一晩、大部屋で仮眠にもならない浅い眠りについては定期的に椎名の部屋に行って彼女の看病をするという行為を繰り返していると気が付けば朝の4時を迎えていた。寝ているであろう椎名を起こさないように静かに扉を開けて部屋の中に足を踏み入れると、まだ起床時間でないはずの椎名が、僕の予想に反して既に目を覚ましていたのだ。
「……あ、ツッキーおはよう」
「おはよ、もう起きてたの?具合はどう?」
「さっき目が覚めたばっかりで……。身体はもう大分楽になったけど、ちょっとだけ倦怠感が残ってるかも」
布団に入ったままの椎名はゆっくりと上体を起こし、渇いた喉を潤す為に枕元に置いてあったミネラルウォーターに手を伸ばしてそれを口に含んだ。昨夜の高熱で林檎のように真っ赤になっていた顔色も随分良くなっているようだ。
「熱は?まだある?」
「今測ったんだけど……うーん、微熱かなぁ……」
差し出された体温計を受け取って確認すると、37.3℃の表示。明らかに熱は下がってはいるが、まだ病み上がりなのだから油断は出来ないだろう。
「あの、ずっと看病してくれてありがとう……と、私が昨日我儘を言ったばかりに返って迷惑をかけて本当にごめんなさい」
「まぁ流石にあんな姿見せられて放って置けるほど人でなしじゃないしね。……で、今日はどうする気?」
本当は今日一日安静しているべきだと思うけど、と一度念を押すと椎名は猫背気味だった姿勢を直ぐ様正して、バツが悪そうに視線を右往左往させながら言葉を詰まらせる。
「うっ……。あの、ですね……」
恐らくこの様子だと答えはもう決まっているのだろう。それは僕も分かってはいた。でもそれをどう告げればいいのか、それとも僕に何か言われる事を懸念しているのか、椎名は言葉選びに悩んでいるようで、なかなかその旨を口にしようとはしなかった。
「……だめ、ですかね……??」
ようやく口を開いたかと思えば何とも歯切れの悪い返答にもどかしさを覚え、大きく溜め息を吐いた。
「………ハァ、」
「ご、ごめん……」
「皆には黙ってる。でも、何かあったら必ず言って。くれぐれも無理はするな」
「!うん、分かった。なんか優しいね」
「……別に。これで倒れられたら困るのは僕だから」
「ううん、それでもありがとう、月島」
「っ!」
そう言って穏やかに笑う椎名に僕は少しばかり動揺をした。普段は僕にはそういう顔をしないくせに。
それに加えていつもは山口の真似をしてツッキー、ツッキーって調子良く呼んでくるくせに、ここぞという時にあだ名じゃなくてちゃんと名前で呼んでくるこいつが少しだけ狡いと思った。それが僕の調子を狂わせてるというのに彼女は僕のその胸の内を知らずに「ツッキー??」と首を傾げながら僕の顔色を窺っていた。
「……貸し1だから」
「勿論っ!お礼します!」
「それは追々でいいけど……分かってる?くれぐれも、」
「無理はしない、だよね?」
「分かってるならいい。じゃあ僕は向こうに戻るから。まだ時間あるんだしもう少し寝てれば?」
「では、お言葉に甘えます……。あの、今日は布団貸せなくてごめんね?シーツが寝汗で凄いだろうからさ……。そうじゃなくてもツッキーいつも寝不足なのに私のせいで余計に、」
「ああもう、そういうのいいからさっさと君は僕のお言葉に甘えて早く寝ろ」
「ハイ、ワカリマシタ。オヤスミナサイ」
こんな時に寝不足の僕を心配する椎名を何とか黙らせ、彼女が大人しく床に就いて目蓋を下ろす姿をしっかり見守った後、僕は静かに部屋を退出する。どうしてアイツは人の事よりまず自分の身体の心配が出来ないのだろうか。どう考えたって今しんどい思いをしているのはアイツ自身のはずなのに。本当に世話の掛かる奴だと昨晩から何度目か分からない溜め息を吐きつつも、椎名の病状が一晩でここまで快復した事にはひとまず安心だ。後は今日一日の椎名の様子を注意して見ていれば何も問題は無いだろう。彼女にもあれだけ言い聞かせたのだから。
「おい」
大部屋に戻ろうと一歩を踏み出すと、すぐ傍から聞き覚えのある声に呼び止められて、途端に全身からは冷や汗が噴き出してくる。その迫るような低い声に柄にも無く僕は僅かに恐怖を覚えた。
「……っ、何?」
恐る恐る声の主の方へと顔を向けるとそこには壁に背を預けて腕を組みながらこちらを睨む影山が立っていた。
