Episode.46


GWが明けて今日からまた学校が始まり、今朝はヒトちゃんと5日ぶりの再会に嬉しさのあまり熱い抱擁を交わした。連休明けの授業は合宿の疲れが抜けていないからか、はたまた昨夜遅くまでお菓子作りに没頭していたからか、何度か居眠りをしかけた。ウトウトと船を漕いでいると後ろの席のヒトちゃんが必死に起こしてくれたので私は今日何度も助けられている。昨日影山にはあれほど釘を刺したというのに言った張本人がやってどうすると、これまでの自身の行為を反省した。
そしていよいよ迎えた昼休み。5組の教室を出た私は例のブツを持って3組の教室に向かっていた。

「影山居るかな……?」

廊下から教室の中を覗いてみるが、如何せん人数が多いのと、影山の座席の場所を把握していないのでなかなか本人が見つけられない。やはり他クラスの教室は普段立ち入らないので少し緊張する。影山以外にも3組に知り合いが居ればまた違ったのだが。
意を決して私はたまたま近くに座っていた女子生徒に声を掛けた。

「あの、すみません……影山飛雄って居ますか?」
「えっ、影山君……??影山君ならあそこに居ると思うけど……」

「ほら、窓側の前から3番目の席の……」と戸惑いながらも座席の場所を教えてくれた。影山の元に人がやって来た事が余程珍しかったのだろうか。元々部活動以外では積極的に人とはあまり関わろうとしない影山だから無理もないだろう。

「……あ、居た。ありがとう」

お礼を言って影山の席へ直行すると、周囲からは物珍しそうに視線を向けられるので何だか居心地の悪さを覚えた。当の影山本人は机に伏せて昼寝をしている最中である。影山の前の席がちょうど空席だったので、その椅子に座るなり影山のつむじ頭を見下ろした。

「影山ー……って起きないか」

一度声を掛けるが反応は無い。影山に触れる事に少し躊躇いつつも指先でその肩を軽く突付いてみると、影山はぐぐもった声を漏らしながら目を覚ました。

「んんっ……あ……?夏芽……?」
「あ、おはよう、起きた?お邪魔してます」
「何で3組にいるんだ……?」

眠たい目を擦りながら私に問い掛ける寝起きの影山の姿に思わず笑みが溢れてしまう。こんな姿の影山は部活動の間しか顔を合わせない私はなかなか見られない。授業中もよく居眠りをしていると聞くし、学校生活での影山はここまで無防備なのか。

「……突然ですが、これを渡しに来ました。日頃色々とお世話になってるから……。口に合うと、いいんだけど……」

影山に手作りのお菓子を渡すのは初めてだからか、一気に緊張が走って発する言葉は徐々に尻すぼみになっていく。
ラッピング袋に詰めた昨夜作ったパウンドケーキを差し出すと、影山は目を丸くして私を見つめた。

「!まさか手作りか……?」
「うん、まぁ……。こっちがプレーンでこっちがチョコね。家帰ってからでいいから、良かったら食べて」
「いや、今食う」

すっかり覚醒した影山は直ぐ様ラッピングタイを解き、中からプレーン味のパウンドケーキを一切れ摘んでそのまま口に含んだ。その様子を見守る私はごくりと固唾を飲む。

「あの、お味はいかがでしょうか……?」
「…………」
「ま、不味かった!?」

咀嚼したままいつまで経っても反応がない影山に一気に不安が煽られる。……おかしい。昨夜にちゃんと味見はしたはずだ。砂糖の分量も間違えていないし、焼き加減だってそこまで悪くはないはずなのに一体何がいけなかったのか。それは影山の舌がよっぽど肥えているのか、それとも実は私が味音痴だったのか?

