レシーブも、トスも、スパイクも、全部俺一人でやれればいい。
俺なら拾える。
俺なら上げられる。
ーーーー俺なら、打てる。
「もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!」
一度口を開けば、それは言う事を聞かずに止まりはしない。
「俺のトスに合わせろ!!」
「勝ちたいなら!!」
口にすれば、もう無かった事になんて出来ない。
後悔をしても、それは遅い。
「う、そ…………」
俺が最後に視界に捕らえたのは、チームメイトの冷やかな眼差しと、絶望に満ちたような夏芽の顔だった。それはまるで一瞬にして時が止まったような感覚で、自分達のコート側にポトリと落ちたボールは無惨に床を転がっていくだけだ。
「……影山、お前もうベンチ下がれ」
「…………っ!!」
―――――トスを上げた先、そこに誰も居なかった。
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昨日から始まった中学総合体育大会バレーボール競技の部では北川第一は順調に勝ち上がり、いよいよ今日は決勝戦を迎えた。例年の結果を見ると、北一はあと一歩の準決勝止まりが多いので、私達の代である今年こそ優勝をして全国の舞台に行ってほしい。それは皆も願っているはずだ。
……でも、やっぱり現実は思い通りにはいかなかった。
「「「「北一!!北一!!」」」」
県予選決勝、強豪・光仙学園との試合は前回の練習試合のような展開になり、激戦だった。序盤は取られたら取り返す、とシーソーゲームが幾度となく続いていたが、やはり相手チームのブロックの高さと優れた対応力に悩まされており、開いていく点差にチームの焦りが見え始めた。
「もっと速く!!」
「チッ……!!」
怒鳴る影山に大きく舌打ちをする金田一。影山のトスの速さに追い付けていないアタッカーは満足なスパイクを打てていない。それはもう何度目のコンビミスかは分からない。余程現状に追い詰められているのか、あの仲介役の階上でさえそれを止めようとはしなかった。
「フザけんな!!無茶すぎんだよお前のトス!!打てなきゃ意味ねぇだろうが!!」
声を張り上げる金田一はもう限界に近かった。チーム全体もいつも以上に雰囲気がギスギスしていて、とてもまともにプレーを出来るような状況じゃない。
「か、監督っ……、」
そんな光景を見ていられなくて、思わず隣に座る監督に訴えれば、眉間の皺を濃くしながら腕を組んで悩んでいるようだった。厳しい顔で試合を見守るコーチに視線を向けても、タイムアウトを要求する気配はない。
不安な気持ちを抱きながら再びコート内へと視線を戻した矢先、遂に事件は起こってしまった。
「もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!俺のトスに合わせろ!!………勝ちたいなら!!」
それを聞くなり閉口し、冷めたような眼で影山を見る5人。気付いた頃にはもう遅かった。会場内は選手達の熱気で暑かったはずなのに、私達の居る場所だけ一瞬にして空気が冷え込んだ気がしたのは気のせいじゃない。
―――――そして第一セット、相手のセットポイント。
「う、そ…………」
頭の中が真っ白になった。
北一側のコートにボールが無造作に落ちる瞬間、驚きで見開いた影山の顔、チームメイトの冷やかな眼差し、全てがスローモーションのように見えた。
影山がトスを上げた先、そこには誰も居なかった。あれは、"ミス"じゃない。影山に対するチームの拒絶。"もうお前にはついて行かない"と言った一球だ。
「影山、お前もうベンチ下がれ」
監督の最後に下した選択は、残酷なものだった。覚束無い足取りでベンチに向かって来る影山の姿は、いつもの自信に満ちた影山らしくなくて、まるで私の知らない人のようだった。
「くっ……!!」
それからベンチで悔しそうに肩を震わせる彼の表情は頭に掛かったタオルで読み取る事は出来ない。そんな姿の影山が一昨年に起きた、とある学校との練習試合でコンビミスを多発し、ベンチに下げられていた及川さんの姿と重なって、安易に声なんて掛ける事は出来なかった。……こういう時って、何て言ったらいいんだっけ。そもそも声掛けて、いいんだっけ。
……いや、違う。掛ける言葉が、見当たらなかった。
ふと応援席を見上げれば、後輩部員達はベンチに下げられた影山の方へ視線が釘付けのようで、隣同士顔を見合わせながら何が起こっているのか分かっていないようだった。そしてその時、私は態々応援席の方に視線を向けた事に酷く後悔をした。
「っ!お、及川さ、ん、岩泉さっ……、」
北一の集団から少し離れた最前列の所にあの頃とは違う、真っ白なジャージを身に纏った二人が、そこには居た。
(2015.10.18)
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