落ちていた陽が登り始め、部屋を明るく照らす。時折唸ってはいるが、見る限りでは名前はきちんと眠れていた。約束したので一応起きるまではここに居ようと思う。
同じように一眠りしようかと座り直した時、背の戸が静かに開く。気配を感じて振り返れば、そこには想像通りの人物、紺炉が立っていた。

「…紅、ここで寝てたのか?」
「ンな訳ねェだろ」

名前を見て小声で返す。寝顔でも分かる名前の憔悴した表情に、紺炉は何かを悟ったようだった。

「心配か?」

投げられた言葉を背で受け止める。まァな、と小さく返すが紺炉は何も言わない。

「目の前で両親が死んだんだ。このご時世よくある話だろうが、それでも俺は手に届く奴は守りてェ」

紺炉なら俺がどう思ってるか言わなくても分かっているはずだが、あえて言葉にしておく。それは自分に対する決意でもあった。

「そうだな…名前が、自分の道を選べるようになれば良いが」
「あァ」

まだ名前と会って日は浅い。だが、一度に全てを失くしても努力している名前を助けてやりたいと思ったのは事実だ。

まだ此処に居るんだろ、と紺炉が昼寝用の掛け布団を置いてくれる。陽が登ったとは言え肌寒いと思っていた所だ。助かる。
紺炉はそのまま部屋を出て、静かに戸を閉めた。





ゆっくりと目を開けると、そこは少しだけ見慣れた和室の天井。ぼんやりする頭を傾けると、新門さんが座ったまま布団に包まり眠っていた。
どうして新門さんが私の部屋に?私は朝食を作るために厨に居たはず。それから…
徐々に戻る記憶の中に、新門さんが此処に居てくれると約束してくれた事を思い出す。
約束、守ってくれたんだな。
私の事を心配してくれたんだと思うとそれだけで胸がじわりと温まる。言い方はぶっきらぼうだけど、優しい人なのだと実感した。

ゆっくり起き上がるとすっかり太陽が出ている時間で、久しぶりの起床に伸びをする。
朝ごはん、大丈夫だったかな。恐らくもう昼前だろう。きちんと寝ると頭もすっきりした気がする。
お昼ご飯はちゃんと作ろうと立ち上がり、新門さんを起こす。

「新門さん、起きて下さい」

自分に合わせて寝てしまったのに起こすのは少し気が引けたが、どちらにせよお昼ご飯には起きてもらわないといけない。
肩を軽く揺すると、新門さんはすぐに目を覚ました。

「…ん。ふぁ……名前、眠れたか?」
「ご心配おかけてしてすみませんでした…おかげさまで眠れました」

記憶は途切れ途切れだが、新門さんが助けてくれたことには間違いない。
ぺこりと頭を下げると新門さんは「そうか」と一言だけ呟いて私の頭をわしわしと撫でる。
新門さんは頭を撫でるのが好きなのかな?前にも撫でられたことがあったな。
でも、新門さんに撫でられるのは嫌じゃない。
むしろ──

「昼飯、何にすんだ?」

突然の問いにはっとして顔を上げる。今、私は何を考えていたんだろう。
顔が赤い気がして、それを隠したくてすぐに立ち上がった。

「な、何にしましょう!新門さんは食べたいものありますか?!」

声が少し上ずって、また更に恥ずかしくなる。
必死に冷蔵庫の中身を思い出しながら、急いで厨へと向かった。