「今日からクラス替わるねー、何組かな」
「あー、そういえばそうだったな」
珍しく朝練の無い朝、影山と並んでいつもより少し遅めの時間帯に登校。以前までは影山とは部活後だけ共に帰ってはいたが、最近ではそれに限らず部活が無い日でも一緒に登下校をするようになった。また少し影山との仲が深まったのではないのかと私はそれに嬉しく思う。
数週間あった春休みを明けた今日は始業式。この間まで3年生として居た及川さん達は高校に進学し、私達は今日から2年生へと進級した。
昇降口には各学年のクラス表が貼り出されており、既に人だかりが出来ている。「やった!また同じクラスだね!」とか「離れちゃったねー」などとそれぞれ友人同士の会話が飛び交う。私も自分のクラスが何組なのかが気になり、集団の後方から背伸びをしながらクラス表を見るも、この身長のせいでなかなか見えない。
「んー!見えない」
「あ。俺1組だ」
背の高い影山は後ろからでも自分の名前を探すのは容易なようで、あっさりと自分のクラスを見つけている。同じクラスだったらいいな、なんて淡い期待を抱きながら影山に私の名前も探してもらえないかと頼んだ。影山はそれに応じたが、暫く睨み付けるようにクラス表を眺めている影山の表情は次第に歪んでいく。
「あった……?」
「…………2組。国見もいる」
今の表情と間は一体何なんだ。
影山に視線を送るとこちらには目を呉れず、何やら一人で「……うぬん」と唸っている。てかうぬんって何だ。
「じゃあ今回も影山とは別々かー、残念だな」
去年は私が1組で影山が2組だったが、今年はどうやらクラスが逆になってしまったようだ。国見と同じクラスになれた事は嬉しい半面、影山とまたクラスが離れてしまった事に落胆の声を上げると、影山は「あ、」と声を漏らし、ポツリと一言呟いた。
「………委員会」
「え?」
「委員会なら、同じやつやれば、クラス違っても……その、なんだ………あー!!だから、一緒のやつやりませんかボゲェ!」
「!……うん!」
そう言って少し照れ臭そうにそっぽを向いた影山。その言葉を聞いた私は驚きで目を見開いたが、やっぱり嬉しくて力強く頷いた。
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「影山クン、まだですかー」
「ぐっ……!ちょっと待ってろ!」
「それもう何回目」
結局私と影山は保健委員を選ぶ事にした。今日は体育館で新年度恒例の全学年の身体測定が行われる為、測定兼記録係として保健委員がこうして駆り出されている。他の生徒達が測定に来る前に保健委員は適当にペアでも組んで先に身体測定を済ましとけと先生から指示があったので、今こうして影山に身長を測ってもらっているのだが、険しい顔で目盛を凝視しているだけで、一向に数字を読み上げる気配はない。
「149.7p。影山、目盛も読めないの?」
「まじかよ、お前そこまでバカだったのか」
「く、国見!金田一!」
そこに突然現れたのは偶然にも同じ保健委員となった国見と金田一だった。三人は会って早々何やら言い合いをしているが、そんな事より私の中では今深刻的な事態に陥っている。
「(身長、大して伸びてない……!!)」
昨年の身長を思い返せば、比べてみると1p伸びたか伸びていないか。まさか、中学2年にして早くも成長期が止まってしまったというのだろうか。そうなのだろうか。
「そんな……!!」
余りのショックでその場に頭を抱えて床に座り込めば先程まで言い争いをしていた(金田一と国見がただ影山をからかっているだけだが)三人がどうしたものかと私の周りに駆け寄ってくる。え、なんかこれ、周りからしたら虐められてるような感じに見えたら嫌だな!
「なんだ椎名、体調悪いのか?」
「あれじゃねえのか、生理痛……?」
「影山お前それ本人の前で言うのか。あと"女の子の日"って言えよ」
「?女の子の日も何も夏芽は毎日女だろ」
「お前ってやっぱりアホだな」
「なんだと?!」
「ぶっ……!金田一っ……!お前の口から"女の子の日"が出てくるなんてっ……!てか影山もそういうの知ってたんだ……!」
「なっ!?わ、笑うな国見!!」
「そういうの??何がだ?」
「だってその顔で………!!」
何やらまた言い争いが始まったようだが、頭上で交わされている会話の内容に突っ込む気力はない。ただ、私が言いたいことは一つ。
「何で三人とも当たり前のように身長伸ばしちゃってるの!?」
下から私が声を上げれば、争いはピタリと止み、こちらを見下ろすなり三人は頭上にはてなマークを浮かべながら互いの顔を見合わせた。まるで分かっていない彼らを私は恨めしそうに見る。
去年の春に比べて三人は身長が伸びているのが目で見て分かる。影山だってさっき測ってあげたら170pだったし、5p以上は伸びていると思う。
それが羨ましい、羨ましすぎるのだ。まあ三人は男の子だから仕方ないけどさあ。でもさ、私だって数センチくらい伸びてくれたっていいじゃないか。
「お前、まさか自分がチビなの気にしてるのか?」
影山は変な所で察しが良いらしい。だが、言葉をオブラートに包むという事は知らないようだ。
「うぐっ…!……だって、小さいと黒板消す時上まで届かないし、」
「ジャンプすれば届くだろ。あと誰かに頼むとか」
「いやそうですけど……!でも背の順だっていつも一番前だし……!」
「目立っていいじゃねぇか」
「ぐっ!!と、とにかく!私も他の女子みたいに背が高くて手足も長くてスラッとしたモデル体型になりたいんだよコラ!」
ちょっと喧嘩腰になりすぎたかな、と少し後悔したが目の前の影山は何か難しい顔をし、「……想像出来ねえ」なんて呟いている。きっと背が高い私を頭の中でイメージしようとしたに違いないだろうが、それを聞いて今心が抉られた。
「……だってお前、確かにモデル体型?ではないかもしんねぇけど、もっと食った方がいんじゃねえかってくらい元々細いしそれに、そっちの方が可愛いだろ、」
「……っ!」
あまりにも真剣な眼差しで言うものだから、恥ずかしさで思わず影山から目を逸らしてしまった。そして照れ隠しに「影山のバカヤロウ」と小声で呟けば、彼の耳には届いていたようで「んなっ?!セッカク褒めてやったのに何なんだよお前は!」と私に突っ掛かる。だって、いきなり"可愛い"なんて反則だと思う。でも好きな人からこういう事を言われるのはやっぱり嬉しくて、凄く特別で、自然と口元が緩んでしまう。
「影山〜!お前って奴はぁー!」
「いでっ!!な、なんだよ金田一!」
「お前、大胆だな」
「はぁ?!」
影山から視線を逸らしている間、国見と金田一がからかうように影山を小突いていたのを私は知らない。
(2015.05.30)
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