「……いや、コレすんげぇウマい」
「!!」
「しっとりしてるし、甘さも控えめでちょうどいい。なんか店に売ってるお菓子みたいだ」
「かっ、影山褒めすぎかっ……!!本当そういうとこズルいから……!!」
「ズルいってなんだボゲェ!褒めてるだけだろ!」
「それは分かってるよ!けどそんな最高の褒め言葉を貰ったら心臓が持たないんだよ!」

騒がしい私と影山の姿を見た影山のクラスメイト達が「影山君ってあんなに感情豊かな人だったの……!?」「影山が女子と仲良さげに喋ってるの初めて見た!もしや彼女か!?あの子何組だ!?」なんて会話が繰り広げられているなど私たちは知る由もない。

「……なぁ、今日ホームルーム終わったら帰り待っててもいいか」

"折角だから放課後どっか行きませんかコラ"

それは影山からの突然のお誘いだった。部活が無くなってしまってあれほどガッカリしていたというのに、代わりに自主トレをするどころか、私と共に過ごす事に時間を使おうとしてくれている。勿論、何も用事が無ければ嬉しさで舞い上がってその誘いに乗っていた。こんな機会は滅多にないのだから。しかしながら今回ばかりはそういう訳にもいかない。

「!あー……ごめん、今日はちょっと先約があって……」
「友達と遊ぶ約束でもしてんのか?」
「うーん、友達……と言っていいのか……?」

ツッキーと私の関係に名前を付けるのなら一体何なのか。果たして彼を友達と呼んでいいのか。それはきっとツッキーに嫌がられそうな気がする。「僕と椎名はいつトモダチになったの??」と真顔で返されるのが想像出来る。しかし知人ほど関係が浅い訳でもない……はずなのだが自身はない。

「は?……お前、友達じゃない奴と会う気なのか?」
「大丈夫だよ影山もよく知ってる人だから。ただ知人以上友達未満……?というか……?」

眉間の皺を濃くする影山の姿に徐々に雲行きが怪しくなってくる。私の言葉で何かを確信したのか、影山は更に私に詰め寄る。

「おい夏芽、今日誰と会う気だ?」




あれから般若のような形相をして問い詰めてきた影山には逆らえず、洗いざらい話すと気が付けば昼休みを終えていた。それから残りの2限分授業を受けてようやく放課後となった今、約束通り廊下でツッキーを待っていた。

「ごめん、待たせた椎名……って、は???何で王様も居るの?」
「……居ちゃ悪いのかよ?」

ホームルームを終えて姿を現したツッキーが、本来ならば此処に居ないはずの影山が私の隣に並んで立っている事に説明をしろと無言の圧力を掛けてくる。……当然である。

「カクカクシカジカで……こうなりました」
「全然理解が出来ないんだけど」

昼休みに影山に今日の事を打ち明けると、何故か影山は「俺も一緒に行く」と言い出したのだ。ツッキーとは仲が悪いはずなのに、自分から接触しようとしている影山の真意が分からなかった。もしかして影山は本心ではツッキーと親睦を深めたいと思っているのだろうか。……いや、歩み寄ろうとしている人が喧嘩腰で受け答えはしないはずだが。

「……影山も一緒じゃダメかな?」

ツッキーの機嫌を伺いつつも、恐る恐る影山の同行の許しを求める。ツッキーには申し訳ないが、影山について来るななんて酷な事を私に言えるはずがない。

「お前、ホンッットそういうところだから」
「あだっ!?」
「なっ!?夏芽!だ、大丈夫か……!?」
「お、おでこがっ……」

長身のツッキーを見上げたままでいると、頭上から大きな溜め息が聞こえたかと思えば、不意打ちにデコピンをくらわされた。あまりの痛さに涙目になりながら額を押さえていると、影山があたふたしながら私の事を心配してくれている。

「月島お前っ……!」
「へぇ、逆らう気なら王様とは此処でお別れだけどいいのかなぁ〜??まぁしょうがないよねぇ?」
「ぐっ……!!逆らわねぇので俺も連れてけ下さいコラ!!!」
「日本語……」
「日本語の方が大分怪しいケド……まぁ及第点ってところ?」

精一杯の敬語を使い、あのツッキーに勢い良く頭を下げた影山。そんな姿の影山を腕を組んで不敵な笑みを浮かべながら見下ろすツッキーの方がよっぽど王様なのではないか。
何はともあれこうして影山も共に同行する事が決まったのは一安心だ。果たしてこのメンバーで間が持つのかは不安であるが。

