犬猿の仲のはずである

風紀委員長×生徒会長


「――オイ。まさかテメェまで加藤に惚れたとか吐かすんじゃねぇよな……?」


 生徒会長と風紀委員長は犬猿の仲。
 そういう噂が立ちはじめたのはいつのことだったか。
 実際、俺とコイツはそんな関係で、顔を合わせれば殴り合い――なんてことには流石にならないが、罵倒が飛び交ったり口論になるのは日常茶飯事という仲である。はっきり言って馬が合わないのだ。
 とは言え、最初からこんな状態だったかといえば、答えはノーである。
 たしかに、コイツの高慢さは前々から気に食わないと思っていたが、文句は言うがどんな仕事もきっちりこなすとこ、実は努力家なとこなどは嫌いじゃないというか、むしろ好ましいとさえ思っていた。
 それではなぜ?と聞かれれば、それはコイツのせいだとしか言いようがない。最初に吹っ掛けてきたのはコイツなのだ。
 ろくに会話もしていない相手にいきなり自分のことを悪く言われ、嫌いにならない奴が一体どこにいるだろうか? 俺の中でコイツの株が一気に暴落したのは至極当然のことだろう。
 それに俺は言われたら言い返さないと気が済まないタイプだ。そしてそれは相手も同じ。
 そんな2人が口を開いて口喧嘩にならない方がおかしい。今のような状況を作ったのは最早必然といえよう。

 ――さて。

 長々と生徒会長であるコイツとの仲の悪さを説明したところで、そろそろ冒頭に戻ろうではないか。
 ここは一般生徒立入禁止の6階。だからこそコイツの声は嫌でも耳に入るのだが、どうも今日は耳の調子が悪いらしい。
 ついでに言うと目の調子も微妙だ。疲れているのだろうか?
 まあたしかに、最近は加藤とかいう宇宙――実際は他県からのなんだが、俺にはそうとしか思えない――からの転校生の対処に追われ、疲れ気味ではあるんだが……それにしてもおかしなこともあるもんだ。
 いつものように嫌味を飛ばし合っていたはずが、なぜか目の前のコイツの状況に毒気を抜かれてしまう。
 さっきまでの勢いは何処へやら、声は震え、まるでショックを受けたとでもいうように顔を歪めているコイツ。

 一体なにが起きたというのか?

 加藤ぐらい素直だったら扱いやすいとかそんなことを言ったような気もするが、それがまずかったのだろうか?
 そんなにも加藤以下と言われたことが堪えたのだろうか?
 とは言え、副会長共と同じ扱いをされるとは心外だ。
 加藤が俺に惚れてるらしいので俺の言うことはそれなりに聞くし、嫌味言って俺を苛立たせるコイツよりも扱いは楽でいいと口にしただけなんだが……なぜそう捉える。そんなことコイツも知ってるだろうに。

「馬鹿を言うな。誰があんな地球外生命体に恋などするか。というか何故お前がそんなホッとしたような顔をする?」
「ッ!? うううううるせぇよ……!!」

 そして何故そこで赤面するんだコイツ。意味わからん。……もしや風邪か?

「だから何故吃る? 今日のお前は随分調子が悪いようだな。まあ、お前も加藤のせいで苦労してるようだから仕方ないのかもしれないが。大丈夫か?」
「ッ――!!?」

 相手がこんな状況では嫌味を言う気分にもなれない。
 とりあえず確認でもしてやるかと自分と大して変わりない位置にある額に手を当てれば、熱がジワジワと皮膚に伝わってくる。

「やっぱり熱いな。熱があるようだ。今日は大人しく帰――篠塚?」

 普段のコイツなら俺の手を振り払い、「きたねぇ手で触んじゃねぇ」くらい言ってのけそうなのだが、それほど体調が悪いのかもしれない。
 先程から顔どころか全身を赤くし放心状態を貫いているコイツの姿があまりにも普段とは掛け離れていて、流石に犬猿の仲といわれる俺も心配になってきた。
 呼び掛けても返事すらしないコイツに面倒だが仕方ないと内心ため息をつきながら、その体を持ち上げる。俗にいう姫抱きというやつだった。

「ちょ! テメェ何して……ッ!?」
「五月蝿い、騒ぐな、暴れるな。出来ることなら俺もこんなことはしたくないのだが……お前がそんな状況だ。風紀室内の仮眠室でいいだろう? 後で保健医を呼んでやる。それまでそこで寝ておけ」
「べ、べべべ別に俺は熱なんか!!」
「いいから大人しくしろと言ってるだろう。これ以上騒ぐならその口塞いでやるぞ」
「な……っ!?」

 まあこちらも願い下げだがな。そうでも言わないとコイツは静かにならないだろうと思った。
 そして案の定大人しくなったコイツを抱え風紀室に入れば、何故か委員達が「会長ついにゴールイン出来たんだね! おめでとう!」やらなんやらと拍手喝采していた。
 それにコイツも赤面し否定の声を上げて――自分だけ話についていけない状況がなんだかつまらなかった。
 篠塚を部屋に押し込んだ後、何故か行方をくらました委員達にも腹が立つ。

 後でこってりと締め上げてやるから覚悟しておけよ。と。

 そんな呪いの言葉を囁きながら、何故か挙動不審になっているコイツの看病をしてやることに決めた俺であった。


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移転前の品。



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