――――IH予選前日。その日はすぐにやって来た。
チクタクと時計の針が進むにつれて、そわそわと気持ちが落ち着かなくなっているのが自分でも分かる。部活の終了時刻が差し迫っている今、無意識のうちに何度も時計を確認してしまう。……緊張したところで、これから自分のやるべき事は変わらないというのに。
「おーし、お前ら明日も早いからそろそろ切り上げんぞー」
烏養コーチから集合がかかり、明日の大会の事を少し触れてから「それじゃ今日はしっかり休むように」とその一言で最後を締めた後、武田先生から待ったの声が掛かる。
「マネージャーの二人から!ではまずは清水さん」
「……激励とか、そういうの……得意じゃないので……」
何も知らされていない選手の皆が頭上にクエスチョンマークを浮かべるのを横に、潔子先輩は緊張した面持ちで紙袋から丁寧に折り畳まれた横断幕を取り出し始める。それを受け取った武田先生と潔子先輩が梯子を登って二階の柵に横断幕を括り付けるのを私達は一階から黙って見届けた。「なんだなんだ?」と今だに首を傾げている皆はまだソレが横断幕である事を認識していない様子だ。
「せーのっ」
「っ!!」
バサッと大きく広げられた横断幕は、私が初めて潔子先輩に見せてもらった時よりも綺麗に補修されていた。解れも、汚れも、それらはまるで無かったかのように。
3年生の先輩達も初めて横断幕を目にしたのか、「こんなのあったんだ……!」と驚きの声を洩らしている。西谷さんと日向に限っては人一倍キラキラと目を輝かせていた。潔子先輩は皆の姿を一通り見渡した後、静かに息を吸った。……多分、潔子先輩はこれから何かを伝えようとしている。
「……が、がんばれ」
それから数秒の間、体育館の中には沈黙が訪れた。その空気に居た堪れなくなった潔子先輩は少し顔を赤くしながらそそくさと一階に降りようとしている。暫くすると、3年生組と西谷さん、田中さんの目には大粒の涙がぼろぼろと流れ始めた。皆が揃って終始無言でただひたすら泣いているという光景は非常に奇妙なものだった。影山達もその様子をギョッとした顔で見ている。でも、あの潔子先輩から激励を受けたのだから仕方ないと言えば仕方がないのかもしれない。
「清水っ!!こんなのハジメテッ……!!っよし!明日、一回戦絶対に勝っ、」
「ま、待って!夏芽ちゃんからもまだあるの!」
潔子先輩の慌てた声にハッと我に返る私。折角、良い雰囲気で今日を終えようとしているのに、締めが私で良いのかと一気に不安な気持ちに陥った。全員が向けた、何か期待を寄せる視線に私は応える事が出来るのか。だって、潔子先輩の言う「頑張れ」と私の「頑張って下さい」じゃ全く言葉の重さや響きが違う。あれだけ張り切っていたのに、いざとなると逃げ腰になってしまう。
「大丈夫だよ、夏芽ちゃん」
「潔子先輩……」
私の気持ちを見透かすように潔子先輩から背中を軽く押される。それが心強かった。
潔子先輩は誰よりも喜んでくれる人がいるはずだと言ってくれた。2、3年生には潔子先輩のようには響かないかもしれないけれど、せめて同級生達には僅かでもいいから届いてくれるといいなと考えれば、少し気持ちが軽くなった。
「……これは、私からのほんの気持ちなんですけど、」
「ん!?今度はなんだ!?」
意を決してステージの隅に置いていた保冷バッグのチャックを開ける私の姿を皆が興味津々に見つめて来る。人数分用意していた手作りのスイーツを順番に配っていくと、日向が横断幕の時と同様に目を輝かせた。
「フルーツゴテゴテのゼリーだ!!あれ?でもなんか下に白いのもある?」
「これはフルーツ杏仁ゼリーだよ」
「うまそう……!!これ椎名が買って来てくれたの!?」
「……いや、手作り」
「こんなお洒落なの作れんの!?すっげーな!!」
「焼菓子に比べれば簡単なんだよ」