よりにもよって一番知られてはいけない奴にバレてしまうとは。あれほど警戒しながらタイミングを見て抜け出してきたというのに、僕は完全に油断をしていた。
「……お前、この部屋で何してた?夜中にも出入りしてたよな。まさか昨日の腹痛も嘘か?」
「……待ち伏せとか悪趣味にも程があるんじゃないの?」
「いいから質問に答えろよ」
影山の鬼気迫る勢いに僕は一瞬物怖じしそうになる。まさか、夜中の時点でバレていたのは想定外だった。分かっていた上で今まで僕を泳がしていたというのか。
「何で王様に答えなきゃいけないの?"彼氏"でもないのにさぁ」
「……あ?」
「それか、椎名にでも聞いたら?でもその様子だと聞けそうにないかぁ〜」
「てめっ……!喧嘩売ってんのかっ……!」
「あんまり大声出さないでくれる?アイツ寝てるんだよ。まぁ、別に疚しい事はしてないから安心しなよ?」
やってしまった、とは思ったがこのまま何も言い返さないのは自分のプライドが許さなかった。事実、現時点で影山は椎名の彼氏では無いのだし、とやかく言われる筋合いも無い。
苦虫を噛み潰したような顔をする影山に挑発的な笑みを浮かべ、僕は背を向けて歩き出した。
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今朝のツッキーとの約束をしっかり守って部活に取り組んでいると、時々ツッキーがアイコンタクトを取ってくれるので、それに頷いたりオッケーサインを出して自分の体調の状態を知らせている。休憩の合間に体温を計ると相変わらず微熱が続いているが、昨日に比べれば身体は全然楽だ。あとは午後練を乗り越えれば何事もなく一日が終わる。そう、全て順調にいっていたはずだったのだ。
「清水さんが体調不良という事で早退をしましたので、午後からはマネージャーが椎名さん一人になりました。一年生でまだ不慣れな所もあると思いますので皆さんでサポートしてあげて下さい」
「……すみませんがよろしくお願いします、」
「えええええええっ!?」
「ジーザスッッッ!!」
ペコリとお辞儀をすると、潔子先輩の不在を知ってショックを受けた田中さんと西谷さんはその場に崩れ落ちるように膝をつく姿に思わず苦笑いを浮かべる。午前中から軽い熱中症の症状が出ていたという潔子先輩。普段から冷静沈着で口数もそこまで多い人ではないので私もお昼に武田先生がそれを指摘するまでは気が付けなかった。最初は潔子先輩も症状が軽い事からこのまま残留する事を望んでいたが、武田先生の気迫に負けて結局早退する事を決めた。その後に「椎名さんは大丈夫ですか?」と先生に真剣な面持ちで聞かれた時は、動揺して危うく洗っていた皿を滑り落としそうになった程だ。そもそも昨日はあれだけフラフラの状態だったというのによくバレなかったと今では思う。
「一人でも大丈夫です」と断る事も出来た。きっといつもの私だったら間違い無くそうしていただろう。しかしそれはツッキーとの約束を破る事になってしまうので、今回ばかりは先生の指示に素直に従った。
「……はっ!じゃあ俺達が潔子さんの代わりになればいいのでは!?」
「頭いいな龍……!潔子さんの代わりが出来るのは確かに俺達しか居ない!夏芽、安心しろ!困った後輩を助けてやるのが先輩の役目だからな!存分に頼れよ!」
「え」
「な、なんて頼もしい……!一本では脆い矢も三本集まれば頑丈になるというものです!!」
「アッ……ハイッ……」
「武ちゃん!潔子さんとその大事な後輩の為に俺は頑張るぜ……!」
「なんてったって俺達は先輩だからな……!」
「椎名さん!頼もしい先輩方がいて僕は本当に嬉しく思います!それでは午後も頑張りましょう!」
半ば無理矢理に円陣を組まされ、盛り上がりを見せている先生達を横に、一気に不穏な空気を感じ取ったのはきっと私だけではないだろう。遠くの方から「大地、あれ放っといていいの?」「やめろと言ってもきかないだろ……」「それもそうだな。まぁ何かあったら救世主の影山が助けに入るだろうしな」「あれは救世主というか魔王というか……」と口を挟む事を諦めた様子の3年生組のやり取りが聞こえる。先輩方、そこは影山に丸投げをせずに諦めないでほしかった。助けを求めるように視線を送ると目が合った3人には見事に逸らされる。今度はダメ元で2年生組にも視線を送るが、"ドンマイ"と3人揃って口パクで返ってきた。もしかしてこれ、影山以外に助けてくれそうな人っていない……??