「あ、ツッキー。ツッキーにもお菓子作ったんだ。こんな事しか出来ないけど、合宿の時は大変お世話になりました」
「はっ……、(俺にだけじゃなかったのか……!いや、でも俺の方が先に貰ってるから俺の勝ちなのか……!?)」

階段を下りながら、鞄から取り出した手作りパウンドケーキを手渡しすると、昼休みの影山の時のようにツッキーも驚いた顔をしてそれを受け取った。

「え、これ手作り……?まさか昨日の甘い物が好きかって話はこの事だったの?」
「そうなんだけど……もしやツッキーって手作りとかダメな人だった……!?ごめんそこまで考えてなかった……!!」
「違うよバカ、そんなんじゃない。今食べてもいいんだよね?」
「バッ…………あ、ハイ」

「家帰ったら食べて」と言おうと思ったが、ツッキーはその場で袋を開けてプレーン味のパウンドケーキを口に放り込んだ。やっぱり目の前で自分が作ったお菓子を食べてもらうのはとても緊張する。ドキドキとうるさい心臓の鼓動を抑えながら、ツッキーの辛口コメントを身構えた。

「……何これ凄く美味しい。椎名ってこんな才能があったの……?」
「えっ!?そんなに……!?ほんと……!?」
「お世辞抜きで本当に美味しい」
「っ、ありがとう!」

想像とは裏腹にベタ褒めのツッキーは続いてチョコ味のパウンドケーキも頬張る。ここまで褒めてもらえると嬉しさのあまり口元が緩んでニヤニヤしてしまう。

「ツッキーにも褒めて貰えるなんて作った甲斐があったなぁ〜」
「……は?ツッキー"にも"?まさか……」
「俺は昼休みの時点で貰ったけどな?」

得意気に鼻を鳴らす影山に何故かツッキーが鋭く睨みを利かせる。こんな調子で本当に大丈夫なのか。会話をする度に険悪な空気が続いてしまうと流石に居心地が悪すぎる。

「あー……ところでツッキー、これから何するの?」

この空気を何とか変えようと無理矢理話題を変えてみる。そう、肝心なのはそこだ。今日私がツッキーに呼び出された理由は何なのか。昨夜ははぐらかされてしまったが、やっぱりどうしても気になってしまう。そんなツッキーは引き攣った顔で少しの間、影山の顔を見る。それから少し気まずそうに視線を右往左往した後、諦めたように溜め息をつくなりボソボソと何かを呟いたのだ。

「……キ………ング………から………しい」
「んん……??ごめん、ちょっと聞き取れなかった」
「おい、もっとはっきり言えよ」

影山の煽りが問題だったのか、或いは私が一度で聞き取れなかったのが悪かったのか、そのどっちもか、苛立ちで顔を赤くしたツッキーは大きく舌打ちをして今度ははっきりと言い放った。

「っ、だから!ケーキバイキングに行きたいから!一緒について来て欲しいって言ってんの!」
「「ケーキ……バイキング……??」」

まずツッキーの口から出て来る事がなさそうなワードをまさかこの場で聞く事になった私と影山はすっかり拍子抜けをした。互いの顔を見合わせてオウム返しをすると、居た堪れなくなったツッキーは一人足早に昇降口へと向かってしまったので、私達は慌ててその後を追い掛けた。




バスに揺られて十数分、隣町のショッピングモールにやって来た私達は店内の一角にあるケーキバイキングに入店をした。店の中はやはり女性客やカップルがメインのようだ。これはメンズのツッキーが入り辛いと思うのも頷ける。

「こんな所にケーキバイキングがあったとは知らなかった……。ツッキーって甘党だったんだね」
「……言い振らす気?」
「誰に?日向とか……?ツッキーが嫌なら言わないよー」
「言いふらされんのが嫌なら夏芽を誘うんじゃねえよ」
「僕が椎名を誘おうが誘わまいがそんなの僕の勝手でしょ??てか何で王様の許可が必要なの??いい加減カレシ面するのやめてくれる??」
「んぐっ!」「ゲホッ!」