日向とのやり取りを聞いて誰かが「これが手作り……!?」と呟く声が聞こえたと同時に影山とツッキーが肩を揺らし、手にしていたカップを目線の高さまで持ち上げたのが視界に入った。上の層は少し大きめにカットしたキウイ、オレンジ、苺をゼリーで固め、下の層は杏仁豆腐になっているソレを二人は穴が開きそうなほど見つめている。西谷さんはもう今すぐにでも食べたいのか、口から涎を垂らしていた。
「まさか清水と椎名からこんなサプライズを受けるなんてうちのマネージャー達は有能すぎか!!」
「う、うまそう!!あの、もう食べていいっスか!?」
「まぁ待て待て、椎名からも何か一言あるんだろう?」
当然のように言う澤村さんの言葉にその場は静まり返った。追い打ちをかけるように全員から視線が注がれているからか、心臓の鼓動が煩くてしょうがない。勿論、言う事は決まっているけど、皆の顔を見ながらでは緊張で上手く話す事が出来ないだろうからなるべく見ないようにと、少し掠れた声で「あの、」と口を開いた。
「……決して楽とは言えなかった練習を今日まで皆さんお疲れ様でした。でも、それを当たり前だと思う人がいるだろうし、今日まで頑張ればいいって話ではないのは分かってます。IH予選も、これから先控えている春高予選も、皆さんが本気で全国を目指しているというのは充分に伝わってますから。……だけど、分かった上で言わせて下さい」
まるで独り言のように呟いていたソレは、言葉にしていくうちに徐々に熱が籠っていく。俯き加減だった視線も、気が付けば顔を上げて皆の顔をしっかり見つめていた。
「誰一人、大きな怪我を負うような事も、何らかの理由でまた部員の誰かが欠けてしまうような事もなく、このメンバーで明日を迎えられる事が何より私は嬉しいです。これまで本当にお疲れ様でした。――――だから、明日は大丈夫です」
言いたい事を全て言い切ったからか、すっかり緊張が解けて大きく安堵の息を吐いた。視線を皆の方へ戻すと、目を丸くしながら誰一人として口を開かないこの重い空気に今度は焦りを覚えた。
「……たまには良い事言うんじゃない?」
誰よりも先に沈黙を破ったツッキーの一言に皆が我に返る。彼らその表情は涙を流していた潔子先輩の激励の時とは違って真剣そのものだった。
「まさか後輩からこんなにも心強い言葉が貰えるとはな……」
「……そうだよな。全員が揃ってるのって当たり前のようで、当たり前じゃないんだよな。ついこの間までそんな状態だったのに、すっかり忘れてた」
「……潔子さんのお言葉も感動しましたけど、夏芽にもここまで言われたら明日は何がなんでも勝つしかないっスね」
「俺も……もう折れるわけにはいかないよ」
澤村さんと菅原さん、そして"誰かが欠ける"という言葉に誰よりも反応を示した西谷さんと東峰さんが呟いた。
「ったく椎名っ、そんな事言われると俺の立場がねぇだろうがっ」
「わっ!?」
不意に烏養コーチにわしゃわしゃと乱雑に頭を撫でられた。乱れた髪を慌てて手櫛で整えると、その姿を見た皆は声を上げて笑った。
「……よし!これ食ったら円陣組もう!」
「いいっスね!チームっぽい!」
「椎名!俺達の為に作ってくれてありがとう!」
それじゃあいただきます、と一斉に挨拶をしてからカップの中が空になるのはほんの一瞬の出来事だった。流石、部活終わりの男子高校生の胃袋である。その光景をしみじみ眺めているといつの間にか私の傍には潔子先輩が立っていた。
「夏芽ちゃんがバレー部に入って来てくれて本当に良かった」
「っ……!」
不意打ちのその一言に、この時の私は大層間の抜けた顔をしていたと思う。例えばツッキーにこの顔を見られたとしたらきっと「なにそのアホ面(笑)」と指をさされて笑われていただろう。まさか潔子先輩にそんな事を言われるとは思っていなかったから。暫くフリーズをしていると、澤村さんから「よし皆食べたな?じゃあ円陣組むぞ!」と声が掛かり、慌てて意識を取り戻した。
