「ほら、アリアも抱っこして。」

「む、無理…」


生まれて幾ばくも無い赤子を腕に抱くなどとんでもない。

リリーとジェームズの間に赤ちゃんが生まれた。ジェームズによく似た、男の子だった。友人のめでたい門出に祝いの品と共に駆け付けたのはいいものの、それとこれとは話が違う。
落としたりしたらどうしよう!


「大丈夫、ハリーは大人しいから泣いたりしないわ」


ぐいぐいと迫ってくる彼女に根負けしそっと両手で受け取る。リリーと瓜二つのくりくりの瞳が、私を見つめ胸がきゅんとする。


「かわいい…!」


ぷにぷにの頬っぺたへ自分の頬を寄せると、リリーに似ますように!と念を込める。念が強すぎたのかハリーが愚図りだしそうだったので、急いでリリーの元へ連れて行った。泣かれたら私も泣く。


「なんだ、アリアも来てたんだ」

「ジェームズ。おめでとう、これよかったら」

「わざわざすまないね。ありがとう」


学生時代の高慢ちきな態度は鳴りを潜め、すっかり落ち着いた彼の姿に大人になったなぁ…としみじみしてしまう。ん?アリアも?


「私以外にも、だれかお客さんが?」

「あぁ、シリウスがね。言ってくれれば迎えに行かせたのに」

「なんでだよ」


ジェームズの後ろから現れた姿に目線が釘付けになる。久しぶりに会う彼は、やっぱり格好良かった。じーっと見つめていると、困ったように笑みを浮かべている。


「久しぶりだな、アリア。」

「リリーたちの結婚式以来かなぁ?」


ホグワーツに居た頃は毎日のように話していたけれど、卒業を機に疎遠になってしまって今は連絡を取ることもない。


「アリア、シリウスもよかったら夕食うちで食べていかない?」


ハリーを寝かしつけてきたのか、リリーがスリッパを鳴らしながらこちらへと向かってくる。


「うーん…さすがにそこまでお世話になるわけにもいかないから、今日は帰ろうかな。ありがとう、リリー。」

「気にしなくてもいいのに…」

「また今度お邪魔するとき、ご馳走になるね。」

「えぇ、約束ね」


どうやらシリウスもこのまま帰るようで、ジェームズとこそこそ話している。大抵あの二人の内緒話は禄でもない。


「お邪魔しました。またね」

「もっとゆっくりしていってもよかったのよ?」

「ハリーがもう少し大きくなったら、かな」


すやすやと眠るハリーの寝顔に癒されながら、荷物を手に取る。と、ひょいと奪われてしまった。


「送ってく。」

「え、どうしちゃったの。」


シリウスが優しいなんて珍しい。再びじっと見つめているとジェームズに肩を押される。


「何かあったら危ないしね。送ってもらいなよ」


困惑しながらも、シリウスの腕へ掴まると付き添いくらましでロンドンの街へと向かった。









「アリアは結婚しないのか?」


久しぶりに会ったのだから夕食でも、とレストランへ足を運びお酒も程よく回ってきたころ、正面に座る彼が問いかける。


「結婚は一人じゃできないの。」

「相手がいないってことか?」

「うるさい、ほっといて。そういうシリウスこそ、モテるのにどうなの?」


私が知る限り彼に恋人の陰が途絶えたことはない。来るもの拒まず去る者追わず主義なのはよーく知っている。


「あー、そうだな…」

「随分歯切れ悪いじゃない。なに?好きな子でもできた?」

「…まぁそんなとこだ。」

「……へぇ、」


あのシリウスが好きになった子。好きになられることは腐るほどあった彼が、好きになった女性はどんな人なのだろうか。学生時代、胸に秘めていた淡い恋心が顔を出す。諦めたはずなのに、醜い嫉妬心がちりちりと胸を焦がすのが分かった。


「おい、そんなに飲んで大丈夫か?アリア酒に弱かっただろ。」


手元のワイングラスをぐっと煽ると咎めるように視線が鋭くなる。こっちは飲まなきゃやってられないんだよ、馬鹿。









「……んー、」


いまなんじ。重たい瞼を抉じ開けて見ても、見慣れた自分の部屋ではない。一気に思考が覚醒しがばりと起き上がる。ここはどこだ。


「…うそ、」


起き上がった反動でシーツが身体から滑り落ちる。どうして自分は裸なのか。問いかけても昨夜の記憶が一部すっぽりと抜け落ちていた為全く状況が分からない。ギギギッとブリキのように首を右隣りへ向ければ黒髪の成人男性が眠っている。髪が流れ顔は隠れているが確認するまでもない。なんてこった。


「マジか…。」


ベッド周辺に散らばる衣服をかき集めなるべく静かに部屋を出る。と同時に猛ダッシュで駆け出した。


一体全体どういうことなんだ。だれか説明してくれ。





中編にしようとして挫折した為、供養。




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