「ゲッ!?」
休み時間に何気なくスマホの通知バーをチェックしていた私は、ソレを見るなり人目も気にせず教室内で声を上げた。露骨に顔を歪める私の姿に、クラスメイトたちが不思議そうにこちらへ顔を向けるが、私自身はその視線に気付きもしない。
「絶対これ授業中も送ってるでしょ……。まともに授業も受けてなくてあの人大丈夫なのかな……」
メールの受信BOXには上から下まで宮侑の名前がずらりと続いていて、少し恐怖を覚える。休み時間や夜の時間帯に送ってくるのならまだしも、明らかに授業中であろう時間帯にもお構いなく送ってくるのだ。それも電話をしたあの日から高い頻度で来ている。早速未読のメールを開くなり、内容を見た私はげんなりとした。
"あかん、もう腹減った"
"我慢できんくて早弁してもうた!今日の昼飯どないすんねん!!"
"今日英語の小テストあるのすっかり忘れてたー!!あかん、終わった"
"なんで俺は数学の勉強なんかせなあかんねん。サイン・コサイン・タンジェントってなんなん?なんかの呪文か?あんなん別に社会で役立たんやろ。俺は将来バレーで飯食ってくし"
"あかーん!!!サムと喧嘩しとったら北さんに怒られた!!何で北さん2年の棟におったんや!?"
"おい、無視すんなや。はよ返事よこさんかい"
届いたメールはどれも中身のないものばかりだ。これらを私に逐一報告する意味はあるのか。そして"あかん"ってフレーズが多すぎる。というか"北さん"って誰なんだ。なんでおったんや、って私が知るはずがないだろう。あの侑くんが敬称をつけているという事は部活の先輩だろうか。ちょっと触れてはみたいが、生憎その話に踏み込もうとメール1通を送信するにつき、10通くらい小分けで返って来そうなので返信する事は諦めた。最後に返事の催促を求められてるような気がしたが、それは見てみぬふりをする。メールはLINEと違って既読機能がないので、侑くんとのやり取りに限定すると便利である。
「"そんな事よりいい加減、治くんの連絡先を教えて"……と、」
この一文を何回送った事か。ツブヤイター化している侑くんのメールを全てスルーして、双子の治くんの連絡先を聞き出そうと試みているが、侑くんは一向に教えてくれない。寧ろ返事が来たかと思えば、"なぁ、夏芽って彼氏おるん?"などと全く違う話題にすり変えられるので、最早これはお互い一方的な言葉のドッジボールになっている。そもそも私達がまともに会話が成り立った事は殆どないが。だからもちろん私もその質問には答えない。自分は名前入りのウチワを持って応援しに来るファンがいるからって、くそう。
そうこうしていると再び侑くんからメールが来た。流石にやっと教えてくれるのかと思いきや、
"なぁホンマに彼氏おらんの??毎回スルーするって事は図星やな(●・´艸`・)まぁそもそもお前みたいな可愛げのない女を好きになるんはよっぽどの物好きやろうしー?なんや野暮な事聞いて悪かったなぁ(●・´艸`・)"
「…………はぁ!?」
その文面を読んではスマホを握り締める力が一層強くなる。怒りで震える私を目にした隣の席の男子生徒が別の意味で震え上がっている事など知る由もない。
最後の顔文字を使っての煽りがより私の神経を逆撫でし、それは引き金となった。……おかしい。ここ数年の間はこれほどまでに人に対して腹を立てる事は滅多になかったのに。それはきっと侑くんと暫く関わっていなかったからだ。元々侑くんも、一見おっとりしてそうな治くんも気は長くない方だ。私も彼らときっと同じだという自覚はある、ただそれを忘れていただけであって。今の所、私がここまで感情的になるのは大体侑くん対してだけだが、仮にも従兄妹とはいえ私にも宮の血が半分流れているのだから結局はDNAには抗えないという事なのか。