「夏芽」
頭上から聞き慣れた声が響く。当然のように私の右隣に並んだ影山はその腕を私の肩に組んだ。しかし私が肩を組むにもこの腕の長さでは影山の肩には届かないので、代わりに背中に腕を回した。
「あれ美味かった」
「……お粗末さまでした」
「やっぱり、店に売ってるヤツみたいだ」
「それは良かった」
お互い顔を合わせているわけではない。それでも緊張で返事がぎこちなくなってしまうのは、いくら円陣とはいえ完全に密着をしているから。Tシャツ一枚しか身に着けていないその背中からは影山の体温が伝わってくる。
「今年こそはちゃんとお前に応援してもらえる試合にする」
何かを決意したようなその言葉に私は勢いで顔を上げた。しかし互いの視線が交わる事はなく、影山のその横顔は強い眼差しで何処か遠くを見つめていた。
「……今年はベンチじゃないけど、応援席からちゃんと観てるから」
「おう」
応援席で一人は少し寂しいな、とそんな思いを胸の内に秘める私とは対照的に影山は満足そうに頷いていた。
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そして迎えたIH予選当日。会場になっている仙台市体育館に着いた直後、私達のジャージを見るなり他校の生徒からは例の異名を挙げてコソコソ陰口を言われたり、潔子先輩にナンパしようとする輩が現れるならば西谷さんと田中さんが威嚇したり、伊達工業の人に絡まれたりと色んな事が立て続けに起こっていた。
影山が"コート上の王様"と指を差されていた時はそれはそれは心臓が止まるかと思った。"王様"というワードに敏感な影山が他校生に絡んで乱闘騒ぎでも起こしてしまったら大会どころではなくなってしまうと懸念をしていたが、思いの外影山は相手を睨み付けるだけに留まったので内心ホッとした。いや、睨みつけるのも本当は良くないのだろうけど、相手に直接絡むよりはよっぽどマシだと自分に言い聞かせる。
「あっ!!夏芽ちゃん発見ー!!」
応援席で一人、横断幕を柵に括り付けていると後ろから名前を呼ばれた。振り返るとそこに立っていたのは及川さんと青城バレー部御一行様だった。及川さん単独ならまだしも、監督やコーチの方、面識のない人達も揃っていたので少し気まずさを覚える。そんな私の思いも知らず、及川さんは構わず私に話し掛けた。
「えー、なになに夏芽ちゃんボッチ観戦なの??可哀想だから俺も一緒に居てあげよっか?」
「おい、後輩にウザ絡みすんのやめろクソ及川。悪いな椎名。応援席はお前しか居ないのか?」
「岩泉さん、顔合わせるの練習試合の時以来ですね。お気遣いありがとうございます。うちのバレー部は人数少ないので私以外は皆下に居るんですよ」
「ちょっと夏芽ちゃん!ナチュラルに無視しないでくれる!?」
「すみません、"ボッチ観戦"って言葉がちょっと引っ掛かったので」
「及川、"夏芽チャン"に振られてやんの、ドンマイ(笑)」
「見事に当たって砕けたな」
「マッキーとまっつんは黙って!!いいもん!勝手に座るもん!一緒に見るよ夏芽ちゃん!!」
ドカッと豪快に座席に座った及川さんは居座る気満々らしい。ちなみに私は一言も「一緒に観ましょう」とは言っていない。その子供じみた態度に先生方と岩泉さんはすっかり呆れ顔だ。マッキーさんとまっつんさん(本名が分からないので心の中ではこう呼ばせてもらう)に至ってはからかうようにニタニタと笑っている。
「やっほー!トビオちゃん、チビちゃん、元気に変人コンビやってるー?」
不意に及川さんはコートでアップを取っている二人に声を掛けた。私がぼっちなのを哀れんでいたのではなくて、本当の目的はこっちだったのでは、とジト目で及川さんを見つめるがこちらの視線には気付いてくれない。
