5月も半ばが過ぎた頃、IH予選まで1ヶ月を切っているという現実に私は酷く焦っていた。予選は6月2日。勘違いではないかと何度カレンダーを確認してもこの事実は決して変わる事はない。
「……というわけなんだけど、どう思う?ヒトちゃん」
「さ、サプライズでありますか!?そんな大事な相談を私なんかでよろしいのでしょうか!?」
「もうヒトちゃんしかいないんです……!!」
帰りのホームルームを終えた放課後、一緒に5組の教室を出て、階段を下っているヒトちゃんに私は一つ相談をした。幸い5組にはバレー部の人間は居ないし、容易に打ち明けられる相手がいるとしたらもう彼女しかいないのだ。話の内容は大会前、激励の意味を込めて何かサプライズを計画するべきか否か。5月に入った頃から何となく頭には入れていたが、合宿や月末の中間テストの対策に追われていたら、気が付けば時は過ぎていた。
「サプライズって言っても、そんなに大掛かりじゃなくていいんだ。さり気ない感じというか……」
「あっ、例えばお守りをプレゼントするとか、そんな感じ?」
「そう!そんな感じ!」
「じゃあ、手作りとかはどうかな?」
「手作り……」
中学の頃に手作りでユニフォームのマスコットをプレゼントした事はあるので、その案は考えたりもした。しかし、今回の場合はテスト勉強をしないといけないので、全員分を作れる時間が果たして確保出来るのかが難しい所だった。
「……そもそもなんだけど、潔……3年の先輩は何も言ってないのに、後輩の私なんかが出しゃばるのはどうなんだろうか……」
「っその気持ち分かるよ!!私も口出ししちゃった時とか"私みたいなちんちくりんが差し出がましい事を申しまして、申し訳ないです!"って思うから!!」
「ヒトちゃんの場合は自分を過小評価し過ぎなのでは……?」
「ちょっと待って……?それこそ私が出した案がイマイチだった時、当日の皆さんの反応を想像すると今にも吐きそうっ……!!ううっ……!!」
「……ごめんねなんか変な相談しちゃって」
部活動に所属していないヒトちゃんには少々荷が重い話だったかもしれないと、今更ながら反省をする。いくら仲が良いとはいえ、何でもかんでもヒトちゃんを頼るべきではなかった。これはサッカー部やバスケ部のマネージャーの子を捕まえて相談した方が良かったのかもしれない。
「……で、でもやっぱりその先輩に相談してみるのが一番じゃないのかな?」
「えっ」
「夏芽はバレー部の人達の士気を上げたくて、激励を送りたいんだよね?その気持ちを素直に伝えてみれば、その先輩も分かってくれると思うんだけど……どうかな?」
「勿論後輩から意見するわけだから、勇気はいるとは思うんだけど……」とヒトちゃんはアドバイスをくれた。……確かにそれが一番大事なのかもしれない。折角ヒトちゃんが背中を押してくれたのだから私も勇気を出して頑張ってみようと思う。
感極まった私はヒトちゃんの手を取って握りしめた。
「はぅあっ!?」
「話聞いてくれてありがとう!」
「た、大したアドバイスなんか出来てないけどいいのかな……?」
「そんなこと無いよ、ヒトちゃんから勇気もらえたから。先輩にちゃんと話してみるね」
「……!健闘を祈ります!!」
それから階段を降りて一階に辿り着くと、下校するヒトちゃんは昇降口へ、片や私はこれから部活動で体育館に向かうので、そこで私達はお別れをした。校舎を出てから渡り廊下を軽い足取りで歩んでいると、前方に見知った背中が視界に入った。
「潔子先輩!」
小走りで先程話題に上げていた潔子先輩の後を追いかけると、小さく肩を揺らしながら振り返った潔子先輩は、私の姿を捉えるなり、口元を緩めた。
「夏芽ちゃん。そんなに走らなくてもいいのに」
「潔子先輩の姿が見えたんで、つい……。もしかして今のって田中さんや西谷さんみたいでしたか……!?」
「ふふっ……!夏芽ちゃんが田中たちみたいだなんて、そんなはず無いから大丈夫だよっ……!」
「それなら安心しました……」
潔子先輩の隣に並んで、他愛のない会話をしながら話を切り出すタイミングを考えた。話をするならば、リスクの少ない二人きりの時の方が他人に内容を聞かれる心配も無い。問題はいつそれを切り出すか、だ。眉を寄せて考え込んでいると、潔子先輩が私の顔を覗き込んできた。
