昼下がりの本丸。今日は出陣もなくのんびりした一日で、暖かな陽気が気持ち良い。近侍である肥前忠広は、主である名前の部屋の前の縁側で柱にもたれかかって居た。
陽気が眠気を誘うのか眼はとろりと溶けていて、ふわふわと風に揺れる黒髪が可愛く見える。
「肥前くん、お団子食べる?」
先ほど厨で燭台切光忠に貰ったお団子を肥前に差し出す。肥前はいつも通り無愛想に「食う。」とだけ返事をして団子を受け取った。
肥前の隣に腰を下ろした名前は、自分の分の団子を頬張る。
いつもながら燭台切の手料理は美味しい。ご飯だけではなく甘味も得意なのだから、もう無敵である。更にはうちには歌仙兼定も居てくれているので、厨は2人に任せっきりだ。
「美味しいね」
「………ん。」
横を見ると肥前はもうすっかり食べ終わっていて、さすが食べる専門、なんてよく分からない感心をする。
私も早く食べてしまおうと団子に視線を戻した時、肩にぽす、と何かが乗っかる。驚いてまた隣を見ると、肥前の頭が肩に乗っていた。ふわふわの髪の毛が首元をくすぐる。
肥前が甘えるなんてすごく珍しい。と思えば肩にある頭の重みがぐんと増して、肥前が本当に寝てしまったのだと悟る。それでもいつもは一切甘えてこないので、肩を貸すだけでも嬉しかったりはする。
微かに聞こえる寝息が可愛くて、少しだけ頭を撫でてみた。ふわふわとした感触の髪は柔らかく名前の手に馴染む。いつもなら噛み付いて怒る肥前も、今はされるがままだ。
「ん……」
肥前が少し身動ぎする。起こしたかな?と思った瞬間、肩から肥前の頭がそろりと落ちて、名前の膝に収まった。
小さく丸まった姿はまるで猫みたいで、名前はくすりと笑う。
「いつもありがとう、肥前くん」
頭をふわふわと撫で、文句を言いながらも何だかんだで頑張ってくれる近侍に礼を言う。
最近は出陣が多かったから、たまにはこんな日も良いかもしれない。相変わらず雲ひとつない青空を仰いで、名前は大きく伸びをした。