「国見、金田一。どっちでもいいから助けて」
「いや無理でしょ」
「まず俺達に言うのが間違ってんぞ」
岩泉さんでさえも呆れ返っているのだからそれもそうかと一人納得をする。そんな岩泉さん達は既に移動をしていて、私達とは少し離れた席に座り始めていた。それを見兼ねた国見達も青城バレー部の集団の方へ向かおうとするので、一番近くに居た金田一のジャージの裾をすかさず掴んだ。私の手から逃れた国見は金田一を生贄にして涼しい顔で集団に戻っている。私が言うのもなんだけど、なんて薄情者なんだと金田一に同情した。
「アッ!オイ国見!!ちょっ、離せよ椎名!?」
「いやいや及川さん置いて行かないでよ!?ちゃんと連れて行ってよ!?」
「なんで俺が!?」
「金田一、俺の事は構わず向こう行ってていいよ〜」
「あ、ウッス!失礼しますっ!じゃ、頑張れよ椎名」
「なっ……、」
前言撤回、同情をした私が馬鹿だった。及川さんからゴーサインが出た途端、開放された金田一は微塵も思っていないような言葉を残し、平気で私を見捨てた。次話す時は絶対に"らっきょう頭"って呼んでやるからな、と念を送るが虚しくもその背中には届かなかった。
「いいんですか?一人だけ此処に居て」
「うん、問題ないよー。折角だからちょっと話そうよ??」
いや、私にとっては問題多アリだ。さっきから烏野の人達からもチラチラと視線を感じて居心地が悪いのだから。特に天敵である及川さんを目にした影山の表情は険しいし、ツッキーのこちらを睨みつけるような視線も痛い。
そもそも及川さんがいつまでも集団から離れていて先生に怒られないのかが心配だ。
「へぇ、飛雄だけだと思ってたのに眼鏡君もあんな顔するんだね」
「ツッキーはああ見えて結構顔に出ますよ。何故かしょっちゅう怒られます」
「ふぅん?ねぇ夏芽ちゃん、最近はどんな感じなの?」
「最近……あぁ、絶好調ですよ。部を離れていた部員も戻って来たのでメンバー全員揃いましたし、先生のおかげで遠方の学校と練習試合が組めたり、あと烏養コーチがバレー部に来てくれたのはやっぱり大きいな……。とにかく色々充実してましたね。だから試合は期待して観て下さいね」
期待の眼差しを向けてくる及川さんに胸を張って自慢げに答えると、何故か「そっちじゃないんだけどなぁ……」と微妙な表情を浮かべた。
「俺が聞きたいのは夏芽ちゃん自身の事。飛雄とはどうなの?」
まさかのそっちだったか、と一瞬固まった私を見逃さなかった及川さんは可笑しそうにクスクスと笑った。
「ちゃんと和解して、今は仲良くやってますよ……友達?として」
「トモダチ??ふぅ〜ん??へ〜え??」
「ウッ……諦め悪いなって思ってますか?」
「いやぁ?趣味悪いな〜とは思ってるけど。いい加減夏芽ちゃんもはっきり言えばいいのに。飛雄の事がまだ好き〜って」
「なっ!ちょ、ちょっと本人あそこにいるんですけど!?万が一影山に気持ちを知られたら私はバレー部を辞めますから!後が辛いので!」
正直、私はこの関係性に甘えている。バレーに夢中になっている影山は他の女の子と仲良くしているような素振りも無い。毎日一緒に帰ってくれているのだから彼女も居ないのだろう。それを直接本人に聞いた事はないけど、いつだって傍に居てくれる現状に私は安心しきっている。
「……じゃあ、ずっとこのままでいる気?夏芽ちゃんはそれで満足なの?」
気持ちを打ち明ける気が更々無い私に及川さんは眉間に皺を寄せた。
満足しているかと聞かれたら、満足していないのが本音。この言葉では言い表せない関係をハッキリさせたいと心の何処かでは思っている。でも想いを告げるのには物凄く勇気がいる。仮に告げたとして、結果上手く行かなかった場合、また元に戻ってしまうのだけは御免だ。それに影山を困らせるような事はしたくない。