ツッキーの爆弾発言により口に含んでいたスフレチーズケーキが思わず気管に入ってむせてしまう。これでは明らかに動揺しているのが影山にバレてしまうと一人内心焦っていると、隣でオレンジジュースをストローで啜っていた影山もむせていた。本当にこの手の話題はただ気まずくなるだけだから止めてほしい。まずツッキーは事情を知らないのだから仕方ないが、だからといってツッキーにわざわざ過去の話をする気はないけれど。

「つ、ツッキーってさ!苺のショートケーキが好きなのっ?」
「………なんで知ってんの」
「いや皿に3個も同じケーキ乗ってれば好きなのかなって思うじゃん。皆思うよ」
「…………」

ツッキーって隙がないように見えて実は天然なのだろうか。しまった、という顔をして慌てて視線を逸らしたツッキーは多分相当苺のショートケーキが好きだ。私達をここまで連れて来ているのだからもう隠す必要はないというのに。そこまで好きなら私のオススメのケーキ屋を教えてあげようかな。片やすっかり落ち着きを取り戻した影山は、ツッキーの皿にケーキが何個乗っていようが、何ケーキが好きだろうが、さして興味が無さそうにガトーショコラを頬張り始めている。

「……そういう椎名は何が好きなの」
「私はチーズケーキ、かな。スフレが一番好きだよ。ちなみにこれ凄く美味しいよ」
「じゃあそれ一口ちょうだい」
「あの、バイキングなんだから取ってくればいいのでは……??」
「……チッ」
「舌打ちしたな今」

不服そうに席を立ち上がったツッキーは空いた皿を持ってチーズケーキを取りに行ってしまった。残された私と影山の間には沈黙が流れる。

「……な、なんかツッキーがこういうの誘ってくれるなんて意外だよねー……?少しは心を開いてくれた証拠なのかな……??」

……駄目だ、どうにも気まずさと緊張で声が上擦ってしまう。それはきっとツッキーがカレシ面とか変な事を言ったせいだ。気を紛らわす為に私はコップに入った水を一気飲みする。

「夏芽」
「……な、何でしょう?」
「気を付けろよ……月島の奴。アイツ、音駒のトサカ頭の人より厄介だ」
「……んん??黒尾さんよりってツッキーの何が厄介なの……?キザっぽい黒尾さんの方がよっぽど怖くない??」

何故か影山から突然忠告を受けた私。一体何が厄介なのか。例えばツッキーに自分の弱味を握られたら最後、とか?だったらツッキーもわざわざ私達をここまで連れて来る事はまずないだろう。そもそも私は、ツッキーには合宿中に酷い寝顔を散々晒しているので弱味は十分握られているが、ツッキーからそれに関して今の所言及されていない。だから影山が言うほど悪い人では無いはずなのだが。

「あー!!とにかく、だ!アイツはヤバいんだボゲェ!!」
「何がヤバいの……って、ああっ!私のチーズケーキ!」

次の瞬間、私のチーズケーキを横取りした影山はドヤ顔でむしゃむしゃと食べている。影山が一口で全部食べてしまったので、私の皿には何も残っていない。

「かっ……!」

食べかけなのだから必然的に間接キスになってしまうというのに、それを無自覚でやってる影山の方がよっぽど厄介だ。そうだ、前に一緒にアイスを食べていた時も、当然のように私から一口貰っていたではないか。いや、あの時は付き合っていたからああいうシチュエーションはあってもおかしくはないだろうけど、あまり影山はそういうのは気にしないタイプなのかな。意識しているのは私だけで……だったらそれはそれでショックだ。

「嬉しいような、悲しいような……なんか複雑だ」
「……あ?」
「なんでもないデス……ケーキ、取ってくる」

私も椅子から立ち上がって、チーズケーキを取りに行っているツッキーの元へと向かう。チーズケーキが乗ったバットを見つめるツッキーはスフレにするかレアにするか悩んでいる最中だった。