「夏芽ー!!」
小走りで教室に戻って来たヒトちゃんは慌てた様子で私の机にやって来た。額にうっすら汗が滲み出ている様子からすると、相当急いでいるみたいだ。
「ヒトちゃん?そんなに慌ててどうし、」
「ちょっと夏芽、早くっ!早く来てほしい!」
「うおっ!?」
意外にも力があるヒトちゃんに勢いよく腕を引かれて、私はあっという間に廊下に連れ出された。そのままヒトちゃんに腕を引かれるがまま彼女の後を駆け足でついて行くと、廊下のある一角に小さな人だかりが出来ていた。
「夏芽!!見てこれ!!」
興奮気味のヒトちゃんが指差すのは、廊下の壁に張り出された掲示物。それは先日終えた1学期の中間テストの学年順位表だった。そこには上位10位以内の生徒の名前が並んでいる。早速上から順番に名前を追っていくと、私はヒトちゃんが言わんとしていた事にようやく気付いたのだ。
「あっ!」
「凄いよ夏芽!!夏芽ってこんなに頭が良かったなんて私知らなかったよ!!」
順位表には大きく【2位 椎名夏芽(5組)】と私の名前が張り出されていた。確かに今回のテスト勉強は自分でも頑張ったつもりだったし、その甲斐もあって中間テスト本番も結構手応えはあった。進学クラスだし、10位以内に入る事は目指していたが、まさか自分が2位に食い込むなんて思いもしなかった。嬉しさのあまり私は上着のポケットからスマホを取り出して、記念にこの結果を写真に収めた。
「おっ!?なぁなぁ山口、月島見ろよ!!椎名が学年2位だ!!スッゲー!!」
「ほ、ホントだっ!!確かに椎名も進学クラスだけどこんなに凄かったんだ!!ねっ、ツッキー!!」
「チョット、そこの二人騒がしいんだけど。一緒に居て恥ずかしいからやめてくれる?たまたまじゃないの」
「たまたまとは聞き捨てならないんですが月島サン」
見知った顔を見付けては、すかさずツッキーに言及をすると、悪びれる様子もなく「あれぇ?椎名サンそこにいたのー?ゴメーン、相変わらず小さくて気付かなかったぁー」と彼自身も相変わらず煽ってくる。
「おぉ椎名!!ちょうど良い所に……て、あれっ?椎名のトモダチか?」
物珍しそうな顔で私のすぐ後ろに立つヒトちゃんを指差したのは日向だった。山口も何故か私達を見るなり「これが噂のミニマムコンビ……」と謎の独り言を呟いている。ミニマムコンビとは一体……。
「うん、同じクラスの子だよ」
「や、谷地と申します!!夏芽とは仲良くさせていただいておりますっ……!!」
「へぇー!谷地さんって言うのか!俺は日向!で、こっちが山口でこっちの眼鏡が月島!俺達は椎名と同じバレー部なんだ!よろしくっ!」
「こ、こちらこそ!ふ、ふつつかものでありますが、よろしくお願いシャスっ!」
日向達とは初対面だからか、かなり畏まった言い方で挨拶をするヒトちゃんは相当緊張しているようだ。コミュニケーションオバケの日向に、山口とツッキーはそこらへんの男子に比べれば身長が高くて威圧感がある。特にツッキーの方はそれに加えて性格が少し捻くれているので、ヒトちゃんが身構えるのも無理はない。
「てか椎名が学年2位だなんてスゲーな!何点取ったら2位になれるんだ!?」
「今回のテストは手応えはあったけど、これは自分でもビックリしてるよ……」
「俺、英語が苦手だから今度椎名に教えてほしいな……ってあっ!?ご、ごめんツッキー!俺はそういうつもりで言ったわけじゃ……!!」
「……何で僕に謝るの山口」
「椎名さ、そんなに学力あるならもっと偏差値高い学校に入れたんじゃねーの?何で烏野にしたんだ?」
「たっ、確かに!!そうだよっ!!夏芽なら例えば白鳥沢とか入れそうじゃないっ??」
