結局、担当者はこの件が政府にバレて懲戒免職を食らったらしい。今まで他の本丸からの苦情もあったようで、思っていたよりすんなり事は運んだ。
 次の担当者は優しいおじいさんで、うちの本丸の方針もよく理解してくれる良い人だった。

「主、茶を入れたぞ」
「ありがとう、膝丸」

 今日の仕事は一通り片付けてしまったので、自室で膝丸とのんびりする時間。膝丸が入れてくれたお茶をゆっくり啜る。丁度良い温度で落ち着く。

「な、なぁ主」
「なに?」

 どこかそわそわした様子で膝丸は目を逸らした。何か言いにくい事なのかな、と私は首を傾げる。
 次の言葉を待っていると、顔を赤くした膝丸から出たのはは思いもよらない一言だった。

「主は、せ、接吻…などはしたいと思わないのか?」
「えっ?!」

 急な事に私まで顔に熱が集まる。突然どうしたと言うんだろうか。

「あの日から…つい考えてしまうのだ。その…」

 あの日、と言うのは前任の担当者に私が襲われかけた日の事だろう。膝丸は言いにくそうに口をもごもごさせる。

「主はそういう事に興味は無いのかと…」

 言ったあとに膝丸はハッとした表情を見せ、「こ、これでは俺が興味があるみたいな言い方ではないか…!」とあたふたした。そんな膝丸が可愛く見えて、また笑ってしまう。

「すまない、嫌な事を思い出させてしまって…」

 しょげる膝丸に、膝丸が助けてくれたから大丈夫、と伝える。すると膝丸は嬉しそうに微笑んだ。
 お茶をまた1口啜り、先程の質問の答えを考える。

「うーん…興味ない訳じゃないけど…」

 そもそもそういう事は好きな者同士がする事であって。はっきり好きと言える人が居ない私にはあまり関係のない話に感じる。もちろん、膝丸は1番近い刀剣男士だけれど。好きかと聞かれると、他の刀剣男士達も好きだし、違いが分からない。

「そうか!じゃあ、俺にも可能性はあるんだな…?」

 ずい、と顔を寄せられる。切れ長の瞳がきらきらして見えて、思わず顔を伏せた。今、私、絶対に顔が赤い。

「主、耳まで真っ赤だぞ」

 すり、と頬から耳にかけて親指で撫でられ、さすがに膝丸!と怒る。ただ、顔が赤いせいで何も怖くないらしく、膝丸は笑うだけだった。

 膝丸が特別になる日も、そう遠くない。