私がヒーローに憧れたのは幼い頃。オールマイトがテレビで何人もの人々を救うその姿に衝撃を受けた。私も同じようなヒーローになりたいと思ったのを今でも覚えている。
でも、私の個性はヒーローに向いたものではなかった。ヒーローはヴィランとの戦闘が主。戦闘向きでは無い個性の上に運動センスもからっきしだった私が選んだ道は、ヒーローをサポートする事だった。
国内屈指の難関、雄英高校に入学したのもサポート科があるからだ。ヒーロー科に憧れがないと言えば嘘になる。でも、ここならヒーローを手助け出来る術が学べる。ヒーローになる事を諦めた私は、それだけで充分だった。
「苗字、居るか」
開発スタジオでの作業中、後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこにはヒーロー科の轟焦凍くんが立っていた。返事を返すと轟くんが足の踏み場を確認しながらそろそろとスタジオに入ってくる。いつもは発目さんもスタジオに篭っている事が多いのだけれど、今日は珍しく不在。なので、まだそれほど散らかっていない、はずだ。
作業道具を机に置き、轟くんの座れる場所を確保する。轟くんの手には先日私が渡したサポートアイテムがあった。
「これ、ありがとうな」
轟くんが試作品だったサポートアイテムを机に置く。サポート科ではヒーロー科から要望があったアイテムを作る授業があり、轟くんが要望を出したアイテムをたまたま私が作ることになった。轟くんの要望は実戦向けで、いかに実用化させるかはアイディアが試される。そこがサポートアイテムを作る上での面白いところでもあり、難しいところでもあった。
「どうだった?ちゃんと使えそうかな」
「ああ、悪くなかった」
まだ試作品なので、これから改良の余地はたくさんある。使ってみた感想を聞いて、より使用する轟くんに合わせた調整も必要だと思う。轟くんが教えてくれた使用感と改良点を忘れないようにメモを取った。
「ここなんだが、もう少し短くできないか?」
「ここね!私も思ってた」
アイテムは使いやすさの上にデザイン性も求められる。私はデザインに関してはあまり得意では無いから、どうしても使いやすさを優先させてしまうのだけれど。轟くんはデザインについてあまり言及しないタイプらしくてありがたい。デザイン的には長い方がお洒落に見えることもあるけれど、使いやすさを考えればもっと小型化するべきだしきっと出来るはずだ。今の機能を損なわないまま少し小さくして、そうすれば軽量化にもつながる。その為にはまず─
そこまで一気に考えて、目の前の轟くんを置き去りにしていることに気がついた。
「あ、ごめんなさい。一人で考えちゃって」
「いや、いい」
真顔でも綺麗なのに、目の前でこの顔面に微笑まれてしまっては流石に照れる。今はパワーローダー先生も不在にしていて、二人きりだと言うことを不意に思い出した。轟くんはアイテムの相談に来てくれてるのに何考えてるんだ私は。邪念を振り払うように、改良について考える。
「苗字はアイテム作るの好きなのか?」
徐に飛んできた質問に、返事を言い淀む。どう答えればいいか、自分の言葉にするのが難しかった。
「…うーん、最初はあんまり好きじゃなかったんだけど」
どうしようもなくヒーローに憧れた事、でも自分はヒーローになれないと気づいた事。それでも何か力になりたい、関わりたいと願った時にサポート科の存在を知った事。自分にはこれしかないと思った。ぽんぽんアイディアが出てくる訳じゃ無いし、今もサポート科として活躍してますとは言えないけれど。それでも自分の作ったアイテムを使用された時は嬉しい。やりがいももちろんある。そんな私の取り留めない話を、轟くんは真剣に聞いてくれた。
「そうか。きらきらしてていいな」
「そうでしょ!この子はもっと可愛くなるよ」
発目さんほどじゃないけど、私だって自分の発明品は可愛いと思う。ベイビーとまでは呼ばないけど。でも、試行錯誤して苦労して産み出した子供だから、可愛いっていう気持ちはすごくわかる。轟くんもその気持ちをわかってくれたのかな。なんて考えながらメモに次の回路設計を書いていると。
「いや、お前が」
真っ直ぐな瞳をこちらに向けて、轟くんがはっきりとそう口にした。お前、というのは私?てっきりこの試作品のアイテムだと思ったけど、私のことを褒めてくれたの?
突然落とされた爆弾が処理できず、思考を停止させてしまう。どう返事をしたらいいか分からず、私の唇は音を発しないままぱくぱくと動く。轟くんを見つめ返す事しか出来ない。
「これの話をする時、楽しそうだ」
そんな苗字を見るのは好きだ。と、口角を上げながら言うものだから、もう爆弾どころの騒ぎではなくなった。こんな表情を見せられて、ときめかない女子はいるのだろうか?彼が何を考えているかは計り知れないが、他意がないのだとしたらそれはそれでダメだとすら思う。
「どうした?」
固まったままの私を轟くんが首を傾げて覗き込む。眉が少し下がっていて、自分の発言が気に障ったかと不安になっている様だった。その表情すら可愛く見えて、轟くんが一部から天然って言われているのがわかったような気がした。
さようなら、私の平常心。こんにちは、恋心。
title by 確かに恋だった