そわそわ。そんな擬態語がぴったりと似合うくらい、僕たちの主である名前は出陣ゲート前をうろうろしていた。
 今日は第2部隊と第3部隊がそれぞれ出陣していた。第2部隊はたまに経路が開かれる大阪城、第3部隊は本能寺。
 近侍である僕、髭切と…えーと、まあ名前は忘れたけど、弟は第1部隊のため、主と皆の帰りを待っていた。

「主、少し落ち着いたらどう?」

 あちらへ行ったり、こちらへ行ったり。忙しなく動く主に声をかける。そんなに心配しなくても大阪城に出向いているのは練度の高い刀剣男士ばかりだし、本能寺だってそこまで無茶な編成はしていないはずだ。
 僕なんてのんびりお茶を飲んでいるというのに。弟丸が持ってきてくれた茶菓子を一口頬張り、一息つく。

「主にも茶を入れてあるぞ。少し休まないか?」
「そうそう。肘丸のお茶は美味しいよ?」
「膝丸だ、兄者!」

 弟の…まあ、名前なんてなんでも良いんだけれど。弟丸のお茶は本当に美味しい。けれど、主は不安そうにゲートの前に立ったままだ。

「まだ顕現したばかりの日向くんに出陣させるなんて、少し早かったかな?ああ、極になったとは言え五虎退には荷が重かったかも知れない。もし岩融になにかあったら部隊は全員無事じゃ済まないかも…」
「はいはい、ストップ」

 ひたすらに心配し続ける主を無理やり座らせる。脛丸はすかさず主にお茶を持たせて、休憩するように促した。
 それにしても、出陣する毎にこの様子では逆に主の身が心配だ。主が僕たちの事を大切に思ってくれているのは十分伝わるけど。

「心配いらないよ。みんな主の刀だもん。ちゃんと全員無事に帰ってくるよ」
「髭切…」
「そうだぞ、主。もし怪我をしていたとしても、手入れすればすぐに治る」
「膝丸も…」

 ありがとう、と主は少し落ち着いた様子でお茶を啜る。うんうん、今は慌てても仕方ないんだから、のんびりいかないとね。僕たちの言う事を聞いてくれた主の頭をいい子いい子と撫でておいた。

 その時、ゲートが淡い光を放つ。誰かが帰ってきたみたいだ。主ははっとしてゲートへ駆け寄る。
 今まで僕の隣に居たのに、そんなに心配して貰える出陣組を少しだけ羨ましいと思ったのは否定しない。嫉妬じゃないよ。少し羨ましいだけ。

「主、戻ったぞ!」
「小判沢山集めてきたばい!」
「あ、お菓子食べてる!いいな〜」
「みんな、おかえりなさい!」

 大阪城へ出向いていた第2部隊が帰還した。
 皆、帰還後は各々で動く。部隊長は結果報告、隊員は刀装の返却。その後の着替えなどは自由だ。
 今回の部隊長である…えーと、石通し?だっけ。からは、大阪城を何階まで進められたか報告を受けるみたい。

「それで、今回は…」
「ちょっと、岩融…!」

 報告を聞いていた主が、岩なんとかの話を遮る。何かあったのかと見れば、その腕には一筋の切り傷があった。

「この傷…!」
「がっはっは。これくらい何ともない」
「早く手入れしなきゃ」
「あ、主?報告がまだ終わっていないが…」

 石通しの言葉をまたも遮り、手入れ部屋へ連れて行こうとする主。うーん、僕が見るに軽傷…にもなっていないような傷。まあ、その傷が重なって僕たちは折れてしまうから。常に全快で居て欲しい主の気持ちも分からなくはない。
 と、その時またゲートから光が溢れた。次は第3部隊が帰ってきたかな?

「へし切長谷部、ただいま戻りました」
「疲れた〜!」
「主さま、ただいまです」

 戻ってきた第3部隊は、第2部隊よりも少し怪我が多いように見える。そんな第3部隊を見た主は青ざめて「少しでも怪我した人は全員手入れ部屋に来ること!」と大声で通達した。

 それは岩…なんとかのように軽傷にも満たないかすり傷のようなものも、全てという事。
 主の愛情をひしひし感じる僕たちは、止めることも断る事も出来ない。それどころか主の手入れは丁寧で、怪我だけでなく気まで浄化される為みんな大好きだ。

「髭切、お手伝いよろしくね?」

 こっそり主に耳打ちされ、近侍である事に優越感に似たものを覚える。もちろん、と応えると主は嬉しそうに微笑んだ。

 ああ、本当に僕らの主は心配性だ。