「……何か悩んでる?」
射抜くようなその視線に息を呑んだ。ここまで来たらもう言うしか無い。ヒトちゃんからも心強い言葉を掛けて貰ったのだから。周囲に私達の他に人が居ないか一度見渡した後、私は覚悟を決めて口を開いた。
「……インハイ予選、もうすぐですね」
「うん。来月入ったらすぐだね」
「――――私に何か出来る事はないですか?」
それを口にした後、ゴクリと生唾を呑み込んだ。どんな言葉が返ってくるか、緊張で心臓の鼓動が煩い。僅かに目を見開いた潔子先輩は、徐に私を体育館の中へ入るように促した。
「夏芽ちゃん、ちょっとこっち来てくれる?」
まだ誰も居ない体育館の中に入ると、そのまま潔子先輩は女子更衣室に向かうので、私もその後ろを着いて行く。更衣室で一体何をするのだろうと考えていると、潔子先輩は普段私達が使用していないロッカーから謎の大きな紙袋を取り出した。
「!これって……」
潔子先輩が紙袋から取り出して、綺麗に畳まれていた黒い布のようなものを床に広げると、それは横断幕だった。黒地の布に白字に大々的に"飛べ"と描かれたそれはシンプルだけど、何だか烏らしくて腑に落ちる。長く使われていなかったのか、横断幕には所々解れや汚れが見受けられた。
「合宿の時にね、掃除をしてたら偶々見つけたんだ。……私はこの横断幕を修繕して、皆に見せたいの」
「!だったら私も、」
手伝います、と私が言いかけると何故か潔子先輩は静かに首を横に振った。
「ありがとう、でもこれは私にやらせてほしいの。……それに私には夏芽ちゃんは他に何かやりたい事があるように見えたから」
「えっ、私がやりたい事、ですか?」
思わぬ返答に振り出しに戻った私は狼狽えながら案を必死に考えた。てっきり二人で案を出し合うか、またはこの横断幕を潔子先輩と一緒に補修するものだと思っていたから。
――――勉強時間も確保しつつ、私がたった一人で出来る事は一体何だ?
「じゃあ、手作りとかはどうかな?」
「!あ、」
「夏芽ちゃんも何か見つけたみたいだね」
「何となくですけど……」
思い出したのは先ほどのヒトちゃんのあの助言。あの言葉に私は何かヒントを貰えたような気がした。
「大丈夫、きっと誰よりも喜んでくれる人がいるはずだから」
「誰よりも……?」
それから口元に弧を描いて笑う潔子先輩は、何処か自信があるかのようにそれを言った。
▼
「ホントだ!スゲー!写真でけー!」
今日の夕練終了後、用具の片付けを済ませていると、ふと田中さんの声が聞こえてきた。声がした方に視線を向けると、東峰さん、菅原さん、田中さん、西谷さんが何やら一冊の雑誌を食い入るように見ているようだ。
「なんスか!?どしたんスか!?」
「ホレ」
日向に続いて一緒に四人の元に近付くと、俺達に気が付いた田中さんが例の雑誌を手渡してくれた。その表紙を覗いてみるとそれは月バリだった。
「"高校注目選手ピックアップ"……?」
「今年の注目選手の中に白鳥沢のウシワカが入ってんだよ」
「白鳥沢って影山が落ちた高校!!」
「うるせえ!!」
日向を怒鳴りつけつつ、少し離れた所で噴き出している月島と山口にすかさず俺はガン飛ばすが、見事に逃げられた。
「これぞまさに"エース!"って感じだよなぁ」
とあるページに大々的に写真が掲載されていたのは、あの白鳥沢学園の牛島さん。牛島さんは県内でNo.1の圧倒的パワーと高さを持つ、超高校級のエースだ。そして白鳥沢学園自体も県内で一番強い学校である。俺も最初はその高校に進学しようとしていた。しかし推薦が来なかった為、一般受験をしたら見事に不合格だったが。
「(……そういえば)」
中学の時、夏芽も白鳥沢を志望していたはずだった。でもアイツは今、俺と同じ烏野に居る。当時、今のままの成績じゃ白鳥沢は少し厳しいと弱音を吐いていた事を思い出す。夏芽も俺と同じで、受験して落ちた口なのだろうか。それにしても夏芽はどうして烏野を選んだのか。此処は家から決して近い学校ではないし、頭の良いアイツなら幾らでも選択肢はあったはずだ。……まぁとはいえ、こうして夏芽と共に過ごせているのだから、あまり深く考える必要はないのかもしれない。
「はぁあ!?何だこのいけ好かねぇイケメン野郎は!!」
