしい。そして家族のもとへ、

「お前の抱えている罪の意識は我にとっては罪だとは思わぬが、罪というものは自身がそう思えば罪になるからな。そこは否定はせん。ならばその罪を生きて償え。死、などというもので許されると思うな。」
「あぁ、」
「家族に助けられたその命を自ら殺すなどそれこそ最大の罪である。お前の命はお前だけのモノではないのだからな。お前が死ぬ時は全ての罪を許された時だ。」

私はなりふり構わず泣き叫んだ。お父さん、お母さん、そして最愛の弟。私は皆に助けられたのだ。のうのうと生き残った私はその罪を胸に家族の分まで生きなければならないのだ。生きて、生きて生きて罪を償った時、その時なら家族に会ってもおこられないよね。