少女の声は届かない

紅い、紅い、紅い。蜂特有の瞳は紅く、まるで血のようだった。



寒い、寒い、怖い。がくがくと身体が震えるのがわかる。



立ち上がろうにも、力なんて入るわけもなく、呆然と絶望的なこの状況に身を置くことしか出来なかった。低い羽音が森に反響する。反響した音がさらにまた反響を繰り返し、わたしの耳をおかしくさせていく。なんで、なんでこんなことになっているの。わたし、こんな場所で、死ぬ、の?自分で至った考えに、血の気が引いていく。死ぬ。死ぬ。死んでしまう。死。死?ここがどこなのかも、どうしてこんなところに居るのかも、なにも、なにもわからないまま、この蜂達に、殺される?いや、だ。未だに立ち上がることの出来ない身体に焦りが募る。逃げなきゃ、逃げなきゃダメだ。頭ではわかっているのに、足が動かない。じゃり、と指が砂を引く音が鳴る。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!そんなの嫌だ!まだ、まだやりたいことも沢山あるのに、行きたい場所だって、沢山…!友人と遊びに行く約束だってある、欲しい洋服だって、頼んでいた新しいお財布だってまだ受け取ってない、弟に作ってあげると約束したシフォンケーキだってまだ作っていない、まだ、まだまだやっていないことがある。やり残したことも、後悔も山のようにある。なのに、なのにこんな、わけのわからない状況で死ぬなんて、嫌だ!



「お、かあさん…!」


助けて、誰でもいいから、助けて。そう叫ぶより速く、蜂達がわたしの視界を埋め尽くした。





少女の声は届かない





(ヒーローなんて、いない)




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