「勿論、関係性が崩れるのが怖いから言いたくない……というのもありますけど、今水を差したくないんですよね」
「……というと?」
「今の影山、前と表情が違うんです。だから大好きなバレーに集中していて欲しいです」
ホイッスルが鳴り響き、コートのエンドラインに整列する9番の背中を見つめる。
日向という相棒が出来て、頼もしい先輩にも囲まれて、順調に物事が進んでいる今、私のエゴで決定的な事を言ってしまうのは違う気がする。
「夏芽ちゃんはそれで良くてもアイツはきっと納得しないと思うけどな」
「……え、何か知ってるんですか?」
「俺が?まっさかー!まぁ夏芽ちゃんの言い分は一理あるし気持ちは凄く分かるよ。夏芽ちゃんって普段は無遠慮に物言うのに、そういうのは遠慮するもんね〜?……てか何で飛雄はこういう子に想われてるのに俺には居ないのさ!?世の中不平等すぎない!?あーあっ!!俺も部活の事とか理解のある子と付き合いたかった!!」
「褒めてるのか貶されてるのか、なんか凄く複雑な気持ちなんですけど……。ていうか及川さん随分荒れてますけど私生活で何かありました?」
「ヘェッ!?べ、別に振られて落ち込んでたとかじゃないしっ!?」
「振られたんですね」
そこまでは聞いてはいなかったのだが、話はなんとなく見えてきた。酷く動揺している様子からするとつい口を滑らせてしまったに違いない。観念した及川さんは大きく溜め息を吐いた後、別れた彼女の事を語り始めた。
「……高校の同級生の子と付き合ってたんだけど、最近喧嘩ばかりで全然上手くいってなかったんだよね。時間作ってあげられなかったのもあるんだけど」
「すれ違いですか?」
「うん。うちのバレー部って月曜がオフだから元カノとまともに遊べたのは週1だったワケよ?そしたら元カノから"他のカップルはもっといっぱい遊んでるのに何で徹は部活ばっかりなの?徹は私より部活の方が大事なんだね"って不満をぶつけられて、俺もその時はスイッチ入っちゃって口論になったら勢いで別れ話にまで発展しちゃったんだよねー……はぁ〜……」
「そ、そんな事があったんですね……」
別れたショックで項垂れる及川さんに私は返す言葉が見付からず、ただ相槌を打つだけだった。きっと大会も近かったから彼女と過ごす時間を作る余裕が無かったんだろうなと思う。勿論、相手の人が会えない時間が続いて寂しいと思ってしまうのは当然の事だし、身近にいる楽しそうなカップルを見るとどうしても比べてしまったのかもしれない。
「振られた時、辛くなかったですか?」
「そりゃあ最初はしんどかったよ?ふとした時に思い出しちゃうとかね。でもインハイ予選控えてたし、大会は待ってはくれないから引き摺ってる暇は無かったよ。こんな事で心が折れるほど、俺は生半可な気持ちで今までバレーをやってたわけじゃなかったし」
「あとプレーに影響出て岩ちゃんに殴られるのだけは勘弁」と苦笑いを浮かべる及川さんをとても強い人だと思った。私とは大違いで別の大事なものを前にすると、気持ちの切り替えが出来るこの人は凄い。
「……なんか大人ですね。私も2年後になればそういうの割り切れる人間になれるんですかね」
「それは俺には分からないけど、夏芽ちゃんの良い所は何があっても飛雄が打ち込んでいる物事に対して横槍を入れるような事は絶対にしない所だよね。そこは誇るべきだよ」
「っ!及川さん……!」
「ーーーーああ、でも」
長所を褒められて喜んでいたのも束の間、「ちょっとうじうじしてて受け身な所は直すべきだからね」と釘を刺された私は相当のダメージを受けた。
(2021.01.23)
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