中庭でのひとコマ。

強面オカン×会長



 どうやら俺の容姿は、他人に“怖い”という印象を与えるらしい。
 親譲りの高身長。筋肉がつきやすい体質。生まれつきの鋭い目つき。
 本当はポイ捨てもできない善良な一般市民なのだが、この見てくれのせいで不良と勝手に恐れられ、気がつけば中学も卒業していた。

 高校デビューというわけではないが、地元を離れ、とある山奥にある学園に入学したのが約一年前のこと。
 世間知らずの金持ち息子たちが集う学園だったせいもあり、入学したての頃はデビューするどころか、目が合っただけで「ひいいい!」と逃げられたり、地元以上にひどい扱いを受けてしまっていた。
 しかし、俺自身も積極的に周りとかかわろうと努力した甲斐もあって、少しずつ周りと打ち解けるようになり。一年経った今では、友達と呼べるような関係も築けるようになってきたのである。



「――お。やっぱりここにいたな」

 昼休み。大半の生徒が食堂で昼食を食べている頃だろうか。
 一人静かな中庭のベンチで寝そべっていれば、ふいに頭上から声がかかった。
 日差しを遮るように乗せていた腕をどかす。
 綺麗な黒い瞳が真上にあった。

「……、近すぎるんだが」
「おお、ワリィワリィ」

 それはそれは楽しそうに、くくくっと喉を鳴らしながら離れていく黒。
 ゆっくりと上半身を起こして座りなおすと、隣からふわりと香りが漂う。
 誘われるように目を向けてみれば、だるそうに座る高階の姿があって。その手には珍しくコンビニの袋があった。
 高階は袋の中からパンを取り出しながら、大きなあくびをこぼす。
 その凛々しい目は何時になくぼんやりとしており、目の下には小さな隈が見えた。

「随分、寝むそうだな。そんなに生徒会の仕事は忙しいのか?」
「あー……まあ、少しな」

 そう歯切れ悪そうに話す姿から、きっとまた何かあったのだろうと察する。
 転校生絡みというか、他の生徒会メンバー絡みというか――大方、そんなところだろう。

 それにしても心配だ。よく見れば、以前に比べ少しやつれた気もする。
 今までコンビニのコの字も知らなかったような人間が、コンビニでパンを買うようになっただけでも異常事態だというのに。

「生徒会室には仮眠室があるんだろう? こんなとこにわざわざ来ないで、そこで寝てた方がいいんじゃないか?」
「いや、ここで構わねぇ」
「そうか? 誰が来るかもわからないんだ。生徒会長なんだし、無理してここに来なくてもいいんだぞ?」
「……別に。周りなんざ知ったこっちゃねぇよ」
「しかしだな。やっぱり何か問題が起きてからじゃ――」

「うるせぇ! 俺がいいって言ったらいいんだよ!」
「ふがっ!」

「それ食って黙ってろ! アホ!」

 ただでさえ転校生のことで学園中がピリピリしているのに、生徒会長が一般生徒の俺なんかと密会していると知ったら余計暴走するんじゃないか。
 それによってまた高階の仕事が増えて、いつか倒れてしまうんじゃないか。
 一度心配したらいろんな状況を考えるようになってしまい、ついには怒らせてしまった。
 口に突っ込まれたパンを取り、ムスッとしたままの高階に「すまん」と謝る。


「――津久見はよ。見た目はどう見てもただの不良だけど、中身はオカンみたいなヤツだよな」
「ははは。最近何故かよく言われる……」
「それだけ周りがお前に馴染んできたってことだろ。よかったじゃねぇか」
「素直に喜べないんだが……」
「そこは喜んどけっての」

 どうやら機嫌もなおったらしい。
 高階にまでオカンと言われ、少しばかり落ち込む俺とは対照的に、こいつは楽しそうにくくっと笑った。
 そして手のひらを俺に差し出しす。

「やっぱパン返せ。腹減った」
「え? ああ、ほら」

 口に突っ込まれた時に先っちょだけ齧ってしまったんだが……まあ男同士だし気にする必要ないか。
 袋に一度しまい直し、差し出された手に乗せた。
 きっとすぐ食べるんだろう。そう思って高階を見るも、何故かパンを凝視したまま固まっていた。

「? どうした? 食べないのか?」
「お、おう。もちろん食べるぜ? 食べる…食べるけど……、」

 「食べるけど」まるで故障した機械のように繰り返しながら俯く。
 もしや高階は他人の食いかけを気にするタイプなのだろうか? そうだとしたら、なんというかものすごく悪いことをしてしまった。
 申し訳なくなって、パンをまた手に取る。

「悪い。食いかけは流石に嫌だったよな」

 ちょっと食べる量が減ってしまうが、これ以上高階に気を遣わせるわけにもいかない。
 食べたところをちぎれば大丈夫だろうか。
 少し心配しつつパンに手をかけようとすると、横から思い切り分捕られた。

「別に嫌だとかじゃねぇから! お前の食べかけが嫌だとか思ってねぇから!!」
「そ、そうか?」

 何故かパンを抱え、必死に弁解する高階。
 なにがしたいのかよくわからず呆気にとられる。
 そのままパンを食べるそぶりすら見せず、高階は勢いよく立ちあがった。

「や、やっぱ眠ぃし、今日はもう生徒会室戻ることにするぜ。じゃあな!」

「え? あ、ああ――」

 俺が反応するよりも早く走り出す。
 そしてわき目も振らずダッシュで去って行ってしまった。

 やはり相当疲れていたのだろうか。
 そういえば顔が赤かったような気がするし、もしかすると風邪気味なのかもしれない。さっきおかしかったのだって、空元気というやつなんじゃ――。

 一刻も早く元気になればいいんだが。
 どうせなら久しぶりに俺から会いに行ってみるか。栄養ドリンクでも持参して。

 あいつが走り去った方角を見つめる。
 高階の無事を祈りながら、寮の部屋に押し掛ける計画を練る俺であった。


− − − − −
 最初に上げた拍手お礼文。
 途中で疲れ、書いててわけがわからなくなった話である。
 なんでお礼に上げたんだろうかと今でも思う←




ALICE+