「椎名、何か大変そうだけど困った事があったら遠慮なく言ってね……?」
「椎名っ!俺、マネとかやった事ないからよく分かんねえけど、言ってくれれば手伝うからな!」
「や、山口……!日向っ……!優しすぎるっ……!そうだよ、私には同級生がいる……!」
「何で涙目なの!?」
静かに円陣を潜り抜け、完全に意気消沈で午後の準備に取り掛かろうと歩き出すと、呼び止めてきた山口と日向から温かい言葉を掛けられたあまりに目頭が熱くなる。
「ねぇ、本当にやれるの?」
山口の隣に立っていたツッキーが真剣な眼差しで尋ねてくる。潔子先輩が早退して一人になってしまった事、それに加えて危なっかしい田中さんと西谷さんがマネージャーをやる気になっている事を気掛かりに思っているのだろう。
「それは夏芽が清水さん無しじゃ役に立たねえって言いたいのかよ?」
「……は?そんな事一言も言ってないけど?」
「!違うよ影山っ、ツッキーはそういう意味で言ったんじゃ、」
「……武田先生はああ言ってたけど、お前が一人でも出来るのは俺が一番よく知ってる。けど、変に遠慮して肝心な所は人に頼ろうとしないのも事実だ。……だから、何かあったら言えよ」
「っ!ごめん、分かった」
影山に図星を突かれて、何だか申し訳ない気持ちになった。熱の事もそうだが、その事実を一番知られてほしくなかった相手にそれを言われてしまうと余計気持ちが堪える。
「……隠される方が、俺はしんどい」
聞こえるか聞こえないくらいかの声量で呟いたその言葉は私の耳にはしっかりと届いていて、胸の辺りがズキズキと痛む。昨日の出来事を隠蔽した自分の選択が果たして正しかったのかと今になって疑念が生じた。一度ついてしまった癖は簡単に直せるものではない。でもただ、影山がそれを望んでいるのならば、きちんと打ち明けるべきだったのか。
影山の苦しそうに歪めるその顔が、脳裏にこびり付いて離れられなかった。
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「取り込むのってこれだけ?」
「ありがとうツッキー。取り敢えずそれだけなんだけど、ちなみに只今第二弾でビブスとタオルを洗濯機に回してる最中です」
「……は?まだあるの?」
「いやいや貴方達が使ってる物だよ」
体育館を離れて午前中に干していた大量のシーツや枕カバー類を取り込むのをツッキーに手伝ってもらっている。流石に一人ではこの量を運ぶのはとても無理があったので、如何にも練習を抜け出したそうな顔をしていた彼を捕まえたのだ。一番の理由はさっさと二人で片付けて、不安要素でしかない田中さんと西谷さんを残したままの体育館に逸早く戻りたかったからだが。
「最初の頃も言ったけどさ、椎名って意外とはっきり言う時あるよね。家族もそんな感じなの?」
「影山に喧嘩売ってたツッキーには言われたくないな。お父さんはそんな事ないけど、お母さんはまぁ、はっきり言う性格かも……。あとは、強烈なイトコのせい」
そいつの顔を思い出して遠い目をする私にツッキーは同情の眼差しを向けてきた。中学に上がる頃にはお互い部活が忙しくなって会う機会も無くなった、歳も然程変わらないイトコの事は時々向こうのオバさんと電話でやり取りをしている母親から話を聞いたりする。小学生の頃からバレーをしているイトコは高校生になった今でもバレー部に所属をしていて、その高校が毎年全国に行く程の強豪校だと聞いた時は驚いた。
「それを言ったら月島家も皆ツッキーみたいに毒舌キャラなの?……てかツッキーって一人っ子っぽいけど兄弟とかいる?」
