一匹狼が独りを捨てた理由。

脇役平凡×一匹狼



 一匹狼なんて呼ばれるようになったのはいつだったか。
 来るものは場合によるが去るもの追わず精神。極度の面倒臭がりな性格。そして不良顔。
 この3つを合わせ持った俺を勝手にそう解釈し恐れるのは周りであり、俺は別に孤独ラヴとかイタイ人間なわけじゃねえとだけ言っておこう。面倒臭えから否定もしないがな。

 閑話休題(それはさておき)。

 今、そんな俺がついに人に懐いたという噂が高等部全体に広がっていたりする。
 まあ当然だろう。
 実際、こうやって表立って人を構ってんのは初めてだからな。

「なあなあ、タキ! 昨日生徒会室に行ったらレイキのやつにケーキもらってさ! 超うまかったんだぜ!!」
「そうか、それはよかったな」
「おう! だから今度はタキも一緒に行って食おうな!」
「6階行くの面倒臭えからパス」
「ええー! なんだよそれー! タキってばまたそれかよー!」

 「ちぇーっ、つまんねーのー」と口を尖らせるコイツは……なんだったか。とりあえず外部からの編入生であり、今誰よりも嫌われている問題児だったはずだ。
 窓際の1番うしろ。
 ここが俺の席であり、たまたま隣にきたコイツに話し掛けられ、受け答えしている内に勝手にダチと認識された感じである。
 だから別に周りが思ってるように、コイツに懐いたわけじゃねえってことだ。

 とは言え。

 たしかに俺でも珍しい行動だ、と思ったことはある。
 本来なら面倒臭がって会話すらろくにしようとしねえだろうからな。まさに奇行と言えよう。
 が、しかし。
 これには一応、俺なりの理由があったりした。

「あ、そうだ! タキがついて来てくんねーなら、なあ、アサヒ! アサヒはオレと一緒に来てくれんだろ?!」
「え、俺ッ!?」

 俺がダメだとわかった途端、矛先を俺の前の席に移すコイツ。
 いきなり名前を呼ばれた普通顔の生徒は、全力で顔を引きつらせた。

「悪いけど……その、流石に俺も生徒会室はちょっと……」
「なんだよ! アサヒまでオレのお願い聞いてくんねーのか!?」
「いや、だけどあそこは……」
「ヤダヤダヤダ! 言い訳なんて聞かねーもん! 絶対連れてくかんな!!」
「ちょ、歩……っ!? いくらなんでもそれ

「ソイツ連れてくくれえなら俺が行ってやるよ」

は……?」

 俺は珍しく腹を立てている。
 俺の前と横で繰り広げられる攻防戦に割り込もうと、わざとでかい音を立てながら席を立てば、2人だけじゃなくクラスの全員が振り向いた。が、睨みつければ元に戻った。

「ホントか、タキ?!」
「ああ。だからソイツだけはやめとけ」
「んータキがそう言うなら諦めるけど……でもお前ら友達なんだから仲良くしなきゃダメだぞ!!」
「馬鹿か。ソイツは俺のダチなんかじゃねえよ」
「あ、え、ちょ…っ、タキ……!?」
「屋上行って昼寝する。放課後になったら呼べよ」

 今、コイツと同じ空間にいたくもねえし。
 後ろからまだなんか叫ぶ声も聞こえたが、そんなもん知るか馬鹿野郎と無視を決め込み。
 苛立つ心を抑え、足速に教室をあとにする。
 屋上にたどり着けば久しぶりに体が疼き、思わず壁を殴りつけてしまった。

「――ったく、うぜえんだよ」

 ムカつく。すげえムカつく。
 アイツと同室なことも、会話してることも、迷惑かけてることも全部ムカつく。できることなら殺してやりたい。
 大体なにが「仲良くしなきゃダメだぞ!」だ。

「俺と旭は恋人同士なんだっつうの」

 途端、震えた携帯を舌打ちしながら開いて見れば

“助かった。ありがとな”

の文字。

 これだけで機嫌が良くなるどころか嬉しさのあまり赤面してしまった俺を、一体どうして周りは一匹狼と呼ぶのか。アイツはどの口で独りで可哀相と言うのか。

 同室者兼クラスメイト兼被害者な恋人。
 俺は旭のためなら周りの言う一匹を捨てて、編入生にこの身を捧げてやる自信すらある。


−−−−−−−
移転前の品。
目を通すのも恐ろしい……



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