母が焔ビトになった夜、私の世界は一変した。
母の鎮魂をしてくれたのは第7特殊消防隊の新門紅丸さんで、他に身寄りもない私は新門さんの所に一旦お世話になることになった。
宛てがわれたのは広い和室で、自分には勿体ないくらいの良い部屋だった。

新門さんが手ぬぐいを届けてくれた後、いつまでも泣いていられない。と起き上がろうとした時に、ちょうど扉の外から声がかかった。

「入っても大丈夫か?」
「あ…は、はい!」

急いで涙の跡を隠そうと手ぬぐいで強引に拭いた。更に赤くなりそうだが、今はそんな事気にしている余裕はなかった。
声の主は第7特殊消防隊の中隊長である相模屋紺炉さんで、部屋と屋敷の説明を軽くしてくれるとの事だった。

「空いてる部屋ァ、沢山あるからな。好きに使ってくれ」

自室から出て、廊下を歩く。最初は知らない間に運ばれていたので気付かなかったが、すごく広い。さすが街の人達の家が壊れてしまっても大丈夫なくらいだ。

「何か必要なモンがあれば俺に言え。あとは…」

相模屋さんが何かを言いかけた所で、小さな子供二人が目の前を走り抜けていった。
余りに一瞬だったので何が起こったか分からなかったが、相模屋さんが少し困った顔で2人の名を呼ぶ。

「ヒナタ、ヒカゲ。ちょっとこっち来い」
「なんの用だよ〜」
「忙しいんだぞこっちは〜」

全く同じ顔を持つ2人の女の子、ヒナタとヒカゲ。相模屋さんの紹介によるとこの子達も特殊消防隊の隊員だと言うから驚きだ。
一人っ子だった名前は妹が出来たらこんな感じなのかな?と考えて少し顔が緩んだ。

大方の所を案内して貰い、最後についたのはキッチンだった。キッチンと言うには余りに和風で、どちらかと言えば厨という言葉が似合う。

「あー、ここでメシ作ってんだけどな、第7には女が居ねェから…」

みんなで当番制にしてるんだが、料理が上手い奴が居なくてな。食いたいモンがあれば適当に買ってきてくれて構わねェんだが、と頭をガシガシかきながら相模屋さんは呟く。
それなら、私の出番かもしれない。

「私、作りましょうか?」
「なんだって?!」

思ってもいなかった申し出だったようで、相模屋さんは目を大きく見開いた。家でもご飯はよく作っていたし、問題ないと思う。それに家に置いてもらうのに、何もしないのは嫌だった。

「任せてください!リクエスト聞きますね」

張り切ってそう伝えると、相模屋さんは笑顔で礼を返してくれた。
その後ふと私の後ろに視線をやったので振り返りってみると、新門さんが立っていた。

「若。今名前に屋敷の説明してたとこです」
「ああ。お前がメシ作るんだって?」
「は、はい」

大隊長、という地位の人にご飯を作った事がないので些か緊張する。口に合えばいいが、そもそも栄養面なども考えた方が良いのだろうか。
ぐるぐると考え出してしまった私に新門さんがふ、と笑う。

「…ちったァ元気になったか」

目を細めて頭を撫でられた。撫でる、と言うよりはぐしゃぐしゃと混ぜる感じだったが。それでも手のひらの暖かさを感じた。
メシ、楽しみにしてる。とそう言い残して新門さんは厨を後にする。
髪がぐしゃぐしゃになった私を見て、相模屋さんは「不器用なりに、若もあんたを心配してんだ。」と優しく笑った。