何気なく話を振るとシーツを取り込むツッキーの手が一瞬止まった。
「……兄貴が一人、居る」
「!……そう、なんだ」
ごく僅かな時間、重くなった空気。これ以上は踏み込むなと言われているような気がした。私は一人っ子だから兄弟がいる家族の事は分からないが、ツッキーの場合はそのお兄さんとの間には何か深い溝があるのかもしれない。
「……そういえば話が変わるんだけどさ、自分で黙っててほしいって言っておいて勝手だけど、やっぱりちゃんと昨日の事、影山には話してもいい?」
「怒られるんじゃないの?てかどういう心境の変化でそうなったの?」
「それがさっきちょっと怒ってたんだよ……。私が体調不良を伏せてる事薄々気付いてるのかもしれない……」
「……多分それ、今朝椎名の部屋を出た時に影山と鉢合わせになったからだと思う」
「……へっ!?嘘っ!?鉢合わせ!?」
「急にうるさっ!!落ち着けよ!熱の事は影山には何も言ってないから!」
「じゃあそれ絶対違う意味で誤解されてるよね!?本っっっ当にごめんなさい!!」
女子生徒が寝泊まりする部屋に男子生徒が出入りしている姿を目撃すれば、誰しもが"そういうこと"を想像するだろう。まずあの影山がそこまでの想像力が働くのかどうかは分からないが。
とんでもない新事実を知った事により平静さを失い慌てふためいていると、つられたツッキーは取り乱しながらも何とか私を必死に宥めようとしてくれた。
「一応否定はしたけど……。そんなに誤解を解きたいなら言えばいいんじゃない?まぁ僕もアイツに今後睨まれずに済むからその方が助かるけど、」
「全ての責任は私にあるから影山にはちゃんと私から話をつけるよ!ツッキーには絶対迷惑かけないから!最早迷惑しかかけてないけどっ……!」
「浮気してるのが交際相手にバレた彼女かよ」
これはしっかり時間がある時に事情をちゃんと話そうと心に決めた。
▼
色々ハプニングはあったが、洗濯物の片付けが終わって体育館に戻るとそれはもう地獄絵図だった。床に転がった飲みかけのボトル、部員皆の青褪めた顔、そして濃度の高い塩水を飲んで再起不能になっている唯一の被害者ーーーー日向の姿だった。隣に立つツッキーも口元が引き攣っていた。
「日向ぁ……!ごめんよ私がもっと早く戻っていればこんな事にはならなかったのにっ……!」
二人が作ったドリンクは、片や粉末と間違えた塩水ドリンクに片や特濃5倍ドリンク。どちらも飲みたくない。
多めにカゴの中に入れておいたはずの粉末ドリンクの在庫を確認すると、彼らはそれを全て使い果たしてしまったらしい。ドリンク作りぐらいなら問題ないだろうと任せてしまった私は完全に油断をしていた。
「頼む椎名!これ作り直してくれない!?もう喉カラッカラで死にそうなんだよっ!!」
「俺はさっき西谷にコールドスプレーと間違えてヘアスプレー渡されて足がベタベタなんだよ……!!」
「そういう訳だからさ、このままだとやばいだろ!?椎名からなんかこう、上手く言ってくんない!?」
私の姿を見た瞬間、助けを求めるようにやって来た菅原さんと東峰さんは必死の形相で訴えてきたのだ。この惨状を見て余計熱が上がるかと思いきや、意外にも私の頭が冷静だったのは守るべきものが出来たからだろう。
――――そう。何としてでも、台所だけは死守しなければと。
「……分かりました、やってみます」
力強く頷いた私の姿に驚きで目を見開く先輩二人とツッキーの姿を余所に、私は西谷さんと田中さんを呼んだ。