「ちょっとやめときなよ〜?王様みたいに白鳥沢落ちて烏野に流れて来た口かもしれないんだからさぁ??」
ツッキーになかなか痛いトコロを突かれてギクリとした私は視線が泳ぐ。その表情で何かを察したツッキーは、「え、マジなの……??」と低い声で呟いた。
「……実は白鳥沢は受けようとは思ったけど、受けなかった。偏差値足りなかったし」
「それでこっちにしたのか!2位の椎名が厳しいって言ってんのに、影山の奴はなんて無鉄砲なんだ……」
本当は"ソレ"が理由で変えたんだけどね、という言葉はぐっと呑み込んだ。まさか此処で張本人と再会してしまうとは思いもしなかったけど。
「あ、そろそろ予鈴鳴りそうだ」
「ホントだ!じゃあまた部活でな!谷地さんもまたね!」
「あ、あい!また!」
「うん、またねー」
山口のその一言にそこで私達は各々教室に戻る為に散り散りになる。一足先に教室に向かう日向が振り向き様に手を振ったので、私達も振り返した。
「さっき言ってた、カゲヤマ……さん?って人は夏芽達の知り合いなの?」
今の日向達との会話で聞き慣れない人物の名前が上がっていたからか、二人きりになったタイミングでヒトちゃんが私に問い掛ける。
「うん、影山って人も同じバレー部で、すっごく上手いんだよ。影山とは中学の同級生なんだ」
「へー!夏芽の同級生かぁ。見てみたいなぁ」
「影山は背高いから目立つし、分かると思うよ」
「や、やっぱりバレー部って皆背が高いのですね……!!」
談笑しながら廊下を歩いていると、ちょうど3組の教室の前を通り掛かる所だ。開いたドアからチラリと教室の中を覗くと、窓際に着席している影山は相変わらず机に顔を伏せていた。
「テスト大丈夫だったのかなぁ……」
もしかして試験中も寝てたとかじゃないよね、と少し不安に思う。
影山は勉強が苦手で、中学の時も何度か躓いていたようだった。加えて当時も授業中の居眠りが多かったと話は聞いている。それでも中学は留年制度がないから、余程の事情がない限り誰でも卒業する事が出来る。しかし義務教育の中学と違って、高校は成績があまりにも悪いと留年になってしまう。あの様子じゃいつか影山は私達の後輩になってしまうのでは、と懸念するのはただの私の思い過ごしだといいのだけれど。いや、一般受験で烏野を受かっているのだからそこまで重く考える必要はないと信じたい。
「どうしたの?」
「ううん、ごめんね。ただの独り言」
予鈴が間もなく鳴るというのに、全く起きる気配のない影山に苦笑いが洩れた。
▼
「フンフフ〜ン♪」
今日の帰り道の夏芽はやけに上機嫌だった。何か嬉しい事でもあったのか、頬を緩ませながら俺の横で珍しく鼻歌を口ずさんでいる。ちなみにその鼻歌が一体何の曲なのかは俺には全く分からないけれど。
「何か良い事あったのか?」
「えっ??」
その理由が知りたくて夏芽に尋ねてみると、驚いたように目を丸くした夏芽は「そんな風に見えたの?」と素っ頓狂な声を上げた。
「?だって嬉しそうに鼻歌歌ってただろ、今」
「は、鼻歌……!?無意識だった……!」
「うぁーどうしよう!完全に浮かれてた〜!」と恥ずかしそうに顔を赤くする夏芽の姿に「可愛い」と言葉にしそうになり、慌てて自身の口を押さえた。いや、上機嫌に鼻歌を歌ってる夏芽もなかなか可愛かっ…………駄目だ、少しでも油断をすると墓穴を掘りそうなので、俺はこれ以上何も考えない事にする。
「……実は、この間の中間テストの順位が学年2位だったんだ」
それが嬉しくてつい、と夏芽は笑顔で語る。高校生になってから夏芽は表情が明るくなった。中学2、3年の頃の夏芽だったらまずこんな風に自分の話をしなかった。今思うとあの頃の夏芽は、ずっと深刻そうな顔をして何かを押し殺している様な、そんな雰囲気を纏っていた。それは間違いなく俺が原因だったという自覚はある。
