※夢主=情報屋。
四隅のうち残りは一つ。目の前のソバカス男はニヤニヤしながら私の次の手を待っている。
オセロならおれも知っている、と言われた時点で気付くべきだった。この男は最初から、負けるつもりなんか無かったのだ。
「……パス」
「パスはもう無し。さっきのが三回目だろ?」
数をきっちり勘定されていることにまで腹が立つ。私が黒石を置ける場所は一箇所しかない。しかしそこに黒を置けば次手で白に返される上、最後の角を獲られてしまう。
私は大袈裟にため息を吐き、その場所に石を置いた。
「じゃ、貰うぜ」
ニシシと笑いながらエースが石を返していく。そんなことをしなくても私の負けは明白だ。
「おれの勝ちだな」
数を読む気にもなれない盤面をひと睨みし、グラスに手を伸ばした。しかしそのグラスは目の前の男に奪われ、あっという間に空っぽにされる。
「ワインは嫌いなんじゃなかったの?」
「飲めないとは言ってねェ」
「……で、何が知りたいの?」
エースは相変わらず意地の悪い笑みを浮かべたまま、唇の端についたワインを指で乱暴に拭った。
「ある男を探してんだ、知ってんだろ? 情報屋のおねーサン」
予想通りの回答に、今度はこっそりとため息を吐く。
―――ついてない、本当に。
私の失態は三つある。一つ目はオセロが彼の得意分野だと見抜けなかったこと。二つ目は以前白ひげと接触した際に、この男に顔を覚えられてしまったこと。そして三つ目は彼の探し物について、彼の欲しがっているカードが今まさに、私の手元にあることだ。
顔見知りの少年に挑発され、ゲームで勝ったらね、とほんの悪戯心で受けたギャンブル。完全に私の負けだ。
卓上にあったコースターを一枚手に取り、裏面に彼の探し物の在処を書いて渡してやった。
「そこが今の拠点よ」
「サンキュ、おねーサン」
エースはニカッと私に笑いかけた。さっきまでの人の悪い笑みと比べて、随分と少年らしい顔だ。
「私が知ってるのはそれだけよ。じゃあね、気をつけて」
私が荷物を持ち立ち上がると、彼は私の腕を引いた。
「どこ行くんだ?」
「飲み直しよ。もう用は済んだでしょ」
彼の手を引き剥がそうとしたらそのまま指を絡められ、却って捕らわれてしまった。エースの指先から熱が伝わる。もちろん、ワインの所為などではない。
「もう一戦する気ない?」
彼の瞳に宿った炎に、ごくりと唾を飲み込む。
「今度はおれが持ってる情報をやるよ。ただし、おねーサンが勝ったらだけど」
否と返したところで、果たしてこの手を離してくれるだろうか。私の受難はまだ終わっていなかった。