昨日の雨が嘘のように晴れ、本丸には暖かい日差しが降り注いでいた。縁側に出て伸びをすれば、風が頬を撫でて心地良い。
 審神者によって維持されているこの本丸も四季と様々な天気があり、維持している本人にもどんな天気になるかは当日になるまでわからない。
 本丸にも天気予報があればいいのに。誰が予測するんだろうって話だけれど。
 そんなどうでもいいことを考えながら庭に出ると、畑で雑草を摘んでいる陸奥守を見つけた。

「むつ君、内番?」
「おお、主。そうちや」

 この雑草摘みが終わったら新しい種を植えるのだと、眩しい笑顔を見せる陸奥守。雑草摘みすら楽しそうに見えるのは、いっそ彼の美徳ですらある。
 と、そこで内番は二人組のはずなのに陸奥守一人の姿しか見えないことに気づいた。

「あれ、今日は内番一人?」
「あー…本当は先生と一緒やったんじゃが…」

 苦笑いしながら頭をかく陸奥守に、色々察した。伊達に長年審神者をやっていない。
 先生、というのは南海太郎朝尊のことだろう。多分脱走したか、忘れているか、きっとそんなところだ。

「わかった、じゃあ私が手伝うよ!」

 腕まくりをして早速雑草を抜く体制に入る。こういう時、審神者の和服は不便だ。洋服ならすぐに袖が捲れるのに。
 陸奥守はというと私の返事を予想していなかったのか、目を丸くしてぽかんとした表情を見せた。

「あ、主にそげな事はさせられん!」

 慌てて私の袖を戻そうとする陸奥守と、手伝うことに意欲的な私。攻防一戦だったが、結局陸奥守が押しに負けて手伝うことになった。
 夏が過ぎ、すっかり秋めいているとは言え日差しが暑い。この中で一人畑の雑草抜きをしようとしていた陸奥守には感心する。
 終わったら二人でこっそりお団子食べよう。以前買ったまま戸棚に隠していたお団子を思い出し、目に留まる雑草たちを全て抜いていく。

「あ、」

 突然陸奥守が声を上げる。何かを見つけたような表情に陸奥守の視線の先をいくと、そこには秋桜が咲いていた。
 畑の横にある原っぱに自然に生えたであろう秋桜は見事に花開いていて、でもそれはよく見ないと通り過ぎてしまうようなこじんまりとした花だった。

「綺麗だね」

 本丸の平和に思わず笑みが溢れる。畑仕事をして、花を愛でて。こんなに平和だと普段の時間遡行軍との戦闘を忘れてしまいそうになる。
 陸奥守は徐に立ち上がると秋桜を一輪取り、私の頭にそっと付けた。

「よう似合おうとる」

 陸奥守はいつもの笑顔を見せるけれど、普段より少し頬が赤かったのは勘違いではないはず。照れ隠しからか軍手をしたままで頬を掻くものだから、顔に少し土が着いていた。
 そんな陸奥守を前に私も照れない訳がなくて、赤い顔を隠すように少し下に俯きながら礼をいう。

「あ、ありがとう…」
「わしは主の喜ぶ顔を見るんが一番好きじゃ」

 まっはっはと笑う陸奥守の笑顔がまた眩しくて、心の中に灯った気持ちを無視することは出来なそうだった。