「すげぇな……何点取ったら2位になれるんだ……?……まぁお前は中学の時から頭良かったもんな」
「あはは、日向と同じ事言ってるー。テストはね、少しでも良い点取りたいから頑張っちゃうんだよね、へへっ」
「…………」
「影山?」
「……あ、いや」
この笑顔を取り戻せて良かったと、心の底から思う。もう俺に向けてくれる事はないだろうと、取り返しのつかなかったあの時は諦めていたから。でも夏芽は色んな表情をまた見せてくれるようになった。穏やかな顔、笑った顔、困った顔、キョトンとした顔、ちょっとムッとした顔――――ずっと望んでいたソレ。自然体で月島と仲良くしているのは気に食わないが、やっぱり夏芽はこっちの方がよく似合っている。
「影山はどうだった?テスト」
「……英語と数学と現文が赤点だった」
「……ごめん、ちょっと目眩がしてきた」
思い切り視線を逸らしてその問いに答える俺に夏芽は「あれ……?今回って5教科だったよね……??」とブツブツと何かを呟きながら頭を抱える。
「お願いだから、留年はしないでね……」
「……ヤバくなったら、その時は頼む」
「いや、その頃には時既に遅しですね。ねぇ影山、知ってる?2年になると数学でサイン・コサイン・タンジェントとか言う謎の呪文を習うらしいよ?」
「サイン……?署名の方か?それとも合図の方か?」
「いや、絶対に違うと思う。今のうちに習った範囲を理解しておかないと後で痛い目見るよ」
「うっ……!つーか前から思ってたけど、何で夏芽はそこまで実力あるのにわざわざ烏野にしたんだよ?白鳥沢受からなかったのか?」
別に踏み込む必要はないと思ったが、やっぱりどうしても気になってしまう。ただの興味本位で不意にその質問を投げ掛けると、夏芽は突然足を止めてその場に立ち尽くした。
「――――そもそも受けてないよ白鳥沢は。第一志望、烏野にしてたから」
これ以上触れてほしくないような、強張ったようなその声色に一瞬、息が詰まった。夏芽の方へ視線を落とすと、横髪でその表情は見えない。てっきり受験して落ちたものだと思っていた。それにいつから夏芽は志望校を変えていたんだ。どうしてもそれが知りたくて尋ねようとした時、ピコンと何処からかスマホの通知音が鳴り響いた。
「?なんだろう」
音の発信源は夏芽のスマホからだった。ポケットからスマホを取り出して画面を操作した途端、何故か夏芽の顔は一気に歪んだ。何か打つような素振りもなく、何事も無かったように夏芽はスマホを閉じてポケットに仕舞い込むが、スマホは再びピコンピコンと鳴り続ける。スマホが入ったポケットを鬱陶しそうに見つめては、ガン無視を決め込んでいる。
「それ、ずっと鳴ってるけど大丈夫なのか?急用とかじゃ……」
「……あぁ、これ?全っ然大丈夫」
「!お、おう……?」
やけに棘のある物言いに思わずギョッとする。ここまであからさまに不機嫌な態度を取る夏芽は初めてだ。夏芽をこれほどまでに怒らせるのだから相当嫌な相手なのだろう。通知音がようやく鳴り止んだかと思えば、今度は電話の着信音が鳴り響いた。
「電話、流石に出た方がいいんじゃねぇか……?」
「……あー、もう、」
鬱陶しそうに大きく溜め息を吐く夏芽はやはりいつもと全く態度が違う。ディスプレイに表示された番号を見れば、夏芽は更に顔を歪めて後頭部を掻いた。
「はぁ……ちょっとごめんね、」
「大きい声出すかもしれないけど、気にしないでね」という言葉を残して夏芽は電話を受ける覚悟を決めた。大きい声とは一体……?と首を傾げた瞬間、俺は理解した。
