ラキオに好きだ、と伝えてみた。

 普段、議論中に他人から攻撃でもされれば長々と反論する彼なのに、今はというと言葉を発する事もせず長いまつ毛を一度はためかせただけだ。
 罵倒されると覚悟していた。このループでのラキオと仲は悪くないけれど、彼が他人の好意に対して素直に受け取っているのを見た事がない。
 勇気を出して伝えたのに、無言の対応は想像していなかった。いっそ罵倒された方が幾分かマシな気がする。
 狭い個室に二人きり。顔色ひとつ変えないラキオをちらりと見て、居た堪れなくなって視線を逸らした。

「それで、君の望みはなンだい?僕に協力して欲しいのかな?それとももしや、僕がグノーシアだと予想して命乞いでもしにきたの?」

 まあ僕はグノーシア汚染なンてされてないけど。と変わらず表情を崩さないラキオに、そうきたか、と心の中で一人納得する。なるほど、この状況なら下心を疑われるのも仕方ない。
 私は今回エンジニアで、ラキオを調べた。だから彼が乗員だと分かっている。けれど、他にもエンジニアを名乗り出てる人が居たから、私が本当のエンジニアかどうか彼は分からない。しかもそれを証明する術も持っていない。これならお互いに留守番のループの時に伝えるべきだったかな、と少し反省する。

「…そのままの意味だよ、ラキオが好き。」

 他意なんて無い。もちろんラキオをどうこうしたいと言う想いも別段ない。ただ、好きだった。
 部屋を訪ねれば研究の手伝いをさせてくれたり、不機嫌そうにクイズを出してくれる所。そのクイズを外した時の方が当てた時より嬉しそうで、しかも解説までしてくれたりする所。ロジックが高すぎてグノーシア仲間の時は墓穴を掘る所、周りからヘイトを買いすぎてすぐにコールドスリープしちゃう所。でも、意外と優しくて、たまに他人を想う性格が見える所。
 ループする度に、ラキオの事をどんどん好きになる。一度自分の中で気付いてしまった気持ちは、止め方がわからなかった。
 いつだったか、1度だけセツにこの気持ちについて話したことがある。セツは目を見開いて心底驚いた様子だった。ラキオのどこがいいの、と言わんばかりの表情に苦笑した覚えがある。今のループのセツは、覚えているだろうか。

「…君、こんな状況で告白だなンて悪趣味だな。」

 確かに、自分でもそう思う。自分は何度もループして、正直この状況に慣れてきている部分がある。けれど他の皆はグノーシア騒動に巻き込まれてまだたった2日目だ。
 ループを重ねる度に自分の記憶と想いだけが積もる。あまりに不公平だ。私はこんなにもラキオのことを知っていて、こんなにも好きなのに。
 それと同時に、また次があるという気持ちも湧いてくる。例えば今回失敗してコールドスリープされるか、もしくはグノーシアに襲撃されたとしても、どうせまた新しいループが始まる。私とセツ以外はリセットされる。ならば今回だけ、ラキオに気持ちを伝えても良いんじゃないか。いつも心を鬼にして好きな人を疑っているのだ。ラキオが乗員だと確定している今回くらい、いいじゃないか。
 気持ちが溢れて行動になり、そうして伝えてみたものの結果はこうだ。良い返事が来ることはないと予想していたはずなのに、面と向かって怪訝な顔をされると辛くなる。

「…ごめん、急に変なこと言って。忘れて。」

 やっぱり、伝えるべきじゃなかったのかもしれない。完全に独りよがりだった。恥ずかしくて早く次のループに行ってしまいたいとすら思う。何を期待していた訳でもないのに、勝手に気持ちを伝えて勝手に落ち込むなんて面倒な女だと自分で思う。
 一度俯いた顔は上げられず、そのまま部屋を去ろうとする。踵を返した瞬間、腕を掴まれた。見た目は細いのに意外と力があるんだな、なんて変に意識してしまって、頬が熱くなるのが分かる。

「待ちなよ。君だけ一方的に感情を伝えて勝手に逃げるつもり?許さないよ、そンな事。」

 それは、ラキオの想いも教えてくれるということなのだろうか。静かに期待を潜めてラキオの次の言葉を待つ。けれど彼の口は真っ直ぐ結ばれたままで、何も発してはくれない。
 2人だけの空間に無音が訪れる。気まずい空気の中逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、腕をしっかり掴まれてしまっている。振りほどくのも少し違う気がしたのでそのまま待っていると、ラキオが小声で何かを呟いた。
 議論中はもちろん、誰に対しても声高々に話すラキオがこんなに小声で話すなんて。

「ラ、ラキオ…?」

 耳を傾けても聞き取れず、顔を覗き込む形で聞き返す。すると、視線を逸らしていたラキオが私の目を真っ直ぐ見た。

「うるさいな。これから君の事を知るのも一興だと言っているンだ。」

 めずらしく照れた様子のラキオの顔を目に焼きつける。こんなループ初めてだ。ラキオも照れることがある。特記事項を勝手に増やしておこう。事項が増えるのは銀の鍵だって喜ぶはずだ。
 明日の議論どころか、今夜の襲撃だって2人とも乗り切れるか分からない。特にラキオは乗員なので狙われても致し方ない。こういう時私が守護天使なら、迷わずラキオを守るのに。なんて役割の乱用にも程がある事を考える。
 隣に立つラキオは心做しか少し楽しそうで、この幸せな時間を思い出せば次のループが始まってもまた頑張れると、そう思った。