初めて着る、ブレザーの制服。姿見でおかしな所はないかと、後ろを向いたりして入念にチェックをする。
県内での評判が高いだけに、やっぱり烏野の制服は可愛い。赤色のリボンも大きめで、スカート丈もそれなりに短い。学校指定のややゆったり感のあるクリーム色のカーディガンも制服によく合っている。正直、中学の制服よりこっちの方が私は断然好きかもしれない。
「―――――よし、」
今日から私は、烏野高校の1年生。
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入学時に進学クラスを希望していた私は、クラスは1年5組となった。北一からの進学者は私一人か、はたまた名前の知らないもう一人が居たとすればたった二人しか居ない為、教室に入っても、知っている顔は全く無かった。新しい環境のせいか、クラス全体は緊張感が高まっていて、雰囲気も居心地が悪い。しかも出身中学が同じ生徒たちは既にグループが固まっていて、そういった仲間もいない私は孤独感を覚えた。果たしてこんな状態でこの先友達が出来るのかと正直先が思いやられる。この時、知り合いの多い青城に進学すべきだったのかと私は少しだけ後悔をしてしまった。
「ヒギャッ?!」
はぁ、と小さく溜め息を吐いていると、突如私の席のすぐ脇から発せられた奇声と同時にガタンと机が大きく揺れた。何事かと通路側を見れば、私とあまり背丈の変わらない、サイドポニーのショートヘアの女の子が床に倒れていて、周りの人達も突然の大きな物音に一体何が起きたのかとこちらを注目をしていた。
「だ、大丈夫!?」
急いで椅子から立ち上がり、床に倒れたままのその子に近寄れば、私の声に肩を大きく震わせた。どうやらこの子は机の脇に掛けていた私の鞄に足が引っ掛かって転倒してしまったようで、その勢いで私の鞄は床に落ちていた。
「ヒィッ?!アッ!ゴッ、ゴメンナサイ……!!鞄落としちゃいましたよね?!汚れとか大丈夫ですか?!」
「いや私の鞄の事はいいんだけどそれより怪我してない!?」
「イエッ!!私の事なんかはお気になさらず……!!それより、どっ、どうしよう……!!鞄に割れ物とか入ってませんか!?あのっ!破損してたらちゃんと弁償しますので臓器売買だけはご勘弁をっ……!!」
「ちょ、何の話?!エッ?!土下座ヤメテ!?」
突然ムクリと起き上がるなり私に謝り倒してきた彼女は弁償とか臓器売買とかぶっ飛んだ話をしながら土下座をしてきた。その姿は更に周囲からの注目を集めるのには充分で、まるで私がこの女の子に土下座をさせている悪者のようだった。
「(ど、どうしよう……!)」
このままだと本当に"新学期早々にか弱い女子生徒に土下座をさせた性悪女"という汚名が着せられてしまう。ここは私も、事故とは言え自分の鞄でこの子を転倒させてしまった事に対して謝罪の意を込めて土下座で対抗すべきかと床に膝を付いた。
「あ、あの!この度は!私こそ足を掛けるような真似をしてしまってすみませんでし――――」
「お前ら何やってんだ……?」
「「へ……?」」
いつの間に教壇に居たのか、これからお世話になるクラス担任であろう人物が不審がるような目で私たち二人を見下ろしていた。
きっとこれで、"新学期早々、土下座をし合う可笑しな奴ら"という汚名が着せられてしまったのだろう。
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「………えー、部活動の入部に関しては、特に仮入部期間は"この日まで"というのは具体的に儲けてはいないが、出来れば今週中には各部活動の見学などは済ませておいて欲しい。もし入部したい部活動があれば、今配布した入部届に必要事項を記入して顧問の先生に提出するように。ちなみに入部届の提出は今日からでも可能だが、新入生の正式な入部は明日からになるからそこの所は頭に入れておいてくれな?」
配布された入部届のプリントを基に早速部活動の入部についての説明が全体で行われた。サッカー部が人気とか、バスケ部がマネージャーを絶賛募集中だとか、天文部が廃部寸前だから誰か入部して欲しいとか、ちょっとした情報も挟みながら。
「ねぇ、ヒトちゃん」
「ん?どうしたの夏芽ちゃん?」
「夏芽でいいよ」
「で、ではお言葉に甘えて……」
私の真後ろの席の、先ほど私と土下座をし合った女の子――――谷地仁花ちゃん。席が近かったという事実を知り、またあの謎のやり取りもあった事から彼女とはすぐに打ち解けた。聞く所によると、彼女も出身中学が同じ人がいないようで、相当困っていたようだ。出会いの形はどうであれ、同じ境遇の彼女を私はお近づきの印に早速『ヒトちゃん』と呼ばせてもらう事にした。
「ヒトちゃんは何か部活やるの?」
「ヘッ?!わっ、私は特に部活はやらない、かな……。中学の時も何かやってたわけじゃないからさ、」
「そっかー……。でもヒトちゃんって書道部とかに居そうだよね。字凄く綺麗そうなイメージあるし」
「エッ!?えへへっ、そ、そうかな……??」
人から褒められる事に慣れてないのか、ヒトちゃんは最初は驚きつつも照れ臭そうに後頭部に手を回していたが、でもやっぱり私にそう言われて嬉しかったのか、その頬は緩みきっていた。暫くして「あっ」と何か思い出したかのように声を漏らしたヒトちゃんは私の顔を見た。
「その、夏芽……は何か決めてる部活とかあるの?」
「私?うん、一応決めてるよ。男子バレー部のマネージャーやるつもりだよ」
「だ、男子バレー部?!巨人がイッパイ……!!」
「ぶはっ!!確かに中学もそんな感じだったからあながち間違ってないかも!」
「え?!夏芽って経験者だったの?!」
「ううん、マネの方だけどね。これでも強豪校だったんだよ」
「なんと、強豪……!!うわぁ〜……凄いねっ!!尚更巨人がいっぱい居そう……!!」
高身長だらけのバレー部の光景を頭の中で想像していたのであろう、ヒトちゃんは顔を青くしながらぶるぶると肩を震わせていた。そんなヒトちゃんの姿に私は吹き出しつつも、確かにヒトちゃんの言う通り小柄な私たちからすれば彼らは"巨人"なのかもしれない。頭の中に浮かぶのは中学時代を共に過ごした彼らの姿。私よりもずっと背丈の大きな彼らは、いつもコートの中を汗水流しながら駆け回っていて、そんな彼らの輪の中に確かに私は居た事を思うと少し切なくなった。
「……まぁ、色々あったんだけどね、」
「へ………?」
頭に浮かぶのは、バレー部だった当時の記憶。
楽しい事ばかりじゃなかった。色々な衝突、壁、辛い事もたくさんあった。
「……今度こそ、変わるんだ」
この先も、きっと良い事ばかりじゃない。時には苦しい時だってあると思う。でも、今度こそ私は逃げない。もう二度と、あのような事件が起こらないようにと、これからは何があっても胸を張って壁に立ち向かおうと、私は心から誓った。
(2015.11.27)
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