任務に就くのはこれが初めてじゃない。
 今までも先生に言われて何度も呪霊を祓ってきたけれど、毎回気が重い事に違いはなかった。
準二級呪術師と言う位を受けて、少しばかり経つ。その位に恥じない様に毎日勉強と戦術を磨いているつもり。
 それでも私は、自分に自信がないままだった。

「はぁ…」

 帳から出て、つい短いため息をついてしまう。
 担当である補助監督に任務完了の連絡をした後、近くのベンチに座り込んだ。呪術師には呪霊と闘う以上どうしたって体力が必要で、能力だけでは補えない事はわかっている。
 自分の能力は把握しているつもりだけれど、まだまだ上手く扱えていない上に体力も覚束ない。
 同じ一年生で私よりよっぽどすごい術を扱う野薔薇ちゃんでも三級だと言うのに、こんな自分が準二級呪術師なんて位でいいのだろうか。そう考えてまた小さくため息を吐く。

「名前」

 突然上から聴き慣れた声が降ってくる。見上げるとそこには伏黒君が立っていた。同じ高専の一年生である伏黒君は私より上の二級呪術師で、とても強い。
 体力があるのはまぁ、男の子だし当たり前かも知れないけれど、それでも今の私からすると羨ましい。

「伏黒君、どうしてここに?」

 極力笑顔で返事をすると、伏黒君は短く息を吐いて私の隣にどかっと座った。
 伏黒君とはまだまだ短い付き合いで分からない事も多いけど、基本的には優しい人、だと思っている。

「…なんか悩んでるのか」
「え…」

 考えていた事を言い当てられた様な気がして、言葉に詰まる。私、そんなに思い詰めた表情で座ってたのかな。
 悩んでると言えば悩んでるんだけど、自分の情けなさみたいな所から来るものだから、どう言えばいいものかと視線を泳がせてしまう。

「言わねーとわかんねぇ」

 視線が泳ぐ私に対して、伏黒君は真っ直ぐに私を見る。逃げられないようで少し緊張する。どうしてそんな事を聞くのか気になったけれど、とても言える雰囲気ではなかった。

「えっと…準二級って言う等級に、自分が見合ってない気がして…」

 ぼそぼそとまた自信なさげに話してしまう。
 それでも伏黒君はちゃんと耳を傾けてくれるから、やっぱり優しい人だ。私の言葉を聞いて、伏黒君は一瞬考える素振りを見せた後、身体ごと私に向き直る。

「等級ってのは、周りが決めるもんだろ。周りがお前を認めてんだからお前も自分を認めてやれよ」

 そう言うとそのまま伏黒君の手がすっと伸びてきて、私の頭を軽く撫でた。
 俺は名前が頑張ってるの知ってる、と微笑みながら言われたら、頬に熱が集まるのも仕方ないと思う。
 赤い顔をどうにかしたくて、自分の両手でほっぺたを包んだ。

「あ、ありがとう…」

 なんとか礼の言葉を絞り出すと、満足したように伏黒君の手が下がる。
 どうしよう、なんだか恥ずかしくて伏黒君の顔が見れない。

「じゃ、帰るぞ」

 徐に伏黒君がベンチから立ち上がったかと思うと、私の前に立つ。

「お前危なっかしいから、迎えに来たんだった」

 小さく呟くと、先に歩いて行く伏黒君。
 わざわざ迎えに来てくれるだけでも優しいのに、ベンチで項垂れてる私を見て心配してくれたんだ。
 心臓のあたりがきゅ、と掴まれるような初めての感覚に戸惑いながら、私は前を歩く伏黒君を追いかけた。