光仙学園との練習試合での激戦をきっかけに、チーム内では緊張感が走るようになった。練習中も何処か空気が重く、居心地が悪いようにも思える。何とか主将の階上がチームの雰囲気を少しでも良くしようと常に声掛けを行っているが、効果はあまり見られず、正直頭を抱えているようだった。その元凶はと言えば、紛れもなくバレーにおいて人より能力がずば抜けて優れている影山だった。大きな脅威に直面した事で、人一倍危機感を感じているからだと思う。しかしそれ故、最近では彼はチームメイトにより高度な技術を求めるようになり、周りに指摘をする事が多くなった。また時には無理難題な事も押し付ける影山のやり方に対して不満を抱く者も少なからずいた。
―――――影山も、みんなも、ちゃんと自分なりのバレーが出来ているのだろうか。バレーを楽しく思えているだろうか。
固い表情でプレーをする部員たちを見ると、どうもバレーをやりたくて此処に来ているようには見えなくて、私はそんな不安で一杯だった。
「おい金田一。お前、クイックの時入って来るの少し遅ぇよ。もっと早く来い」
「わりぃ……」
「次は頼んだぞ。それと、国見」
「!……なに」
「今のスパイク取れただろ。ちゃんと最後までボール追えよ」
「……っ、分かったよ」
ぶっきらぼうな口のきき方で淡々と指摘をする影山に金田一は比較的素直に謝っているのに対し、国見は不満を募らせながら受け答えをしていた。影山が二人の元を離れたのを見計らった金田一が国見に耳打ちをする。
「なぁ、アイツ最近どうしたんだ……?なんかトスも速いしよ」
「……影山のヤツ一人で勝手に切羽詰まって、挙げ句の果てにはちょっと上手いからって人に指図するとか、何なの」
「おまっ!それ椎名に聞こえたらどうするんだよ?」
「だから?チームの事に今椎名は関係ないでしょ?」
「だけどよ……」
不意に出てきた自分の名前に心臓がドキリとした。金田一は慌てた様子で私の方へと視線を向けるが、あくまで何も聞こえていない事を装ってボール拾いをする。
刺のある言葉で金田一に返す国見は恐らく既に影山の事を嫌っている。金田一は影山の変化を不思議に感じているだけだが、自分の考えや行動を真っ向から否定される事を嫌う国見は違った。そのせいか最近では影山の事を「アイツのやり方はまるで横暴な"王様"みたいだ」と容赦なく非難するようにもなった。
しかし私の存在を気にしてか、殆どの部員は私に聞こえないようにと声のボリュームを落として陰口を言っているようだが、何せ彼らと同じ空間にいる為、聞きたくなくともそれは自然と耳に入る。影山に対しての悪口を聞く度胸がチクリ痛み、正直それは辛いものがあった。今だって、目から込み上げている熱いものを必死になって堪えていた。
「っ、」
国見の言い分は間違いではない。いくら付き合ってるとか、特別な間柄にしろ、その人が間違っているのに、"自分の大事な人だから"という理由で庇うのはそれこそ間違っている。それを頭では分かっているはずなのに、日に日に変わっていく影山が何だか怖くなってしまい、何も言えなくなった。帰り道とか、朝練前の登校時とか、伝える場面は幾らでもあった。でもそれが出来なかったのは、バレーや部活の事を話題にする事に抵抗を感じていたからだ。
「……っほんと、何でこんなに弱いんだろ、」
止まる事なく目に溜まっていく涙を誰にも悟られないようにと体育館を出た途端、遂に目から零れ落ちた。ポタポタと落ちた滴がコンクリートに染みを作っていく。
何よりも堪えたのが、"チームの事に私は関係ない"と言われてしまった事だった。例えば国見は、私の受け取り方の違いでもしかしたら自分たちと影山の問題に"影山の彼女"である私を出すのは御門違いなのだと、そう言いたかったのかもしれない。だけど、その部分だけを汲み取ると私には、それ以前にチームメイトでもない"マネージャー"の私は関係無い問題なのだと、そう感じてしまった。やっぱりコートの中と外では見えているもの、感じているものが違うのだと、思い知らされたような気がしてならなかった。一年以上も国見たちとバレー部の部員をしてきて、今日初めて疎外感というものを覚えた。
「……私には、何も出来ないのかな」
それならばマネージャーって、私って、何の為に居るんだろう。私はどうしたら皆の、影山の力になれるんだろう。去年までマネージャーをやっていた来栖先輩たちはこういう危機をどうやって乗り越えていたんだろう。
……所詮マネージャーって、ただの雑用係だったのだろうか。
―――――私の存在って一体、何?
自分の存在価値が分からなくなった。
(2015.09.06)
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