忙しい日というのは本丸にもあって、それは主に政府による命令で提出するものがあったり次の出陣に向けての準備だったり。そういうものが重なると審神者は私1人だけなので、どうしても空き時間が無くなってしまう。まあ、私が詰めて一気にやってしまいたいと言うのもあるんだけれど。つい休憩を忘れるとどっとくる疲れに身体は動きたくないと正直者になる。
もう今日は駄目だ。陽も落ちたし、今日は止めよう。我ながらよく頑張った。少しくらい、甘えても良いんじゃないだろうか。
なんて事を考えながら近侍である三日月がいつも座っている縁側へ向かう。
ひょこりと廊下の角から頭を出せば、そこにはやはり三日月宗近が座っていた。
「三日月〜!」
座っている三日月に横から思い切り抱き着く。三日月はいつもいい匂いがする。それは石鹸とも違う、何か花のような、優しい香り。この香りだけで癒される。
むぎゅう、と音がしそうな程抱き締めれば、三日月は特に驚いた様子もなく慣れた手つきで私の肩を寄せた。
「はっはっは。どうした主」
「主は疲れました!癒して下さい!」
「そうかそうか。」
突然の意味不明な命令にも動じない辺りさすがは三日月宗近。もしくは私の扱いに慣れてしまったのか。
抱き締めていた腕を解き、三日月の膝へ頭を降ろす。三日月は何も言わずに私の髪をさらさらと撫でた。優しい手つきが心地好くてそのまま寝てしまいそうになる。
本当ならいつも戦ってくれている刀剣男士を甘やかさないといけないはずなのに、私は駄目な審神者だなぁ。
「主がこうやって甘えるのは、俺だけか?」
突然の質問に閉じかけていた瞼が開いた。どういう意図があってその質問をしたのかは分からない。寝転んだままなので三日月の表情も見えない。
「そうだよ」
事実、私がこれほど甘えるのは三日月だけだ。他の刀剣男士にはそこそこ出来る審神者で通っている。はず。
「そうか。ではいつでも寄りかかって良いぞ」
いつもより声が嬉しそうに聞こえるのは気の所為ではないはず。三日月にやわやわと撫でられながら、私はそっと瞼を閉じた。