案外悪くはない

怖いのだと口に出してしまえば何もかもが崩れていくような気がして、張り詰めた糸をどこまでもピンと伸ばせばいつの間にかほんの少し触れれば千切れてしまいそうな程になっていた。

「……夢ばかり追ってはいられないじゃないですか」

振り絞って抵抗するつもりで吐き出したセリフはきちんと最後まで伝わっていただろうか。夢見る少女じゃいられない、何の曲だったっけ。覚えてはいないけれどそんなフレーズの歌があった気がする。「大人なんだからそんなことはやめなさい」「そういうので食べていけるのは一握りだけよ」「働いて家計を助けるくらいしなさい」「舞台は見るだけで充分でしょ」私の夢を否定する言葉たちを否定できなかったのも私自身だ。けれど、その夢を追いかける勇気が出なかったのも私自身で。そんな自分のことが昔から嫌いで、誰にでもいい顔をして、相手が求める答えを出してきた。そうしていれば、いい子でいられたから。別に深い理由はない。ただ、自分の行動にいつだって自信が持てなかったから。独り善がりな承認欲求を満たすためにそうしていただけだ。

「…要領が悪いんだよね」

ぎゅっと握りしめた手の甲ばかりを見つめていたら、茅ヶ崎さんの声が降ってきた。それは比喩でも何でもなく、確かに今の私にとっては"声が降ってきた"ような感覚だったのだ。

「ホントめんどくさい性格してるよはなは」

一番言われたくない人に言われてしまった気がする。少しだけむっとして顔を上げれば、茅ヶ崎さんと視線がピタリと合った。笑っていた。いつものような完璧な笑顔ではなくて、呆れたようにといった方がいいかもしれない。今にも大きなため息をつきそうな顔をして、ポンと私の頭に手を置いた。

「ち、ちが?」
「…じゃ、そろそろ体力回復するしランク上げ励むけど」
「はぁ、」

少しだけ、離れていく手のひらの感触が名残惜しいような気がしたけれど。そんな気がしたのもつかの間、去り際に手の動きが止まったかと思えばグシャグシャと私の頭を掻き回す。

「茅ヶ崎さん?!」
「よし」
「いや、セット崩れたんですけど。よしじゃないです」

ついにゲームのしすぎで頭でもおかしくなったんじゃないかと内心悪態を付きながら、心なしか明るくなったような視界に、頬が緩んでいくような気がした。