不良×平凡
――やべえ、殴られる!
そう思って目を瞑ったが、痛みも衝撃も一向に襲っては来なかった。
何故だろうか。疑問に思って顔を上げてみれば、目の前にはやけに真剣な顔。
「好きだ」
囁くように、けれどもしっかりと紡がれた言葉。
展開についていけなさすぎて、俺はめちゃくちゃ混乱した。
− − − − −
自分で言うのもなんだが、俺は平凡だ。顔も学力も運動能力も、可もなく不可もなく、まさに平凡。物語ではクラスメイトAにすらならないような、背景の一部として描かれるようなポジションである。
そんな俺がちょっぴり平凡を脱したのが数ヶ月前。2年に上がる少し前、1年の終わりの春休みである。
実は通っている学園が全寮制で、部屋が2人1部屋になっているんだが――2年の同室者がさ、有名な不良だったんだよ。しかも一匹狼ってわけじゃないんだけど、不良仲間以外とは絡まないようなヤツ。
こっそり親衛隊ができちゃうくらいイケメンなんだけど、常に眉間にしわよってる様な奴だから超怖いの。
顔合わせるたびにガン飛ばされるし、話しかけんなオーラ全開だし、何時か殺されるんじゃないかとビクビクしてた。
――まあ、それも最初のうちだけだったんだが。
同じ空間で生活していく以上、最低限の言葉は交わすだろ? 部屋の電気消すぞーとか。
そんな感じで話してるうちに会話量も少しずつ増えて、気付けば普通に会話したりするようになった。
ソイツも笑うようになったし、俺も笑うようになった。つまりは部屋で話す程度には仲良くなった。
きっかけはなんだろ。多分あれかな。
クラス違うから、寮以外で滅多に会う機会ないんだけど――あの日、アイツに会ったんだ。
その日俺は生まれて初めて告白というものを受けたんだ。クラスメイトの可愛い感じの子。美少年じゃなくて、ちょっと雰囲気が可愛いって子。
それなりに話したことはあったけど、しっかり話したことはなかったし、なんで俺って思った。罰ゲームかと思ったくらい。
そりゃ初めての告白だから嬉しかったんだけど、もちろんすぐ断った。男だし、俺ノンケだから。
まあ、とにかく。そんなことがあったすぐ後に、アイツと会ったんだ。
アイツは俺の顔見るなりすぐ帰っちゃったけど、すんごい怒ってたんだよな。めっちゃ怖くて動けなくなったのを覚えてる。
それからずっとアイツは不機嫌のまま。まるで同室になったばっかの時のような気まずい日々が続いた。
そんで今日。
リビングで友達と電話で仲良くトークしてたんだわ。俺の欲しかったゲームくれるっていうからテンション上がって、「超好き」とか「愛してる」とかラブコールしまくってたんだ。
そしたら、たまたまリビングに居合わせたコイツに何故かキレられて。
最近不機嫌な態度とられてたこともあって、俺も流石にキレたんだ。だって俺何もしてないのに、理不尽じゃん。
そしたら。そしたら、これですよ。
意味わからんのだが。え。マジで……?
「好きだ、付き合え」
嘘だと思いたかったのに、そうもいかないらしい。
固まっていたら、もう一度リピートされた。しかもやたら上から目線に付き合え言われた。
「えっと……悪い。とりあえず、そこ退いてくんね?」
「はいというまで退かねえ」
「いや、あの、それはちょっと。困るんですが」
「俺と付き合え」
「ええー……」
どうしたらいいのこれ。
「あのさ。俺ノンケなんですけど」
「知ってる」
「なんで俺なのさ?」
「お前だから」
「あー……えっと、ありがとう? でも、ごめんなさい?」
「はいしか認めねえ」
「えええー……」
いや、ホント退かないし、断っても納得してくんないしどうしたらいいわけ。
付き合えって? え、鳥肌もんなんですが。死んでも嫌だってマジで。
どうしようかと思案していると、一向にはいと言わない俺にしびれを切らしたらしいコイツに抱きしめられた。
「苦しいんですが」
「うるせえ」
「あの、鳥肌立ってるんですが」
「うるせえ、キスすんぞ」
「それは俺に胃の中のもんぶちまけろってことでせうか」
「黙れ」
「いや、ホント無理。男とかマジ無理っす」
「……お前な、」
そんなやり取りを繰り返せば、やっと折れてくれたらしい。
解放され、ホッとして顔を上げる。眉間にこれでもかとしわを寄せたソイツと目が合った。
「今回はこの辺にしてやるが――覚悟しろよ」
しかし、残念ながら諦めてはいないようである。
そう言い残して自室に籠ったソイツを目で追った後、一人ため息をつく。
「マジか……」
果たして俺はノンケのまま卒業できるのか否か。
ちょっと。いやかなり不安になった、そんな夕方である。
−−−−−−−
八月上旬ぐらいにmemoに載せた小話。
溺愛攻め書こうとした結果がこれってどういうことなの。