Letters

※死ネタです。注意!
※夢主=故人。かつてのファミリーの一員。



 旅の荷物の中に、小さな菓子箱を見つけてローは思わず手を伸ばした。
 敢えなくぴしゃりと跳ね除けられてしまい、不満気に中身を問うとそれは彼のたいせつな物らしい。しかし見るなと言われると余計に見たくなってしまう。

「見せろよ」
「ダメだ」

 血の繋がった兄ですら欺き続けるこの男が、大事に抱えている箱の中身は一体何なのか。金かもしれないし、ファミリーを滅ぼしてしまうような何かの切り札かもしれない。
 だからコラソンが電伝虫を持ってちょっと出かけてくる、と言った時、真っ先に頭をよぎったのはその菓子箱のことだった。
 絶好の機会を得たローは上機嫌だった。その箱の中身を知るまでは。

 隠してあった箱をようやく見つけ出し、中から出てきたのは、ただの紙きれだった。それも何枚も。
 菓子箱に収まるよう小さく丁寧に折りたたまれたメモの様子は、かつて母が患者からもらった手紙を大切そうに保存していた姿を連想させた。
 それらを広げると一枚に一言ずつ、見慣れた字が書き殴られていた。ローはこれと同じ物を何度も見たことがある。
―――これは、コラソンの筆談だ。


 『ケガは』


 『よかった』


 『かえれ』


 『わるかった』


 『こんや』


 『すきだ』


 『おやすみ』


 『あいしてる』


 『おはよう』


 『やくそく』


 『なまえ、あいしてる』


 一枚一枚、中身を確かめるローの手はいつの間にか震えていた。何枚か同じ言葉が続くようになり、それに気付いたら、残りを見ることはもうできなくなってしまった。
 これはコラソンのたいせつな物。だけど、コラソンの宝箱じゃなかった。ほんとうの持ち主は、この筆談の相手だ。興味本位で暴いてしまった事に、吐き気がした。

 その時、背後で煙草に火を点ける音がして、ローは我に返った。
 煙草の匂いと足音が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。怒られる。そう思って身構えたが、コラソンの手はローの背中を優しく叩いただけだった。

「見るなとは言ったが、まァ、気になるわな」

 コラソンは煙草をくわえたまま、ニカッと笑った。

「おまえが来る前に死んだ女が持ってたモンだ」

 どうして笑ってるんだ。友を、家族を、恋人を、喪った人々をローは故郷で何人も見てきた。
 だけどその中の誰の顔を思い出しても、こんな風じゃなかった。泣いたり、怒ったり、そうやってみんな何かにぶつけていた。
 なのにこの男は、今にも暴れ出しそうな感情を、箱の中に閉じ込めて、決して開けないようにしていた。それを横から開けてしまったことが申し訳なくて、恐ろしくて、ローはまだ震えていた。

「気にすんな。いい加減捨てようと思ってたところだ。ありがとな」

 今夜は天気が良さそうだ。久々に焚き火でもするか。
 良いアイデアだろ?という顔で、コラソンはやはり、笑っていた。








 先に寝てろ、と言ったらローは素直に頷いた。ガキのくせに気を遣うやつだ。
 思えばなまえもそうだった。どこまでも見透かしたような、すべてを赦しているようで、なのにすべてを拒絶するような、そんな瞳をしていた。
 ともに過ごした期間はごくわずかだったが、優しく、時に濃密なその時間を、おれは確かに愛していた。
 守れずに死なせてしまった彼女の遺した、この箱の中身を最初に見たときから、これは二度と開けないと決めていた。
 けれどそれはただの我侭で、未練で、臆病ゆえの戒めでしかなかった。本当はこれをなまえに返してやらなきゃいけなかったんだと、今日やっとわかった。


 心地良い声音で、コラさんと呼ばれるのが好きだった。
 また会えたら今度はおれの本当の名前で、本当の声で、おれの話を聞いてほしい。

 この能力があってよかった。
 明日はちゃんと笑うから、今のおれを、どうか誰も見ないでくれ



 音のしない砂浜で、一筋の煙が上がる。
 辺りはどこまでも静かで、ただ月だけがそっと寄り添うように、彼の弔いを照らし続けた。

−end−
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Stella