許されると知ってる話(灰谷姉主)


腹減った。
空腹で眠りから覚めた。そういえば最後にメシ食ったのいつだったか。ぼんやり昨日のことを考えながら髪をかきあげて携帯を開く。時刻は14時を回っていた。明け方に帰ってきたとはいえ寝すぎたな。携帯をベッドに放り投げるように手放し、寝すぎで少し重い体を軽く伸びをして解す。とりあえずキッチン行けばなんかあんだろ、とスウェットの裾を踏みながら部屋を出た。

自室から出てリビングの扉を開くとツン、と鼻をつく匂いが漂ってきた。眉間にシワが寄るのを感じながら匂いの原因を探す。

「あっ、らんちゃんおはよ〜。相変わらずお寝坊さんだね〜。」

声の元へ視線を向ければソファの下に座り手の爪にネイルを施している姉がいた。匂いはこれかと小さく舌打ちをひとつ。

「お行儀わるいぞー!舌打ちしなーい!」
「腹減った。つかくせー...。」

名前の文句を無視して少し空いていた窓を全開にし換気を行う。

「匂いはゴメンだけど...。ご飯はちゃんと起こしに行ったよ〜?要らないって言ったの蘭ちゃんじゃん。」
「は?しらねぇいつ。」
「12時きっかりにお部屋行きましたー!りんちゃんはご飯食べてお出かけしたよ。」
「は〜?ちゃんと起こせや。」

全く記憶にない。つか、寝ぼけて答えたことなんてノーカンじゃね?つまり名前が悪い。

「なんか作って。」
「えー、そこに取り分けたのあるよ〜。オムライス。」

自分であっためてね、と言いながらこちらに視線もむけずネイルを続ける名前に苛立つ。

「つくれ〜。」
「いや、今ネイル中なの。なにもさわれないよ、わたし今。」

ほら、とまだ塗料が乾いていない爪をこちらに向けてくる名前に、ふーんと相槌をうちながら近くにしゃがみ込む。

「で?」

〇〇の横脇に置いてあったカゴから除光液を取り出し向けられた手にぼたぼた零す。

「あっ!?」

驚いて手を引こうとする名前の手を掴みそのまま傍にあったティッシュを数枚引き抜き雑にネイルを拭っていく。

「これで蘭ちゃんのご飯作れるな♡」
「あぁ......。」

結構上手に塗れてたのに...、と肩を落とす名前の脇に手を差し込み持ち上げる。

「腹減ってんだって。はやくしろー。」
「わかった!わかったからせめてちゃんと落とさせて!」

しかもコットンじゃなくてティッシュで拭うなんて...とブツブツ文句を言いながらコットンに除光液を含ませる名前を眺めながらソファに座り直す。

「で。蘭ちゃん何食べたいの。」
「なんでもいい。」
「でもオムライスはやなんでしょ。」

つーん、と口を尖らせる名前に笑いながら頬を片手で潰す。

「はなひてー!!」
「はいはい。」
「もー!!パスタでいいよね!!」
「おー。」

どたばた音を立てながらキッチンに向かう名前を見送ってその間にと煙草を咥えた。

▽△▽

「満足ですかぁ?」

食べきった皿をキッチンに持っていきながら名前がこちらに尋ねる。

「ん、美味かった♡」
「それは何よりですねー!」

まだ機嫌が治らないのかブスくれた顔で投げやりに応える〇名前。全くしょうがねぇなぁ。

「わ、なに...。」

ソファに座っていた名前の利き手と逆の手を取る。そのまま自分の立てた膝の上にのせる。

「お礼してやんねぇとな♡」

先程塗っていたマニキュアを手に取りハケにとったマニキュアをボトルの口で調整していく。

「ら、らんちゃん...、すき...。」
「チョロ。」
「それは思っても言わないものでしょ...。」

なんて言いながらも嬉しそうに笑う名前に本当にチョロすぎんなと相変わらずのノーテンキ具合に笑いが零れる。俯き気味に作業をしているため落ちてくる髪の毛を耳にかけ、名前の爪をグレーに染めていく。

「グレー好きだよなぁ。」

名前に色を選ばせるとだいたいは薄い桜のようなピンクかグレーになる。だから服やそれに合わせたアクセサリーなどは俺や竜胆が強制的に色まで決めて買い与えている。それによって楽をすることを覚え、配色のセンスまでドブ底に捨てたような女だ。

「えー?好きだよー?」

私たちの色じゃん?と目を細めて名前が笑う。

「単純だな。」
「それくらいのが人生楽しいでしょ?」

その言葉を聞いて口角が上がる。確かになァ。
名前の片手を塗り終わりもう片方の手を塗り始めた時にどこからが音が聞こえ始めた。

「なに...?電話?蘭ちゃん?」
「あー?鳴ってる?」

その言葉に耳を澄ませば確かに俺の携帯の着信音が聴こえる。そういえばベッドに投げたままだったな。

「じゃ、あとは自分でやれよ」
「え!?」

鳴り続ける電話を取るために腰をあげる。

「いやいや、待ってるから残りも塗ってよ!」
「飽きた。」

片手で髪を纏めゴムで1つに結びながら自室に戻るためにと扉に向かう。

「残ってるの利き手だよ!?そんな惨いことある!?」
「あったあった。がんばれー。」
「おもって!!ないでしょ!!!」

立ち上がって俺を引き止めようとウロウロしながらついてくる名前。しかし、まだ乾かないネイルを気遣ってか手で掴んで物理的に俺を止めることが出来ないようで、手を伸ばした中途半端な変な姿勢で固まっている。

「じゃ、俺出かけるからいい子で留守番よろしくな〜。」
「え!?本気で!!?やだやだ蘭ちゃんたまにはお姉ちゃんに付き合ってよ!!」
「今度な〜。」

そういってリビングの扉を閉めれば薄情者〜!と最後の恨み言を吐いて諦めたようだった。そういう引き際を弁えてるとこも可愛いよな〜と自室に戻る。待たせすぎたのか電話はとうに大人しくなっていて携帯を確認すれば着信は竜胆からのようだった。

「あ〜、そういえばなんか集まるとか何とかいってたっけ?」

梵天メンバーで集まるみたいなことを言ってたような...?ま、竜胆行ってるみたいだし遅れてっても大丈夫だろ。
そう結論づけてゆっくり身支度を整える。でるか、と玄関で靴を履いていると後ろからとことことこ、と名前が寄ってきた。

「今日の夕飯グラタンだからね!ドリアにしたいなら早めに言ってね。お米炊くから!りんちゃんにも伝えてて〜。」

その言葉に覚えてたらな〜と片手をひらひら振って応える。

「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「誰に言ってんだって。」

挨拶代わりに頭をぽんぽんと撫でて扉に手をかける。夕飯くらいは一緒に食ってやるか。そのためにもさっさと帰ってこねぇとな。

「じゃ、美味いメシよろしく〜。」
「いつも美味しいでしょ!」

軽口を叩きながら踏み出せば後ろから抗議の声。それに返事はせず扉を閉める。さて、さっさと終わらすかぁ。そうしてゆっくり足を踏み出した。


2021/07/10








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