「もう食べ終わったの?」
「違う、チーズケーキ影山に食べられた……」
「は?僕には一口すら寄越さなかったのに?王様には贔屓ですかぁ??」
「……まぁ、影山とは4年目の付き合いですからねぇ」

ツッキーに悟られないように笑って誤魔化してみると、何故だが苦虫を噛み潰したような顔で私を見つめた。

「……気にしないんだ、そういうの」
「な、何を……??」
「ーーーーねぇ、アイツと付き合ってるの?」

その問いに一気に動悸が激しくなる。ただ否定をすればいいだけの話、そんなのは分かっている。

「付き合って、ない……けど」
「……ならもう少し距離感考えたら?その気はないんでしょ?いつか椎名に彼氏が出来た時、絶対困ると思うけど?」
「ーーーーえ?私に、彼氏……??」
「無いとは言い切れないだろ?出来るとも限らないけど。……それとも何、アイツに気があるとか?」
「っ、」

言葉が詰まって何も言い返す事が出来ない。どうしてツッキーにそこまで言われなきゃいけないんだろう。私と影山の事なんて、彼には関係ないのに。でもだからといって、私が影山に気があるなんて事、口が裂けても言えない。
ここ最近のツッキーはどうにも変だ。少し前までは他人の人間関係に深入りするような人間ではなかったはずなのに。

「……悪い、ちょっと言い過ぎた。今の忘れて」
「あ、うん……大丈夫」
「ねぇ、これ半分にしてシェアしない?流石に2個はもう食べ切れないし」
「既にショートケーキ3個も食べてるしね?いいよ」

レアチーズとスフレチーズを指差すツッキーはすっかりいつも通りの彼だ。皿に盛っているツッキーの姿を見届けていると、ブレザーの上着のポケットに入っていたスマホが突如震え出した。ポケットからスマホを取り出すと、ディスプレイには登録されていない番号が表示されている。

「つ、ツッキー!なんか知らない番号から電話が来てるんだけど、これは出た方がいいのでしょうか!?」
「……は?まさか黒尾さんとかじゃ……」
「黒尾さんではない!断ったし、他の音駒の人にも教えてないから違うはず」
「他に心当たりはないの?」
「……うーん、特にないかな。仲良い人とは電話番号も交換済みだから」
「じゃあ間違い電話じゃない?それか迷惑電話」
「迷惑電話……!?それってあれ?詐欺とか……?これ出たら私は有料サイトの利用料金が未払いだとか言われて架空請求業者にお金を騙し取られるの……!?」
「有料サイトって……意味ちゃんと分かってて言ってる?」
「?よく分からない」
「…………」
「あ、切れた」

ツッキーとあれこれ話をしていると、知らぬ間に電話は切れていた。改めて数字の羅列を見ると、携帯からの着信だった。

「とりあえず知り合いかもしれないし、後でかけ直してみれば?怪しかったら切ればいいし」
「うん、夜にかけ直してみようかな。本当に知り合いだったらまた向こうから掛けてくるかもしれないからその時出てみる。ありがとうツッキー、お騒がせしました」
「ホントにね」
「……申し訳ない」

自分は交換したつもりでも、中学や高校の同級生の中で漏れている人がいたのかもしれない。或いは小学校の頃の同級生が人伝に私の番号を聞いて掛けてきたとか、よくよく考えたら可能性は色々あった。

「さっさとチーズケーキ食べよう。時間も限られてるんだから」
「ホントだ、あと30分しかない。あ、あの苺タルトも追加していいですかっ。シェアしたいです」
「じゃあ僕上の苺食べるから椎名はタルト生地ね」
「新種の嫌がらせかっ。そんなツッキーには一滴もカスタードあげないから。そうだ、影山にも何か持ってってあげようよ?何がいいかなー」
「…………」
「え、何で睨むの……?」
「……別に?」

結局その日の夜、その番号からまた電話が掛かってくる事は無く、私自身も着信の存在をすっかり頭から抜けてしまって、かけ直す事を忘れていた。そしてその電話の相手を知る事になるのは少し先の話だった。

(2020.10.19)

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