休日の昼下がり。陽が窓から差し込み、観葉植物を照らす。霧吹きで軽く水をやると、それだけで生き生きとしているように見えた。折角の休みだし有意義に時間を過ごしたいとは思いつつ、特にやる事も思いつかない。
掃除は午前中にしたし、買い物は昨日した。何かテレビでも見ようかとリビングのソファに座った時に、ずっと買ったままで読めていなかった雑誌が目に入った。
よくあるファッション雑誌で、青いワンピースを着た女性が表紙を飾っている。そういえば最近は洋服を買ってなかったかも。久しぶりに何か買おうかなと考えながらぱらぱらと雑誌をめくっていると、ある特集記事で手が止まる。そこにはよく見知った彼、爆豪勝己の姿があった。
正確にはヒーロー姿でのインタビュー記事なので、この姿にはそこまで見慣れてはいない。けれどマスクの下にある仏頂面はいつもの彼のもので、興味なさそうに逸らされた視線にこのインタビューを無理矢理受けさせられたんだろうなと予想することが出来た。
内容も中々悲惨で、返答が全て一言で終わるのでもはやインタビューというよりは一問一答みたいになっている。この記事を書いた人に少し同情した。文章部分はそこそこに、あとは写真で埋めているという感じ。それでもやっぱりグラビアはかっこいいし、たまにあるカメラ目線の写真なんかは見入ってしまう。
「名前」
急に後ろから声をかけられて、振り向こうとした瞬間、肩に重みが乗る。逞しい腕がするりと首に伸び、あっという間に拘束されてしまう。
「勝己くん。起きたんだ」
「おー」
いつもに比べるとずいぶん柔らかい声で返事する勝己くん。昨日からの出勤で帰ってきたのが朝で、加えて今日は非番だったので珍しくこの時間まで眠っていた。勝己くんと一緒に生活するようになって知ったけど、ヒーローに定時というものは無いらしい。
まだ眠いと言わんばかりに後ろから私の肩に頭を乗せる勝己くん。こんなに甘えてくるのはあまり無いので、なんだか嬉しくなる。
「買ったンか、これ」
後ろから覗き込むように勝己くんが雑誌のページをぴらぴらと捲る。載っている事は知らずにたまたま、とも言えず、うん。と返事をしておいた。
「ヒーロースーツかっこいいね。ほら、この写真とか好き」
先ほど見ていたカメラ目線の写真を指さすと、勝己くんは怪訝そう、そして不機嫌そうな声で「あァ?」と唸った。首に絡まっている腕の力を強められる。普通に苦しかったので、腕を叩いて抗議の声を上げようとした時。
「紙ばっか見てんじゃねェよ。本物がここに居ンだろうが」
耳元でそう囁かれて、一気に顔に熱が集まる。確かにそうだ。普段一緒に居るのが当たり前になってしまっていたので、みんなの憧れのヒーローが恋人だということを忘れていた。
顔を赤くした私に満足したのか、勝己くんはフッと一瞬だけ笑った。そしてそのまま私の頬に手をかけて、唇を寄せる。一瞬だけの可愛らしいキスで唇は離れ、同時に首に絡まっていた腕からも解放される。
「腹減った」
リビングからキッチンへ向かう勝己くんはもう普段通りで。対して私は唇を離した瞬間の勝己くんの表情が頭から離れない。雑誌では絶対に見せないであろう表情を自分だけが見れている。その事実に少しだけ高揚感を感じつつ、雑誌を静かに閉じてキッチンへの足取りを辿った。