突如、声を上げて不快感を露にする田中さんにつられて再び雑誌を覗き込むと、いつの間にかページが変わっていた。隣に居た菅原さんがその記事を声に出して読み上げた。
「いきなりどうした田中ー。えーと、なになに……今注目の兵庫のイケメンセッター宮……侑……?はぁ!?イケメンで身長180オーバーでバレーが上手くて関西弁!?ハイスペックかっ!!」
セッターと聞いて火が付いた俺もその記事を読もうとしたその時、出入り口の方からバァン!と大きな衝突音がした。何事かと全員がそこに視線を注ぐと、距離感を間違えてドアに右半身をぶつけたのか、少し痛そうに腕を擦りながら体育館に戻って来た夏芽の姿があった。
「アッ、スミマセン……お気になさらず……」
「おいおい大丈夫か?気を付けろよ椎名ー」
「夏芽、お前ドジっ子か!」
「てか音っ!お、折れてはないんだよな……!?」
「アレで折れるわけないだろ!心配しすぎか旭は!」
「だって椎名って細いからすぐ折れそうで怖いんだよ!!」
「あ、東峰さん!折れてないんで安心して下さい!」
ほら、とぶつけた右腕を軽快に回す夏芽の姿にひとまず安心した。気を取り直して今度こそ記事に視線を戻すと、いつの間にか傍にやって来た夏芽も月バリに興味があるのか、食い入るように見ていた。
「しかしこの宮……名前が読めねぇ!金髪にツーブロって如何にもチャラそうな奴だな!」
「え、侑じゃないの?なんかコイツ性格の悪さが滲み出てる感じだよなぁー。なのにイケメンってムカつくわー」
「……いや、侑じゃなくて侑です」
「おお!よく読めたな椎名!」
"侑"って書いて"アツム"と読むのか。漢字が苦手な俺にはさっぱり読み方が分からなかったが、夏芽は当たり前のようにそれを読んでみせた。感心した俺はそんな夏芽に目を向けると、何故かコイツは遠い目をしている。
「……なんかさ、宮侑って誰かに似てないか?」
ふと東峰さんがそんな事を漏らした。東峰さんの言う誰かに似ているとは、有名人とかだろうか。普段からあまりテレビを観ない俺は流行りに疎いので、何一つピンと来なかった。思い当たる節があったのか、唯一菅原さんだけが"あっ!"と大きく声を張った。
「椎名ってなんかこの宮侑と似てる気がする!」
それからぐるりと俺を含め全員が夏芽の方へ顔を向けるのは一瞬の出来事だった。ジロジロと見つめられるのが相当居心地が悪かったのであろう、夏芽は気まずそうに視線を泳がせている。
「おぉ……!確かに似てるな!スガさん、よく気が付きましたね!」
「こうやって写真を横に並べて見ると……似てる!」
「ホントだ……!」
「ま、まさか私も性格の悪さが滲み出てますか!?」
「いや違う違う!!そういう意味じゃないから!なんというか、雰囲気?あと目元が似てる」
菅原さんが言う、目元をよく見てみると、少し眠たげな瞳と広めの二重幅は確かに似ている。眉毛は夏芽の方が断然細いが。
「どれどれ!?椎名、俺にもよく顔見せてくんない!?」
「ほっ!?」
「あんま近付くんじゃねぇボゲェ!!」
「あだぁっ!?」
無意識なのか、日向が夏芽に距離を詰めようとしているので、それ以上近付かせまいと慌てて頭を鷲掴んだ。
「そんなにこの人と似てるんですか、私……」
少しガッカリしたように声を落とす夏芽は、あまり嬉しくない様子だ。確かに女である夏芽が男に似ていると言われても複雑な気持ちを抱くだけなのだろうと、少し同情した。
「皆、まだ居るー!?」
その時、息を切らしながら駆け足で体育館にやって来たのは武田先生だった。何か俺達に伝達事項でもあったのか、その手には一枚のプリントが握りしめられていた。
「出ました!!IH予選の組合せ!!」
「!!」
待ちに待っていたその知らせに俺達は急いで先生の元に駆け寄った。プリントを受け取った澤村さんの背後から組合せ表を覗き込むと、烏野は一回戦、常波高校という学校と当たるようだ。
「一回戦勝てば二回戦、伊達工も勝ち上がって来れば当たりますね」
"鉄壁"の一言に尽きる伊達工は、どこよりも高いブロックを誇るチー厶。この伊達工に烏野は今年3月の県民大で2-0で負けているらしい。東峰さんと西谷さんが部活に参加しなくなった原因は、きっとこの試合なのだろう。
「ソレだけじゃないですよね。うちのブロックのシードに居るの、青葉城西ですよ」