「おお椎名!戻って来たか!事は順調に進んでるぜ!」
「夏芽に頼まれた通り皆にドリンク作っておいたからな!ちょっと失敗はしたけど!!さあ次は何をやるんだ!?」
「……すみません西谷さん、田中さん。ここまで助けて下さって本当にありがとうございました。やっぱりお二人には申し訳ないので、この後はいつも通り練習に戻ってもらって大丈夫ですよ」
「なんだ急に畏まってどうした!別に遠慮しなくてもいいからな!?やると言ったのは俺達なんだしよ!」
「そうだぜ!夕方になれば飯の準備だってあるだろう!」
「……実はさっき月島とも話し合ってたんです。これは私達一年が分担をしてやっていくべき事じゃないのかなと。それに先輩方のお手を煩わせないのが後輩の役目です。どうか後は私達に任せてくれませんか?」
いやそんな話一言もしてないだろ、とジト目を向けてくるツッキーを軽く小突き、近くで話を聞いていた山口と影山にもどうにか話を合わせてくれないかと必死に熱い視線を送る。
「そ、そうですよっ!後は俺達が協力してやりますからっ!日向もマネージャーやってみたそうな感じでしたし……!?な、なぁ影山!?」
「!?お、おう……?」
「っ!!お前らは何ていい後輩なんだっ!泣けてくるぜっ……!よし!残りはお前らに頼もう!」
「そこまで言ってくれる後輩達の想いを俺は無下には出来ねえ!後は任せるぜっ……!」
山口が機転を利かせてくれたおかげもあり、何とか話がついた所で二人はご機嫌モードで再び休憩に入ったのを見てほっと胸を撫で下ろした。
「あぁ良かった……!皆ありがとうっ……!」
「ちょっと、聞いてないんだけど」
「……このまま現状維持で今日の夕飯が大惨事になるよりは良いかなって思ったんだけど」
「!……確かに」
「夏芽、急いでドリンク作り直すんだろ。手伝う」
「そうだった!取り敢えず塩水と特濃を仕分けないとね。塩水は捨てるとして、特濃の余った分は取り敢えずピッチャーに移すか……」
「!じゃあ俺、全員に渡ったボトル一旦回収してくる」
「ありがとう影山!あと、色々ゴメンナサイッ!!落ち着いたらちゃんと話すからっ!」
「??なんの事だ……?」
「椎名、俺はどうすればいい??」
「じゃあ私がこれから特濃の分量を調節するから、山口はそれに水を足して出来た分をどんどん皆に配ってもらっても良いかな?」
「分かった!」
「あ、ツッキーには申し訳ないんだけど、私これが終わったらスポドリの粉末がもうストック無くて買い出し行ってくるから、洗濯機止まったら干しておいてもらってもいい……?」
「……ハーイ」
「椎名!俺は何かやる事あるか!?」
「日向!良かった復活したんだね……!じゃあ日向は休憩明けたら計測お願いします!それまではゆっくり休んでていいよ!」
「ラジャー!」
「なんだか一年が頼もしいっ……!」
「最初からこうしていれば椎名も動きやすかったのかもな……なんか悪い事したな……」
「さっきは目逸らしてごめんなぁ椎名……!」
それからは同級生達との連携プレーでマネージャーの役割を果たしたのは、今までにない達成感があった。熱も気が付けば平熱に戻り、厨房の安全も確保され、無事に残りの半日を終える事が出来た。夕食の時に3年生達が涙を流しながら噛み締めるように白米を食べていた姿には思わずぎょっとしたが。
かくいう私も翌朝、潔子先輩と顔を合わせるなり安心して涙が溢れたのは言うまでもない。
(2020.08.14)
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