キッチンについたユウはライトで中を照らした。ぐるりと中を照らしてみてもグリムらしき影はない。
「グリムいる?」
声をかけても返事はない。もしかしてつまみ食いをしてから満腹で寝てしまったのかと中へ入ってみてもグリムの姿は見当たらない。同じようにキッチンの中を隅々まで確認してくれたスカリーも首を振った。
「どこに行ったんだろう……」
「外に出て行った、ということは考えられませんか?」
「う〜ん、こんな時間に出ていくとは思えないんですが……」
とはいえ、予想していた場所にグリムがいないことも事実だった。まさかエースたちも巻き込んで何かしているのか?と考えても確信はない。
「他の部屋でしょうか?」
「修繕と掃除が間に合ってなくて、荒れたままなのでそんな部屋にいるとも思えないんです」
ユウとスカリーはほとんど同時に「う〜ん」とうなった。暗いキッチンの中でしばらく悩んでいたものの、ユウは一度深く息を吐き出す。ここにいても仕方がない。
「玄関までの部屋を順に確認して、それでも見つからなかったらちょっとだけ外を確認してもいいですか?」
「ええ。そういたしましょう」
とりあえず次の行動を決めたユウたちはキッチンから廊下へ移動した。一番近い部屋を目指そうとした瞬間、ユウの視界の端にちらりと明かりが映る。グリムかと思いすぐにそちらへ顔を向けると、廊下の奥、暗闇の中で燭台が浮いていた。
燭台はちょうど人が手に持っている高さのまま、小さく揺れていた。それにあわせて蠟燭の炎も揺れている。それなのにその燭台を持つ人の姿はない。理解が追い付かずにユウはゆらゆらと宙に浮かぶ燭台を凝視した。なんだか周囲の空気も生暖かいような気がしてくる。
「どうかいたしましたか?」
スカリーの訝しげな声にはっとしてユウは慌ててスマホのライトを廊下の奥に向ける。するとそこにはただの廊下があるだけだった。今見たものはなんだったのかとスカリーへ確認するように向き直っても不思議そうに首を傾げられた。
「何かございましたか?」
「あの、今、そこに……」
ユウが廊下の奥を指さして、スカリーが目を細めて指さされた方を見る。
「何もいないようですが……」
「……見間違いでしょうか」
「不安な気持ちがそうさせるのでしょう。我輩といれば大丈夫ですよ」
スカリーに笑顔を向けられ、ユウは頷いた。スカリーの言う通り、不安で怖がっているからあるはずもないものが本当にあるように思えてしまったのだろう。電気もつかなければ、グリムもみつからないのだから、そんな気持ちにもなる。それにスカリーが一緒にいてくれるのだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
気を取り直して、ユウはすぐ近くの部屋のドアを開けた。掃除が出来ていない部屋の埃っぽさに少しだけ顔をしかめる。
「グリム?いる?」
部屋の中をライトで照らし、声をかけてみる。部屋の隅々まで照らしてみるけれどグリムはいない。けれど、代わりに見慣れない石像に目が止まった。
部屋の片隅に置かれた白っぽい石像は帽子をかぶった小太りの中年男性の胸像だ。大きな蛇に巻き付かれているその男性は目を細めて笑っているようだ。こんな家具、見たことがない。
「なんだろう、これ……」
ユウは思わず部屋に踏み入り、その胸像に近づく。スカリーも興味深そうにユウの横からその胸像を見つめていた。
「バーティー……」
「え?」
「墓碑銘にそう刻まれています」
「墓碑銘って……これお墓……?どうしてこんなものが……」
「ハロウィンだからでしょうか。悪いものではないようですし、先に進みましょう」
どこか楽し気なスカリーに促されるままユウは次の部屋に向かう。次の部屋にもグリムの姿はなく、今度はパーマがかかった髪型の中年女性の胸像があった。
「また胸像がありますね」
「やっぱり見覚えがないんですが……これもハロウィーンだからなんでしょうか?」
「そうでしょう」
スカリーの声音は楽し気だ。けれどユウはさっき見た胸像の男性も、いま目の前にある胸像の女性も見覚えがなく、ずっと胸騒ぎがしていた。ハロウィーンだからとスカリーは言っていたけれど、つまりはゴーストたちの仕業なのだろうか。
それから次の部屋にも、次の次の部屋にも胸像があった。老年の片眼鏡をかけた男性と、顔がそっくりな男女の双子。そして最後の部屋で見ているのは老年の女性だ。
「一族で出向いているようですね」
「わかるんですか?」
「ええ、刻まれておりましたから。気になるようでしたらお話ししましょうか?」
「いえ……大丈夫です」
今まで見てきた不気味な胸像たちの顔を思い出しながらユウは首を振った。グリムもいない、気味が悪い胸像があるこの部屋からも早く出ようとくるりと体の向きを変え、ドアへ向かう。開けっ放しだったドアから廊下へ出ると、後ろから視線を感じた。勢いよく振り返って見てもそこにあるのは恐ろしげな胸像だ。
なんだか嫌な気持ちにになり、スカリーが部屋から出て来てからすぐにユウはドアを閉めた。スカリーはそんなユウの態度を気にする様子はなく、むしろ小さく口角を上げている。ユウはハロウィーンらしい不気味な出来事に喜んでいるのかと思ったけれど、本人にきくのはやめておこうと黙っていた。
グリムを探しながらようやくたどり着いたオンボロ寮の玄関をライトで照らしてみる。誰かが開けたような跡は見当たらなかった。それどころかドアどころか、建物自体が何か違っているような違和感がある。けれどこれといっていつもと違う確信はない。
「おや、外が騒がしいですね」
「え?」
ユウはスカリーの言葉に耳を疑った。騒がしい声も物音も聞こえては来ない。ゴーストでも外にいるのかと、すぐ近くの窓のカーテンをすこしだけめくって外を覗いてみた。
「え!?あれ!?」
そこから見えた景色は見慣れた学園のものじゃなかった。
遠くで雷雲が光り、今にも雨が降り出しそうな空の下、霧のようなモヤの中で見たこともないゴーストたちが楽しそうに肩を組んでいる。さまざまな表情にくり抜かれたジャック・オ・ランタンの飾りまでもが歌っているように見えた。