月島の一言に、一気に空気が張り詰めるのが肌で感じる。練習試合の時には殆ど及川さんが不在の状態だった。あの時は烏野が勝利を収めたが、今回の場合は違う。たった一人、及川さんがコートに入っただけで空気が変わったあのチームに俺達は勝たなければならない。勝たなければいけないのは分かっているのに、らしくもなく身体が強張ってしまう。
「おい、"上"ばっか見てると足元掬われる事になるぞ」
烏養コーチの鶴の一声にはっとする。そうだ、何も頑張っているのは俺達だけじゃない。大会に出る以上、全員勝つつもりで来ている。それを忘れてはならない。
「目の前の一戦、絶対に取ります」
▼
帰宅後、晩御飯とお風呂を済ませて、自室のベッドに寝間着姿で寝転がる私はスマホとにらめっこしていた。
「クッキー、プリン、マフィン、レモンの蜂蜜漬け……」
参考までにネットで様々なレシピを見比べてみるが、一品だけでもレシピの数が多過ぎて返って悩んでしまう。
ヒトちゃんからの助言と、先日作ったお菓子を褒めてくれた影山とツッキーの舌を信じて、私はお菓子を作る事に決めた。しかし一体何を作れば皆は喜んでくれるだろうか。悶々とスクロールをしていると、私はある項目に目が留まった。
「……ゼリー、か」
水分が取られるクッキーやマフィンよりは、喉越しの良いゼリーの方が皆にとっては食べやすいのかもしれない。プリンに比べればさっぱりもしているし、フルーツも加えればビタミンCも摂取出来てお得だ。早速ゼリーのレシピの検索をかけようとすると、突如私のスマホは着信音が鳴り響いた。
表示された数字の羅列は、電話帳には登録されていない知らない番号からの着信。でもその番号には何となく見覚えがあった。
「あれ?この番号って……」
ツッキー達とケーキバイキングに行った時に掛かってきた番号と似ているような気がする。かけ直そうと思っていたのに、あの日の私はいつの間にかそれを忘れていたのだ。もう一度向こうから掛けて来たという事は、私の知り合いなのかもしれない。相手が誰なのかは知らないが、意を決して私は指をスライドさせて通話を許可した。
「……もしもし?」
『今回は出たか!!何でお前は掛け直さんのや!!着歴見ろや着歴をっ!!』
「っ!?」
電話の相手は自身の名前を名乗る前に矢継ぎ早に私を怒鳴りつけた。あまりの声のボリュームに思わず耳元からスマホを離して耳を塞ぐと、"おい、聞いとんのか!?"と再び雷を落とした。
『フッフ……まぁええわ。俺やで、俺。この声を聞いたら分かるやろ?』
「……すみません、私の知り合いに"俺"って名前の関西人は居ないので番号が間違っていると思います。それでは失礼します」
やはり間違い電話だったかと、真顔でそのまま通話終了ボタンをタップしようとすると、電話越しに制止の声が聞こえてきた。
『待てーいっ!!切ろうとすんなや夏芽!!ホンマは分かっとるんやろ!?』
「ちょっと何言ってるか分からないです」
『何でそこサンドやねん!!ちょっと流行ったからってすぐ使おうとすんなや!イトコの声も忘れてしもうたんかお前は!!記憶力どうなっとんねん!!』
「サンドウィ●チマンのあのフレーズは万能的なんだよ!あの人達は宮城の誇りなんだから馬鹿にしないでもらえます!?」
『怒るとこそこかーい!!馬鹿にはしてへんわ!なんなら俺も好きやし!!』
「……てか忘れるも何も声変わりしてるじゃん」
『……!!それもそうやなっ……!』
なんだろう、まともに会話をするのは小学生以来だというのに、この人と話すと毎回売り言葉に買い言葉で結果水掛け論になってしまう。それは昔から変わらないけど、この終わりの見えない茶番劇を延々と続けるのは東北人の私にはなかなか体力がいるので、思わず溜め息が漏れてしまう。
「……で、何で私の番号知ってるの?ーーーー侑くん」
噂をすればなんとやら。ちょうど我がバレー部でまさかイトコである侑くんの話題が上がった時はヒヤヒヤものだった。それは距離感を間違えてドアに思い切り右半身をぶつけるぐらいかなり動揺していた。菅原さんに似ていると言われた時はもう私の魂は半分抜けていた。
『フッフ、この前オカンとオバちゃんが電話しとった時にオバちゃんから聞いたんやで〜?スマホ買ってもらったんやろ?』
