※夢主=ハートの海賊団に属する戦闘員。
大事なものはすべて置いていく。
おれが自分でそう決めたのだから。
***
「それは何のつもり、ロー」
ローはこちらに刀を向けて立っていた。剣呑な気配をまとう切っ先が、私の少し前で揺れている。
彼は鼻でひとつ笑うと、一歩前進した。それだけでも私の脚は震え、ここから逃げようと後ずさる。砂利に足を取られ、転んだ拍子に肘を擦りむいた。痛い、とも言えぬままローを見上げる。これは、本物の殺気だ。
殺される。そう思った私は何とか体勢を整え、脇に差した小銃に右手をかけた。途端、ローの大刀が素早く動き―――私の右手の寸前で止まる。あと少しでも銃を動かせば、この大刀に右腕ごと落とされてしまうだろう。
「ここから先は、一人で行く」
私を見下ろして、ローはそう言った。冷たい瞳をしていた。
「一緒に連れて行ってくれるって、言ったじゃない」
ゾウへ向かう仲間達と別れ、ローと二人で行動し始めてから数日経ったところだった。
約束したでしょう。
そう言うはずだった声が震えて小さくなる。私の心臓はここにあるのに、まるで胸に穴を開けられたみたいだ。ローに潰されるくらいに、心を握り締められている。
「うちの海賊団からも抜けろ。おまえに海賊は似合わない」
ローの言葉に、私は完全に声を失った。
どうしてそんなに勝手なの。怒りたいのに、私の喉は浅い呼吸を繰り返すばかりで何も言葉が出てこない。
ローの隣にいたい。それは勿論だ。けれどハートの海賊団は、それ以上に私の居場所だ。
―――この檻から出て行くか、ここに残るか。選べ。
あの時はそう言ってくれた。私に自分で選ばせてくれた。生きるも死ぬも、止まるも進むも自分で決めること。それこそが自由だと、教えてくれたのに。
どうして、とだけ声が出た。ローはそれにも答えなかった。
「これ以上ついて来たら、殺す」
ローの一言は、今度こそ本当に私の心を打ちのめした。右手の小銃が、力を失って地面に落ちる。
悲しさと悔しさと、それから怒りで涙が零れた。土を雑に掃くようなローの足音が、私の元から遠ざかっていく。どうして。どうして。
「キャプテンにとって、なまえは特別なんだよ」
ハートの仲間達と別行動をとることになった時、ペンギンに言われたことだ。
「なまえと仲良くしてるキャプテンを見るのは好きだし、なまえのことだっておれ達は大好きだ」
「だから何があっても、キャプテンのそばを離れちゃダメだよ」
シャチとベポはそう言って、私の手を強く握った。ここにあの三人がいたら、今の私を見て何と言うだろうか。
夢ならば覚めてほしかった。しかしそう思えば思う程、擦りむいた傷の痛みは強くなる。私の身体が私に、これは現実であると告げていた。
***
なまえの笑顔を見ると、いつも心がどこか温かくなった。このままずっと一緒に居ることも考えた。復讐でも略奪でもなく、ただ冒険のためだけの航海。かつての両親のような、穏やかな生活。どれもこれも、まるでおとぎ話だ。だが仲間と彼女がいれば、叶う気がしていた。
さっきから溢れ出してくる言葉の数々。だがこんなことは決して言えない。言わない。
おれにはやるべき事がある。だから一緒にはいられない。大事なものはすべて置いていく。おれが自分でそう決めたのだから。
おれはなまえに背を向け、歩き出した。