くるくる、くるくる。
店員が持ってきた甘い液体をたっぷりアイスコーヒーに注いだ名前は、幾分か楽しそうにそれを混ぜる。
そんな名前を、五条悟はテーブルを挟んでじっと見ていた。
名前が楽しそうに見えるのは、勘違いではないはずだ。それはきっと、二人きりの時間が久しぶりだからに他ならない。
仕事上、予定が合いづらいので恋人らしいことはたまにしか出来ない。名前も同じ呪術師だから理解はしていると思うが、寂しい思いをさせている事には違いなかった。
耳を澄ませば鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌な名前に、柄にもなく口元が緩む。
「悟?何か面白いことでもあった?」
元々大きな目を更に大きくして名前は首を傾げる。そんな姿ですら可愛い、と思ってしまう俺はもうきっとこいつから逃れられない。
ナイショ、と目を細めて自分もテーブルに置いてあったコーヒーを取れば、グラスについていた水滴が手を伝った。
名前は一瞬口を尖らせたけど、すぐにまた自分のグラスに意識を戻し、その甘さを堪能しているようだった。
名前も呪術師だし、俺と一緒に居ることの危険さはよく分かっているはずだ。お互いに承知の上で一緒にいる。
それでもやはり、考えずにはいられない。名前が居なくなった時のことを。
名前が俺にとって大切になればなるほど、失った時のことを考える。仕事上、お互いにいつ死んでもおかしくはない。俺の手の届くうちはもちろん守るつもりだ。
だが、手の届かないところに居る時は?攫われでもしてしまったら。
それが、俺のことを恨む呪霊のせいだったりしたら。俺は正気でいられるだろうか。
結論は出ないし、考えれば考えるほど眉間にシワが寄っていくのが分かる。
考えるのをやめようとサングラスを中指で押し上げた時、品の良さそうな店員がケーキをテーブルに運んで来た。
名前が注文した名前の難しいケーキは、テーブルの上で可愛らしく鎮座する。
フォークで丁度いい大きさに切り取られたそれは、そのままぱくり、と名前の口へと運び込まれた。
余程美味しかったのか大袈裟なくらいに目を輝かせる名前を見ていると、普段の呪術師の姿とはあまりにかけ離れていて。
いつもこうなら。この笑顔で居てくれれば。なんて。
「悟も食べる?」
ケーキをまたフォークに乗せ、次は自分の口ではなく俺の方へと向ける名前。ご丁寧に苺が乗せられているあたり、名前の優しさを感じる。
ん、とケーキを頬張ると、口いっぱいに丁寧な甘さが広がった。俺がケーキを食べたことが嬉しいのか、名前は満足気に微笑む。
二人で過ごせるのは、近いうちでは今日だけだ。明日からまた呪術師としての忙しい日々が再開する。
今この瞬間だけは、誰にも邪魔されないようにと心の隅で願った。