「個人情報漏洩だ……!お母さん何も言ってなかった」
『おい、俺ら親族やぞ。個人情報もクソもあるか。そらオバちゃんには夏芽には黙っといてくれって頼んだからなぁ?ドッキリや、ドッキリ。ちなみにメアドもばっちり聞いたから後で送るで〜』
「……今のうちにアドレス変えておこう」
『フッザケンナ夏芽!!人をおちょくるのもええ加減にせぇよ!!』
「人でなし野郎には言われたくないな」
多分……いや絶対、私が時々思った事をはっきり言うようになったのはこの人のせいだ。幼少の頃からいたずら小僧だった侑くんに私は散々振り回され、泣かされてきた。当時、そんな侑くんにやられっぱなしだった私は、負けてたまるかと成長するにつれてやられたらやり返すという術を身に着けると、気が付けばこうなっていた。どうか侑くんにはこの責任を取って欲しいと私は常日頃思っている。
『お前言うようになったなぁ……!口の利き方がなっとらんで!?』
「……それはもう、誰かさんのおかげで??それより治くんは?元気にしてる?久々に話したいから変わってよ」
『昔からサムには態度コロッと変えるのなんなん?アイツは今風呂に入ったばかりや、残念やったなぁ』
「それはアナタの日頃の行いでは……??治くんと話せないならいいや、切っていいかな??」
『立て続けの塩対応は流石の俺でも傷付く!!』
片割れである治くんと話が出来ない私はシュンと肩を落とした。
そして今、私の冷たい態度に電話の向こう側の侑くんが胸を押さえてその場に蹲っている姿が想像つく。侑くんがオーバーリアクションを取りがちなのは昔からの事なので、それは手に取るように分かった。
『それより月バリ見たか!?』
「うん、ちょうど今日見たよ。有名人みたいにあんなに取り上げられてて凄いね。髪色も変わってるし色々びっくりしたよ。もしや高校デビュー??」
『うっさいわ!!分け目変えてもどっちも黒髪やと周りが区別つかんねん!せやから俺は金髪にしたんや!なかなか似合うてたやろー??』
「……私のバレー部の先輩達からにはチャラそうって言われてましたけど。あまりに評判が悪かったから"実はこの金髪の人、私のイトコです"なんてとても言えなかったんだけど。私と侑くんが似てるって言われた時は冷や汗止まらなかったからね」
『あ"ぁ"!?言うとくけど、サムやって銀髪やからな!!お前んとこの学校、インハイで潰したろか!?……まぁとはいえきっと?宮城で全国行くんはウシワカんとこやろうけどな〜?精々頑張りぃや〜??』
侑くんのその心無い一言にプツンと切れた私も徐々にブレーキが効かなくなってくる。本当にこの人は「お互い頑張ろうな」とかそういう励ましの言葉が出ないのか。
「ホンッットそういうところ!いつだって上から目線!うちのセッターとその相棒ホント凄いから!凄い速攻使うんだから!」
『俺とサムを越える凄いコンビなんかおるわけないやろが!』
「やってみなきゃ分かんないよ!ビックリするほど速いから!手も足も出ないから!」
『ほぉーん!?それはお手並み拝見やなぁ!?』
結局お互い高校生になっても、話を交わせば言い争いになってしまうのは相変わらずの事だった。片割れの治くんと話をする時はいつも穏やかだったのに何故こんなにも対照的なのか。
『なんやお前と話してたら埒が明かんわ』
「それはこっちのセリフなんだけど」
『……まぁ今日の所はええわ。さっき家に帰ったばかりの俺は今から飯食うたり風呂に入らなアカンから、そこまでお前の相手してるほど暇やないねん。またそのうち電話するわ』
「……自分から電話掛けておいて失礼な奴だな。いいよもう掛けてこなくて、バイバイ」
『お前ホンマに腹立つなぁ!!近いうち絶対に掛けたるからな!!おやすみ!!!』
こんなにも全力で"おやすみ"を言う人ってきっと全国何処探しても侑くんしかいないのでは……?と思いつつ、一方的に切られた電話は先程まで騒がしかった筈が一気に静寂に包み込まれる。
「あ……治くんの連絡先聞きそびれた……」
一つ私は大事な事を思い出したが、今の私に侑くんにかけ直す気力はもう無かった。
(2020.11.23)
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