「もしもし!?あのねぇ、毎日毎日性懲りも無くアナタは暇人ですかぁ!?メールだって迷惑メール並みの量なんですけどっ!!人でなし野郎なだけあって嫌がらせしか出来ないのかなぁ!?今度やったら受信拒否するからね!!」
ここまで感情的に他人に暴言を吐く夏芽に再び俺は目を丸くした。まるで俺が怒られているのではないのかと、自然と背筋が伸びる。一度だけ俺の為に夏芽が月島に怒った姿を目にした事はあるが、ムキになっていても幾らか理性が残っていたあの時とはまるで違う。
「えっ……?もしかしてこの声って、治くんですか……!?ヤツじゃなくて?え、だってこの番号ってヤツの……あ、ドッキリ?何だビックリしたー!あ、ヤツが今トイレに入ってるって情報はいいよ。ごめんね、ヤツだと思っていきなり暴言吐いちゃって……申し訳ないです……。……うん、久しぶりだね、元気にしてた?」
ところがさっきとは打って変わって夏芽は笑顔で通話をしている。その姿と会話の内容を聞く限り、電話の相手は"ヤツ"と呼ばれた持ち主本人では無く、"オサムクン"という人物が"ヤツ"の携帯を使って夏芽に掛けて来ている様子だ。……つーか、"オサムクン"って誰だ。俺の知る限りでは"オサム"という名前の知り合いは居ないし、何より夏芽が異性を名前で呼ぶ事自体が珍しい。
「髪の毛銀髪にしたんだって?かっこいいね、見てみたいなー。……うん、しばらく会ってないもんね。久しぶりに会いたいよね。今度いつ会えるかなぁ」
聞き捨てならない言葉を聞いて俺は固まる。"かっこいい"とか"会いたい"だなんて、俺でさえ夏芽から言われた事が無かったというのに(つか、未だに名前すら呼ばれた事もねえのに)、それをすんなりと言わせる"オサム"は何者なんだと、電話越しのそいつに対抗心を燃やした。
「……今?部活が終わって帰ってる途中だよ。うん、一人じゃないよ。……ん!?なんか今ヤツの声が聴こえなかった!?せやなぁ、じゃなくて!いや、代わらなくていいよ!?あ、後で治くんの連絡先教えてね!それじゃあ切ります、サヨーナラ!」
携帯の持ち主の"ヤツ"がトイレから戻って来たのか、それを察した夏芽は、突然取り乱すなり"ヤツ"と話を交わす事を必死に拒んでいる。"オサム"との関係性は一番気になるが、あの夏芽が煙たがる程の"ヤツ"と呼ばれた人物との関係性もまた気になってしょうがない。
"オサム"が"ヤツ"と電話を代わろうとした途端、すかさず夏芽は通話を切り、「あ、危なかった……!」と肩で息をしている。
「あの、お騒がせしました……」
「……今のはどちら様ですかコラ」
「治くん?あぁ、従兄妹だよ。一個上の」
深読みしすぎた俺はその場で躓きそうになるが、何とか持ち堪えると同時に相手が親戚だと分かった俺はホッと一安心をした。てっきりいつの間にか彼氏でも出来たのかと思った。
「……名前で呼んでたから彼氏なのかと思った」
「えっ?まさか、彼氏なんか居たら毎日こうして影山と帰ってないよー」
「っ!」
何食わぬ顔で答える夏芽に目を丸くする。それは一体どういう意味で言っているのか。彼氏が居ないから俺と毎日帰っているのか。それとも――――。いや、都合良く解釈するのはよそう。
「……っじゃあ、"ヤツ"とか言ってた奴は?そいつも従兄妹なのか?」
「…………アレはただの人でなし、人格ポンコツ野郎、中身小学生男子、金髪ヤンキー、ガキ大将――――」
「……もういい、分かった」
"オサムクン"の時とは裏腹に、"ヤツ"の話になると目が据わった夏芽から息をするように次々と出てくる悪口に俺は何とも言えない顔をしていたはずだ。
(2020.12.20)
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