「すき、きらい、すき」

ぷつん、ぷつん、と花びらが切り離されてゆく。革の手袋に包まれた細い指から花びらが落ちる。音もなく地面に降り立ち、風にさらわれる。そんな花びらの行方には目もくれず、トリアツェームはただひたすらに、指先で花を弄ぶ。くるりと回して、次の花びらへ。

「きらい、すき、きらい」

過程を楽しむためにか、あえて花びらの多いものを選んだようで、足元には風に運ばれなかった花びらが積み上がっていた。
余裕の二文字を連想させるほどに、優雅に弧を描く唇。遊び心を忘れないたおやかな指先。しかし、青い瞳だけは歪んだ恋心を隠しきれていないようだった。

「すき、きらい、すき、きらい」

枚数が減るごとに指に力がこもり、声が小さくなる。
愛がほしい、愛してほしい、ただひたすらに、愛を捧げてほしい。滲み出た狂気は霧散することなく、内に住む獣を呼び起こす。ほしい、ほしい、ほしい、ほしい。

「すき、きらい」

そうして最後の一枚に手をかける。喜びから震える手が、ぷつんと、花びらを切り離す。

「すき……!」

たかが花占い。もちろん運命を決めることもなければ変えることもない。それでも彼女は己の信じることに一切の疑問を持たなかった。

「そう、そうなのね……ふふ、ふふふ!」

すっかり熱を持った頬に手を当て、うっとりとした表情で熱い吐息を漏らす。濁りきった瞳にはもう想い人しか映らない。足元に募った花びらを躙り、願いを叶える小槌を持って走り出す。
花が散る日に彼女は決意した。あの人と、愛し合うことを。



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